Act.3「誘いは空から」.1
世界が変わる要因とは何か。
それは常に、外側からもたらされる。
船に乗って現れた外来者は、訪れた土地に様々なものを齎す。恩恵もあれば、災厄に等しい害悪を齎すこともある。
「なんて、黄昏て何になるって言うんだか」
ひとりの青年が見下ろした先では、逃げまどう人々の姿がよく見える。
彼がいるのは、とある高校の屋上。春の風が漂うはずこの場所で走り去る人々を見ていた。
「まさかこんなことになっちゃうなんてなぁ」
大志を抱いて上京したというのに、毎日平穏というか退屈な日々を過ごしてしまったこの二年。高校生活もあと一年というところに差し迫っていた。
単に勉強し、模試を受け、受験の日までルーティンを繰り返す。
桜の蕾が膨らみ始め、今日のオリエンテーションを終えて明日から新学期と思っていた矢先にこれだ。
「あ、何先客いたの?」
青年が振り返った先には、彼と同じ型の制服に身を包んだ生徒がいた。ただし、女子だからスカートという違いがある。首に巻いたリボンは、彼のネクタイと同じ色であるから、学年は一緒だろう。
真面目さと地味さがあいまった黒髪の青年に対し、地毛なのか染めているのかわからない金髪で、制服も着崩れており、決して真面目とは思えない。
ただ、正反対に思える二人の姿ながら、どこか雰囲気は似通っていた。
「えっと……?」
「……あ、君名前知らないわ。どちら様?」
同じ高校だからと、名前を知っている人間は限られる。たとえ同じ学年でも、知らない人の方が多い。
目の前の相手が美少女でも、青年には覚える機会がそもそもなかっただろう。
「矢作、照偉だ」
「あたしは墨田姫織。んでさ」
二年同じ学校で過ごしてきてほぼ初対面に等しい女子生徒。隅田姫織はパックジュースを飲みながら、眼下を眺めていた照偉の隣に立つ。
「良いの? あんた、逃げなくて」
「逃げたところでどうなるんだよ。落下範囲、計算したっていう有志のデータで見たけど無理だって。助かりようがないよ」
「え、計算した奴いんの?」
暇かよぉ、と呆れ気味に笑う彼女は、口からストローを外しながら下を見た。
喧騒と、クラクションが騒ぎ立てている。校庭にすでに人の姿はなく、放り捨てられたカバンがいくつか転がっていた。その先の道路は、人でごった返している。
「マジで混沌としてんね。避難訓練も何もあったもんじゃないわ」
「点呼だなんだって言っている前に、逃げたほうが賢明だと思ったんだろう」
「いやー、ホントそれ、意味わかんないよね」
けらけらと笑う少女に対し、照偉は小さくため息をつく。
「突然現れた隕石で、地球が滅ぶなんて言われても実感がないよな」
見上げた空に、近づきつつある光の塊が見えた。
正確には、世界各地から放たれた迎撃用核ミサイルが、落下してくる隕石に当たって弾けている光だ。
もっとも、芳しい成果は上がっていない。
「それまでの各地の天文台の記録でも発見できなかったステルス隕石、なんて言われているけれど、本当に発見が遅れた理由はわからないんだ。もうあと三か月早く見つけられていれば、隕石破砕作戦でもできただろうけれど」
「昔そんな映画あたよねぇ、なんだっけ?」
そんな、危機的状態にも関わらず、彼女は泰然自若として自分のスマートフォンを取り出した。本当に映画の名前を検索しているのだろうか。
しかし、核ミサイルの爆発影響で乱れた電波の中、まともなネットは繋がっていない。
しばらくして諦めたのか、彼女はポケットにしまった。
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