Act.3「誘いは空から」.2
隕石の到来は、本当に突然だった。
何の前触れもなく、政府が隠していたなどということもない。本当に、誰も気づかず、気づいたときにはすでに手遅れだった。
突然発表された避難勧告。被害予想は散々たる者だった。
ユーラシア大陸が隕石落下の中心地であり、日本も少なからぬ被害を受ける。隕石を粉砕するためのミサイルが飛び交い、砕けた欠片がどこに向かうかは判別しきれない。
実際に落下するまでには時間がかかり、昨日の発表から今日の迎撃まで、日本は何事もなかったかのような日常を送りかけた。
しかし、さすがにミサイルが飛び始めれば自分たちが陥った状態に気づく。
気づいたところで、もう遅い。
「君……墨田さんこそ、逃げなくていいの?」
「え? いやいや、こんなビッグイベントびくびくしながら隠れて見過ごせなんてバカ言っちゃだめだよ。あ、ちょっとこっち見て。ピースして」
「え、こう?」
姫織は照偉の首に手を回すと、顔を横に並べてカメラを構えた。
「はい、チーズ」
カシャッ、と内カメラのシャッターが切られる。言われるがままピースサインをしていた。彼女も派手に色のついた指でピースサインを造っており、見せられた画面には仏頂面の自分と、満天の笑顔の姫織が写っていた。
「こんな時でも写真か?」
「こんな時だからっしょ! 人生どころか人類史でも希少な瞬間だよ? 今撮らないでいつ撮るのさ。今っしょ!」
「さようで」
これが陽キャのパワーかと思う照偉だった。
「君こそどうしてここに? 一緒に逃げよと言ってくれる奴には、事欠かないだろう」
「ああ……はは。そりゃいたけどさ。なんか違うんだよね」
「違う?」
照偉の問いに、姫織は小さく頷いた。
「たしかに地球最後の瞬間、最低でも日本最後の瞬間じゃん? その時に逃げようっていうより、一緒に立ち向かおうってぐらいの根性、男の子なら持てよって思うじゃん」
「手厳しいな」
彼女の理想は理解できなかったが、この瞬間を見逃すことへの危機感は理解できた。
「この光景を、逃げ回って見逃すのは、確かに惜しいな」
見上げた空から降ってきた隕石は、細かい欠片に砕けつつある。ただ、大きな欠片は残っていて、そこにまだミサイルらしき放物線が伸びていく。細かい欠片たちは、この先大気摩擦で燃え尽きるものと、地表まで届き多大なる被害をもたらすものに分けられるだろう。
その全てを迎撃する能力は、たとえ地球の全ての武器をそろえたとしても、ない。
「テイっちは一人であの隕石見上げて、何してたの?」
「テイっち……」
何とも気の抜ける呼び方だが、彼女の感性に文句はない。この気安さこそ彼女の取柄だ。
別に取り繕う必要もない。何を話したとて、今更後悔することもあるまい。
「恨み節を少々と、いつかまた来る隕石への対抗策の思案……かな」
「もうちょっと簡潔にヨロ」
「う……」
率直なまでの意見に、照偉は少し言葉を詰まらせた。
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