第四十六話
アリシアの出現によって更に暴れ出した暴徒たちは、アリシアの懸命な呼びかけにも反応しないほどの状態になっていた。
「なあ、これっていくら何でもおかしくないか?」
「ええ、そうね。これはさっきのアルミダ兵と似た状態だと思うのだけど、どうかしら?」
「ああ、確かにそうだけどイズンみたいな悪魔の残滓みたいなのが希薄なんだよ。それであそこまでの状態になるとも思えないけど、あいつらの心は怒りで埋め尽くされていてその全てがアリシアに向いてるんだ。まるで催眠でもされているみたいに…ん?ウリル、どうかしたか?」
「え!?…いや、何でもないわ。まずはこれを何とかしましょう。」
「そうだな。」
ウリルが少し何かを考えこむような反応をしたが、すぐに戻ったためあまり気にしなかった。
俺とウリルが話し合っている間にもアリシアへの暴言が治まることは無く、懸命に声をかけていたアリシアの目にも涙が溜まっていた。
「そろそろ限界だな。」
「……え?」
俺は足を進めると、アリシアを庇うように前に立った。
アリシアは涙を溜めたまま、呆然として俺を見ていた。
「なあ、いい加減正気に戻ろうぜ。」
俺は小さな、しかし皆にはっきりと聞こえる声で話し始めた。
「お前らも知ってるだろ?アリシアがそんなことできるような奴じゃないってさ。俺はほんの少ししかアリシアと接してないけどさ。それでもアリシアは良い奴だってわかるぞ。確かに今回戦争は起きちまったけどさ。アリシアが起こしたくて戦争したように見えるか?奴隷扱いとか操って無理矢理殺らせたとか…アリシアの事を知ってるお前らならそんなことあり得ないってわかるだろ!?こんなに優しくてまっすぐで皆の事真剣に考えてるような奴がそんなことするわけないって。お前ら……いい加減なことを言ってんじゃねぇぞ!!!」
俺は気づいた時には怒鳴り声をあげていた。
アリシアへの暴言を聞き、アリシアの涙まで見たとき、俺の中の何かが決壊したようになって、無意識に声を上げていたのだ。
俺が話し終えた後、不意のことで驚いたのか、ウリルやアリシアだけでなくアルミダ兵や暴徒たちさえも俺に目を向けて固まっていた。
俺はそれを見て、やらかしてしまったと少し後悔したが、沸々と湧き続けている怒りがその思考を上書きしていた。
「確かに戦争自体は良いものじゃないさ。それを起こしてしまったのがアリシアなんだったらそれは償うべきものはあるさ。」
「なら!「でも!!」」
俺は反論しようとする声を遮るように続きを話し始めた。
「それでも、この星の兵士は自ら志願してるんだろ?なら、今回の戦争がなかったとしても遅かれ早かれ死んだ可能性もあっただろ。それに今回の戦争がアリシアに起こした原因があったとしても、それが本人の意思でないことだってあるんだよ……その全てをアリシアのせいにすんのか?そんなのどう考えても理不尽だろ。それに、さっき操られてるって言ってたけどよ。今のお前らの方が誰かに操られてるように見えるからな。いい加減……正気に戻りやがれ!!!!!」
俺は感情の赴くままに言葉を紡ぐと、最後には思い切り叫んでいた。
ここまで怒りの感情を表に出して叫ぶことなど初めての事だったのもあり、非常に恥ずかしくなったが、それが功を奏したのかポツポツと声が聞こえてきた。
「え?俺は何してたんだ?さっきまで…え!?アリシア様がそんなことするわけないのに!なんてことを!!?」
「すみませんすみませんすみません!!本当に申し訳ございませんでした!!!」
「おいらなんであんなこと言ったんだ!?こんなこと言ってたら不敬罪になっちまうよ!!ホントに申し訳ねぇです!!!」
先程まで暴徒だった彼らは突然熱が冷めたように冷静になると、今度は逆に必死になって謝り倒してきた。
俺やアリシア、ウリルだけでなくアルミダ兵すらも突然の変化に唖然となるのだった。




