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第23話 ヤンデレ

 離れ屋から外に出ると直ちに、ペペロンチーノはすぐそばの壁際にマルティを追いつめた。


「ねえ、マルティ。今ならまだ許してあげるよ? だからもう、私のマスターにあんな風にぶりっ子して近づかないでねっ。マスターもすごい気持ち悪がってたよ。ねっ、分かった!?」


 離れ屋の土壁と自分の胸の間で挟み撃ちにして、彼女が簡単に逃げられないようにしながら言葉や強迫的な態度で圧をかける。

 ペペロンチーノにとって、さっきまでのマルティの様子は見過ごせない物だと判断したのだ。


 だがマルティは、それでひるんだりする様子もなく、鼻で笑いながらこう答えた。


「へへへ。そうでしたっけー? でもクライシスさんは、アタシにとっても優しくしてくれてましたよ。どっちかって言えば、むしろペペロンチーノさんの下ネタにドン引いてませんでした? うへうへ」


「は、はぁーーッ?! そんなわけないじゃん!! そんなわけ、ないもん……」


「あれぇ。もしかして自信がないんスかぁ? アッハ~、図星でごめんなさいッス」


「むかか!」


 二人は互いをキリリと睨み合う。


 まだ離れ屋の近くにいたプラムは、運悪く少女たちの激しい口論を目撃してしまっていた。身の危険を感じ、慌ててそこから逃げ出した。

 また離れ屋の中にいたクライシスも、二人の会話の一部始終を聞いてしまっていた。

 だが彼には体力の消耗のせいで、喧嘩の仲裁に入る気力も無かったため、消音魔法を使いそのまま眠りに入った。


(はい。何も聞こえなかった。ワタシ様はなにも聞いてませーん……)



 警告するつもりが逆にマルティに煽られ返され、一瞬だけ取り乱してしまった。

 だがペペロンチーノは咳払いをすると、再び彼女を問い詰めはじめた。


「そもそもさ。最初会ったときなんかは、あなたってマスターにもかなり反抗的だったじゃん。なのに、どうして今はそんなにデレデレしてるのよっ」


「いやだなー。別にペペロンチーノさんみたいに、卑しくデレデレなんかしてないッスよ」


(はぁ?)


「でもまあ、クライシスさんの事はすごい冒険者だなぁとは思っていますッスけど」


 するとマルティは、自らの心境の変化の理由について語った。


「たしかに初めてみた時は、ロクな装備もないくせにパーティーに入れなんて言ってきて正直迷惑してましたよ。ですけど実際のクライシスさんは、他の冒険者とは比べ物にならないくらい強かったし、とても物知りです。なのに全然威張らないし頼りになるし……これで印象が変わらないっていう方が無理じゃないッスか?」


「うんうん。まあマスターは最高で最強だからねっ!」


 それを聞いたペペロンチーノは、まるで自分が褒められているかのように嬉しそうに笑みを浮かべた。


「あと、素顔も結構イケメンだったし…// うへへっ」


「??!?」


 無論、マルティの感じた理由はそれだけでは無かったが、クライシスの隠された素顔を見た時のインパクトもそれなりに大きかった。


 目のまえでマルティが頬を赤らめるのを見たペペロンチーノは、彼女が自分にとって危険な存在だと悟った。

 そして、知りたくなかったが問題の核心について尋ねる。


「あ、あのさぁ…… マルティはクライシス様のこと、どう思ってるの?」


「え?それってどういう意味」


「だからそのぉー」


 そう言ったペペロンチーノは口元を引き締め、やけに緊張した面持ちだった。

 それを見て、マルティは彼女の意図するものを何となく察した。


「あぁー… なるほどなるほど(ああいうのがタイプか)」


 どうやらペペロンチーノは、クライシスに恋心を抱いているらしい。

 それを知ったマルティは少し嘘を言ってからかってみようとも考えた。だがペペロンチーノの様子が少々おかしい事に気づく。

 先ほどから、ワナワナと肩を震わせているのだ。


「ねえ教えてよ! うううッ、じゃないと私……!」


 クライシスの寵愛が他の者に取られるのではないか。そう不安に駆られたペペロンチーノは、そのとき無意識にブラッドスキルを発動させてしまっていた。


「うぅぅ!」


「うわっ 落ち着きなよ!」


「でもーっ」


「はあ、安心してよ。アタシは別にペペロンチーノと違って、クライシスさんが好きとかそういうのじゃないッスから」


「え?そうなの?」


「はいっス」


 それを聞くと、ペペロンチーノは途端に落ち着きを取り戻した。

 そしてニヤニヤと顔を緩ませる。


「え?エ、エヘヘ。なんだそうだったんだ。ゴメンね、私の勘違いだったかも。 あ、言っとくけど私も別にそういう気持ちは無いから。下僕とご主人様が恋愛なんて……あははっ、ありえないしぃ」


「そうっスか? 別にそういうのもありだと思いますよ」


「ほ、ほんと!?本当にそう思う?」


「はい、女の子の恋愛は自由ッスから。身分とか関係ないッス! アタシは応援してますよ、ペペロンチーノ!」


 それを聞くと、ペペロンチーノは嬉しさのあまり、思わずマルティの手をつかんだ。


「ありがとう! マルティ、あなたってホントはいい人なのね!」


「へへへ、どういたしましてッス! ──まあアタシも性的な感情では無いっスけど、普通にクライシスさんに対する好意はバリバリあるッスけどね! あれだけハイスペックな冒険者なんて他にいないだろうし!」


「??!?!??1*$?^~^ウ~~~ン??%?!?」


 一瞬の沈黙ののち、ペペロンチーノはそっと握ったはずの手を放す。


「ええー……」


「ん?どうしたんスか」


 ペペロンチーノは頭の中を整理する。

 しばらく考えこんで混乱した後、彼女はようやく思い出した。


 元々マルティは、強そうな冒険者パーティーを狙ってダンジョン攻略に便乗していたソロ冒険者だったのだ。

 クライシスが最強だと分かった今、彼女は本来の目的に戻っただけだった。


 だが今のところ、マルティにはクライシスへの好き感情は無いという。それは喜ばしい。

 そこで、クライシスを独占したいペペロンチーノは、マルティに釘を刺すつもりでこう言った。


「言っとくけどさ、あなたがパーティーにいられるのは今回だけだからね」


「どうしてっスか? クライシスさんなら、頼めばパーティーに入れてくれそうだと思いましたけど」


「チッ、チッ、チッ。やっぱり知らなかったんだ。 クライシス様は基本的にダンジョンにはお一人で挑むの。今回は特別ってだけ。最強であるあのお方には、余計な仲間なんて必要ないのっ」


「うーん…… じゃあペペロンチーノさんは余計じゃないんスかぁ?」


 それを聞くと、ペペロンチーノはこう言った。


「ふふん。私は特別だよー!だってクライシス様のお気に入りなんだもん! 一緒に居られるのは、マスターの認めた戦闘メイドだけなんだからね!」


「へえー メイドッスか……」


「そうそっ。だから諦めてねー」


「へへへへ、そうッスね~(にやり)」


お話を読んでいただきありがとうございます!


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