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ライザの真実2


「ライザ! 何をしている」


 羽ペンをとり上げられたライザは、きょとりと目を瞬かせた。

 ライザの凶行を阻んだルベンは、怪訝そうにライザを見ている。


「あら、私、何をやっていたのかしら」


 ライザは白々しく頬に人差し指を当てて、ことりと小首を傾げた。


「きみはエンピレオにもどったほうがいい」

「そうね。そろそろモリブデン様に叱られてしまうわ。ではまたね、レイくん」


 ライザはひらひらと左手を振って、何事もなかったかのように騎士に護衛されながら部屋から出て行った。

 ルベンはその背中を見送ってから、面倒そうにレイの体を起こした。


「枢機卿がお前を寄越せとうるさいので、とりあえずエンピレオに連れて行く。だが、お前にはまだ生き延びてもらうぞ」

「クレアを逃がしたうえに、聖女ライザの演説のせいで名前に傷がつきましたか。あなたが枢機卿の言いなりだなんて」


 ぐっと首をつかまれ、レイは息苦しさに眉根を寄せた。


「調子に乗るなよ、化け物が」


 好青年の顔はそこにはなく、その表情にはレイに対する憎悪とクレアに対する欲望が浮かんでいた。


「お前の負けなんだよ。お前が死んだあと、俺がクレアを慰めてやろう。そうすればきっと自分が化け物に騙されていたと目が覚めるはずだ」


 好色そうな目つきをするルベンを、レイは嫌悪をにじませて見返した。


「彼女はあなたの玩具じゃない! なぜあなたから心が離れたのか、まだわからないのか!」

「鉱石人が! まがい物のくせにこのルベンに説教を垂れるか!」


 ルベンが拳を振り上げた瞬間、レイの心臓がどくりと強く跳ねて、左半身に激痛が走った。


「うぅ!」

「な、なんだ」


 レイの首から左頬にかけてじわじわと青い魔鉱石が侵食して、ルベンは恐怖を覚えて手を離した。

 そしてレイが痛みに耐えかねたように叫ぶと、椅子の背凭れが縄とともに弾け飛んで、青く輝く六枚の羽が広がった。

 美しい天使の証を広げながら、レイは空気をとりこもうと必死に呼吸を繰り返している。

 無意識にその美しさに見惚れていたルベンは我に返り、勝ち誇ったように笑った。


「は、はは……何を叫ぼうと、お前の時間はないんだよ。その顔を見たクレアはお前が化け物であったと理解して、俺の手をとるさ」

「あなたは何もわかっていない」


 レイは重くなった頭を上げた。

たしかにこの顔や姿を見られるのは怖い。けれどそんなことを言えば、クレアの怒りが目に浮かぶので、レイは心穏やかでいられた。


「この姿を見てもクレアの心は変わりませんよ。僕はそう信じている」


 レイは賭けに出ることにした。

 こんなもの、最初から賭けとも言えないだろうけど。


「この姿を見ても彼女が僕を選んでくれたならば、あなたはクレアをあきらめることができますね」

「お前を選ぶなど、万に一つもありえない。が、俺も騎士だ。誓ってやろう」


 勝敗は決した。

レイは微笑んで、心の中でひっそりと祈りを捧げた。

 女神フォルトゥナ様。僕はあなたに愛を捧げましょう。けれど僕ひとりでは愛を知ることすらできないのです。

 だからもう一度だけ、クレアに会わせてください。


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