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第6話 気づいたこと

 少年はみずからをプラムと名乗った。


「あの……、助けてくれてどうもありがとう。兜の人は変な恰好なのに、とっても強いんだね」


「兜の人じゃありません。クライシス様ですッ! あとマスターは変な恰好でもありません。……かっ、可愛いもん!」


 自分のご主人様に対するプラムの態度が、やや馴れ馴れしいと感じたペペロンチーノは、不満げな表情でじとりと彼の事を睨みつけた。

 ただ、クライシスの現在の装備(花柄ローブやトンガリ靴)の見た目に関する文句だけは、ペペロンチーノも完全に否定することが出来なかった。


 プラムの着ていた服もゴーレムに追いかけ回されていたせいで土や泥で汚くなってはいたが、旅装とは違って定期的に洗濯がされていることが分かった。彼は間違いなくこの辺りで定住している集落の子だろう。

 早速クライシスは、プラムにこの周辺の地理について教えてもらおうと考えた。

 しかしそれよりも先にプラムの方から、クライシス達にこう尋ねてきたのだ。


「あのさー。魔物と戦うってことは、お姉ちゃん達も冒険者なの?」


「ええ。彼女は違いますが、ワタシ様は冒険者です」


「やっぱり! じゃあさ、兜の人も村のダンジョンに挑戦しに来たんだよね!」


「村のダンジョン???」


 どうやらプラムは、少し勘違いをしているようだった。

 人里の中にダンジョンがあるなどと、クライシスは聞いたこともないのだ。


「ザクロ村には、ダンジョンに挑戦する冒険者が毎日のようにたくさんやってくるんだ」


 プラムはどこか楽しそうに、自分の村にあるというダンジョンについて語った。


「ザクロ村のエルダーツリーダンジョン! ……深層には金貨や宝石が山のように眠っていると言われているが、いまだ誰も攻略者が現れていないのであるッ。 今じゃあ村の名物さ!」


「随分語りが上手いですね」


「へへ。僕は宿屋の息子だからさ、冒険者相手にいつもやってるのさ」


 プラムの話を聞きながら、クライシスは横にいたペペロンチーノの方にさりげなく視線を送った。

 視線に気づいたペペロンチーノは、すぐさまポッと頬を赤らめさせる。だがその後にクライシスのアイコンタクトの意図を理解すると、彼女は首を横に振った。


(いいえ、私もザクロ村という場所は聞いたことがありません)


(そうですか……)


 するとクライシスは、プラムにこう尋ねた。


「プラムさん。そのザクロ村という場所は、グレイテストランドのどの辺りにあるのか分かりますか?」


 グレイテストランドというのが、クライシス達がふだん活動拠点にしている地域を包括的な括りであらわした名前であった。

 だがそれを聞くと、プラムは物悲しそうにかぶりを振った。


「ごめん、たぶん僕が子供だからだ。 グレイテストランドなんて場所は一度も聞いたことがないよ」


「そうなんですか」


 プラムはさきほどから村のダンジョンに全く興味を示さないクライシス達を見て、自分が勘違いをしていた事に気付きはじめた。


「もしかして…… 兜の人はザクロ村のダンジョンに挑戦しに来たんじゃなかったの?」


 きっとプラムは、自分たちがダンジョンに挑む冒険者だと思っていたから、あんなに楽しそうに村のダンジョンについて語ってくれたのだろう。

 だがそうじゃないかもしれないと気づくと、プラムは悲しそうな目でこちらを見上げていた。


 だからというわけではないがクライシスはその時、すぐにはNOと言うことを躊躇した。

 彼のいうザクロ村にいけばおそらく大人もいる。それに冒険者も多く集まるという。

 きっと情報収集にはもってこいの場所だろうと思ったからだ。


 少し考えた後、クライシスは言った。


「……いえ。我々も村には向かおうとしてはいたのですが、実は途中で道に迷ってしまいまして」


「なぁーんだ、そうだったのか! ならおいでよ。助けてくれたお礼に、ぼくが村まで案内してあげるよ!」


「それは助かりますよ。ぜひおねがいします」


「さぁ、ついてきて!」



 そうして二人は、うまいことザクロ村まで案内してもらえる事になったのだった。


 だが、クライシスの中にはまだ、ダンジョンがあるという聞いたことの無い名前の村や、周囲に広がる見たことがない赤褐色の森など、気がかりな事がたくさん残っていた。


 ─こうも我々にとって未知の事象が度重なって起こるなんて……ここはもしかしたら─


 するとその時、突然ペペロンチーノが小さな悲鳴をあげてクライシスを呼び止めた。


「どうしましたかペペさん!?」


「マスターッ! あ、あれを見てくださいっ」


「ん、あれは……」


 とても驚いた表情をみせながら、彼女は遠くの方にある景色を指さしていた。

 その先にあったのは、世界を分かつ大いなる山─インジェスだった。


 頂上のクレーターを覆い隠すように、四方からはそれぞれサーベルの如く尖鋭的で、かつ巨大な岩壁が反り立っている。

 極寒の気象と狂った磁場嵐の影響により、たとえよく鍛えられた冒険者だとしても、ただ歩くことさえ困難を極めた。

 さらには、過酷な環境で生き抜いてきた狂暴な魔物の住みかでもあるため、インジェスは別名、人喰い山ともよばれていた。


 だがしかし、そこにあったインジェスの山容は、クライシスがいつも見ている物とは少し違っていたのだ。

 その事実に気づいたとき、彼は少しパニックになりかけた。


「ああ、ワタシ様の目はどうにかなってしまったのだろうか? あれは紛れもなくインジェスだがそうでない。 左右が反転してしまっている!!!」


「クライシス様。これは一体どういう事なのでしょうか」


「おそらくですが……我々は今、インジェスの反対側にいるのでしょう。 ここは、グレイテストランドの外側、向こう側の世界(ファントムレギオン)なんだ!!!」

ファントムレギオンは、(英語)幻phantomと(ドイツ語)地域Regionの造語です。

なんとなく響きがカッコイイので決めました。

グレイテストランドの住民にとっては、インジェスの向こう側の世界はまさに幻のような未知の領域であるということです。


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