第59話 デスパレート・アタック
既に極大剣奥義は発動状態にあった。
もし誤って一度でも剣を振り下ろせば、その瞬間に絶大な威力の斬撃波はあらぬ方向に飛んでいくことになる。
「くっ、退け……。そこを退けッ!!!」
「ギははッ、ヒヒ……」
手下のゴブリン共の乱入により、クライシスの一撃は防がれてしまった。
この極めて強力な奥義は連続では放てない。そのため一度で確実に決める必要があり、躊躇せざる得なかったのだ。
しかし、標的であるホブゴブリンがいるのはほんの数十メートル先の母屋の中。視界に映る範囲だ。
この程度の距離ならば、多少のごり押しでも当たるはず。クライシスはそう目安をつけた。
─コイツらごと、オメガのオーラに巻き込んでやる!─
鷲掴みにされたままのアンは、変わらす危険な状況にある。時間は刻一刻と迫っている。
ゴブリンと前方のホブを交互に一瞥すると、クライシスは極大剣を天に構えたまま後ろに飛びのく。
そしてその反動を利用し、エグゼキュートオメガの斬撃波を放つべく、再び前方向へ勢いよく斬り下ろした。
「ハァァァーッーー!!」
だがその直前、彼は体の奥深くに突き刺さるような鈍い感触と共に激烈な痛みを感じる事となった。
─グサッ
「う゛っ……!」
クライシスは思わず膝をつく。
後ろからもう一体、群れの中の一匹が近づいてきていたのだ。
彼は毒の塗られた短剣で、背中を貫かれていた。
額から大粒の汗が次々と流れ落ち、身体はガクガクと痙攣し始めた。
それでもクライシスはすぐに立ち上がって、再び攻撃体勢を整えようとする。
だが前方から、先ほどに二体のゴブリン共がゆっくりと近づいてきていた。
地面に這いつくばるクライシスのことを下卑た笑みで見下しながら、棍棒をぶんぶんと振り回す。
「ギヒヒッ、ギヒヒッ」
「ギヒャヒャヒャ!!!」
そうしていたぶるように、何度も頭を殴りつけてきた。
今の消耗したクライシスでは極大剣奥義の維持に精一杯で、反抗する力さえ残っていなかった。立ち上がることが出来ない。
破魔の兜の隙間から、吐血した血が滴り落ちる。
「く……ッ」
状況は絶対絶命だった。
だが、その時……!
「ギヒャヒャヒ……」
─ビューンッ
「……ギャィ?!?」
突如、いずこから高速で放たれた魔鉱石の欠片。
それはクライシスの正面にいたゴブリンの頭を正確に貫いたのだ。
すぐにその魔鉱石が飛んできた方向に目線を向ける。そこに居たのは首輪のついた年老いたカーバンクルだった。
クライシスはまだその魔物が誰のペットなのかは知らなかった。だがすぐ近くでレフリー村長がのこりのゴブリンを狩っている所が見え、すべてを悟った。
「今だッ、突き進めッッ!! 狂戦士クライシス!!!」
レフリーは自分のサーベルを掲げながら、クライシスに向かってそう叫んだ。
直後、再びキティちゃんが魔力で魔鉱石を射出。
ゴブリンは二体とも倒れ、邪魔者も消え去った。
(レフリー! 感謝します……っ)
クライシスは、自分に残された最後の力を振り絞った。
母屋の中にいるホブゴブリンに狙いを定めると、身命を賭した一撃を放つ。
「極大剣奥義:エグゼキュートオメガ」
─キーーー ー ー …ッ ………… … … ン… ……ジ、ジバババッ バン!!!
剣から煌々と放たれていたマナの光は、斬撃のオーラへと集束された。
最低出力だったため斬撃波じたいはそこまで大きなものではなく、むしろか細いともいえた。
だが、ただ一か所に集まった高エネルギーの光の集束であるには変わらない。
それは目標に向かって高速で直進。
そしてホブゴブリンに直撃すると同時に、オーラの大爆発を起こした。
もちろん土や泥で作られた母屋なんか、ひとたまりもない。アーツの衝撃で粉々に爆散し、空からは瓦礫の山がふりそそぐことになった。
「ね、ねえちゃァァーーーーんッ!?!!!???!」
プラムは途端に顔面蒼白になり、おそらく生き埋めになっているであろう姉の元へと慌てて走って行った。
「こりゃぁ、いくらなんでもやりすぎじゃ~」
残りのゴブリンを狩っていたレフリーも、急いで助太刀しようとプラムの元に駆け付けていく。
群れの生き残ったゴブリンたちは、家が爆散する轟音を聞くと、驚き散り散りになって逃げていった。
「……しまったっ。倒した後のことまでは、ちっとも考えていませんでした…………」
クライシスはそう言うと、その瞬間に全身から力が抜けていくようにそのまま前のめりに倒れた。
先程受けた短剣の毒や、それまで戦闘の傷が祟ったのだ。
その時の彼のHPは、ほとんど0に等しかった。




