Act.6「再び戦場へ」.1
〈コロニー全域に通達! 帝国軍戦艦、駆逐艦を光学観測に捉えられました!〉
慣性オペレーターからの通達に、コロニー内はあわただしくなる。
先ほどの特殊部隊による攻撃に比べれば、まだ交渉の余地があるはずだ。少なくとも、このコロニーを吹き飛ばしてでもあらゆる技術を回収せよ、などという命令は受けていないはず。
「私だ。帝国艦艇に通達しろ。当コロニーは銀河通商条約に則った民間中立機関であり、貴国の武装艦艇の接近を容認できない。直ちに転進、領宙からの離脱を要求する、と」
〈…… 返信です。貴所は先んじて所属不明の部隊から奇襲を受けて防衛能力に人的物的被害を受けている。この状況では貴所の独立性と中立性の確保は困難と判断し、当方は貴所へ出資し構築された技術・技能・物資の所有権に基づき、保護防衛のための武力を行使するものである。……ということです〉
「こちらが要らんと言っているのに売りつけてくる押し売りセールスだな」
痛む額を抑えるフリッシュ所長の目は、アーブとテイに向けられた。
「すまないが、やはり君に出てもらうことになる。敵は帝国の戦艦だが、最新型のフリゲートだろう。奴らに護衛なんぞ必要ないと示せれば、ひとまずの中立性は確保できる」
「なんだか、他の勢力が来たらまた同じことを繰り返しそうですね」
「さすがに実験艦一隻だけでどうにかなる状況じゃあなくなってくるな」
まして、これからどんどん戦術AIとしてふるまうテイの存在が、各勢力にとって大きくなる。
多様化した宙間戦闘において、その優位性を失ったAI。それが新たな技術で進化したことで優位性を取り戻した。そうなれば、人的被害を渋る各勢力は、こぞって欲するだろう。深宇宙探索ではなく、互いの勢力拡大のために。
「力を示せば示すほど、ここの中立性は失われていく。僕の力はあなたたちに預ける決断はしたが、これ以上の戦闘継続は望ましくないな」
「そうだ。最終的には、どう頑張ってもどこかの勢力に属することは避けられない」
「独立でも出来たらいいのに」
「第五勢力でも作れというのか? 自分の研究以外にさほど興味のない学者集団に」
フリッシュ所長は「ははは」と笑い飛ばす。確かに、勢力を作るというのは言うほど簡単ではない。勢力は指導者と労働者、支配者と被支配者を明確にしてこそ初めて成立する。フリッシュ所長も元々は研究者だが、仲間や友人のためにこのコロニーの所長となった。
だが、国家として成立するにはより複雑な交渉や管理が必要となる。研究をする時間など、一秒足りとて存在しなくなるだろう。
「今はとにかく、四大勢力のどれとも均等な関係性を保っておくことが必要だ。少なくとも、コロニーの中に奴らの間者が紛れ込んでいるわけではないようだからな」
「わかった。アーブ、僕を船に運んでくれるか?」
「お願いね。テイ」
アーブに再び抱えられて、テイは実験艦メルクリウスへと向かっていった。
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