表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォックスレイン→ケルベロスヘッズ  作者: ぎじえ・いり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

第1話 キュリオスゲーム

 ようやくケルベロスヘッズを始められる時が来た。

 このゲームをやりたいな、って思った理由はただひとつ、それはヒラエスシステムだ。同じキュリオスゲーム社製の他のゲームから自分が育てたキャラクターをコンバートできる画期的なシステムで、それにはサービス終了してしまったゲームも含まれている。

 つまり多くの課金と時間を費やしたにも関わらず、サービス終了してしまうゲームのデータが今後は資産として残せるに等しい。

 フォックスレイン。

 その名前を思い出すだけで、いくつもの思い出が溢れ出す。

 出会ったのは大学時代。

 当時はまだ18歳以上という年齢制限のあったフルダイブゲームがついに始められるということで、バイトに明け暮れてようやく手に入れたHE(ホムンクルスエンジン)にインストールした記念すべき最初のゲーム。

 ある程度やりこんだ頃に知り合ったフレンドに誘われて興味本位で他のゲームも試してみたけど、結局学生時代の大半をこのゲームに費やすことになった。

 ゲームと大学の講義、課題以外の時間は課金するためのバイトを睡眠時間を削ってこなして、今思えば本当に良くあんな生活ができたものだって我ながら感心する。

 スタンダードな剣と魔法のファンタジー世界でも、その中に入って全方位を見回し、風を感じ、大地を踏みしめ自分の足で立っている実感はそこに居るだけで感動した。ほどよいリアル感とデフォルメのバランスでありながら実際に自分で動いて会話していても違和感のないキャラクタークリエイトはNPCノンプレイヤーキャラクターPCプレイヤーキャラクター問わずに会話して一緒に行動しているだけでワクワクした。

 社会人になってからは、学生時代ほど時間が使えなくても最大限に有給休暇を使い切り、君はいつも目の下にクマがあるけどちゃんと寝ているのか?体調管理も仕事の内だぞ、と嫌味を言われ続けるほどには毎日プレイしていた。

 そんなゲームもついに8周年時に翌年のサービス終了を発表。

 今でも当時のプレイヤーから口に出る伝説の世界崩壊エンディングをゲーム内で迎え、そして私のゲーム生活も終わりを告げた。

 燃え尽きた。

 ゲームどころかアニメ、ドラマ、映画、漫画、小説、そういった多くのコンテンツからかなりの時間、距離を置くほどに燃え尽きてしまった。

 大分経って落ち着いてから、他のゲームも試してみた。

 でも他のゲームでは違和感をすぐに覚えてしまった。

 見える景色やアバターに、ちょっとした動作に感じる演出感、操作感の違い。

 何よりも新たにクリエイトしたキャラクターがなんだか自分自身の分身とはどうしても思えなかった。

 同じような外見にしても、似たようなゲームシステムでも、同じキュリオス製のゲームでも。

 自分はもう「八月朔日ほづみ」ではないんだな、って思うと冷めてしまう自分がいた。

 その「八月朔日」にもう一度なれる。それだけじゃない。あのゲームでやりのこしてしまったことにも再挑戦できる可能性がある。深掘りはされていなかったものの、言及されていた再現ボスとあのスクリーンショット。もしも本当に再戦できるというのなら、次こそは誰も成し得なかったアレの討滅を果たしたい。

 私は準備を始めた。本当の全力を注ぎ込める環境づくりを。

 そしてケルベロスヘッズのサービス開始から2年目、ヒラエスシステム実装のアップデート日の前日に仕事を辞めた。

 特にお金を使う趣味もなく、周りが結婚してリアルの人付き合いも減っていたから貯金は結構な額がある。生活の心配はない。

 新車が買える値段も掛けてHEも最新、最高パフォーマンスの物に更新した。外科的な手術を伴うBMIブレインマシンインターフェイスも普及が進みつつあるけど、頭蓋骨に穴を開けて、そこにBMIで蓋をするというのは費用的にも、たまに報道される事故や感染症リスクから考えても、ちょっとまだ早いと思えたので、旧来の手術不要の非侵食型での最高傑作と呼ばれているHE第7世代Libraのプレミアムモデルにした。最初に買ったのが中古の第2世代Taurusだったので、まんまフルフェイスヘルメットだったアレに比べると、圧倒的に軽くて負担の少ないヘッドセット型なのが隔世の感がある。

 長時間のフルダイブでも体の負担を最小限にする専用のカプセル型のゲーミングソファーシートを部屋に据え付け、通信サービス会社も最も回線が太いところに変えた。

 そう、私はガチなのだ。

 これで万が一にもクソゲーだったらキュリオスゲーム社を訴えることも辞さないのである。

 まるで初めてフルダイブゲームにログインした時みたいにドキドキしながらシートに仰向けに横たわる。

 もうケルベロスヘッズはインストール済みだ。

 食事と水分と睡眠も十分。しこたま寝て、しっかり食べた。食事は冷蔵庫にも冷凍庫にも詰まっているし、エナドリも箱ごとある。とりあえず1週間はケルベロスヘッズ以外のどこにも行く必要はない。

 いよいよだ。

 いよいよ私は八月朔日へと戻る。

 不安なのはフォックスレインのラスト、高レア武器のことごとくをお祭り気分で修復不可能状態になるまで使い尽くした。

 丸裸ではないとはいえ、本当のラストのラスト、サ終時の状態だとスキル、ステータスはともかく、装備はまともなのがどれほど残っていたのか。

 そもそもコンバートというのは完全移行を示さない。ステータス、武器、防具、アイテム、ゲーム内通貨、習得したスキルや魔法はどこまで変換、移行されるのか。アバターもどこまで再現されるのか。

 事前にケルベロスヘッズについてはネットや実況動画でネタバレにならない程度に調べたものの、当然コンバート無しの新規スタートしたプレイヤーの情報しかない。コンバートでのテストプレイは基本非公開だったようで、いくつかの動画とテストショットが公開されたのみ。その動画もフォックスレインではなく他のゲームからのコンバートだった。

 本当はテストプレイにも参加したかったけど、抽選には落ちてしまった。そもそも退職願を出してからは割と修羅場で今日、こうして五体満足でシートに体を預けられたのも嘘みたいだ。

 そうだ、念の為、メールもメッセも、SNSも電話も、あらゆる通知を切っておこう。

 家族に何か万が一があったら困るけど、先週電話した限りでは元気そうだったし、不慮の事故でもなければそうそう何かは起こるまい。

 それよりもあの分際モンが引き継ぎ資料を良く確認もせずに連絡してくる方が確率はよほど高い。

 「これをやったのは誰だ?」

 と言って、誰がやったのか分かっているのにわざわざ部内の全員に問いかける「分際モン」ことクソ上司が脳裏によぎって思わず頭を振る。

 もう正式に辞めてきた会社だ。

 今更何を言われようが知ったこっちゃない。

 さあ、すべての準備は整った。

 ハローワールド。

 ハローケルベロスヘッズ。

 そしてハロー八月朔日。

 私はついに帰ってきたぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ