王女ウィステリアは夜会で踊る 後編
「わたくしは」
思い切ってシモン様の目を、まっすぐ見つめました。
「わたくしは、シモン様が好きです。シモン様のお嫁さんになりたいです。」
恥ずかしくて、最後は涙声になってしまいました。
シモン様は、きっとお困りね。
ごめんなさい。今だけ、今だけ、許してください。
「…5歳の、お披露目の、時に、励ましてくださった、あの時から、
ずっとずっと、好きでした。
ごめん…なさい。困らせて、しまってますわね。
どうしても、一度だけ、言いたかった…の。」
優しかったシモン様、妹のように可愛がってくださったシモン様。
素敵な思い出がいっぱいありますわ。
シモン様が他の方と結婚されても、きっと大丈夫。
思い出が…
「ご無礼を!」
涙が止まらないわたくしを、シモン様が抱きしめました。
優しいシモン様。
慰めてくださるのね。
「ウィステリア様、私も、貴女が好きです。」
「妹、みたいに?」
「違います! 最初はそうだったかもしれませんが、いつも一生懸命な貴女が眩しくて、目が離せなくなりました。」
「ほんと、に?」
「貴女が好意を寄せてくださっているのは、気付いていました。
しかし、確かめる勇気がなかった。
意気地のない男です。」
「そんなことありません。」
わたくしを王女として護っている壁は、同時に自由を奪うのですもの。
「それに、ウィステリア様はタヌキがことのほかお好きですよね。」
「はい、大好きです。」
「私は…顔がタヌキに似ていると言われるので、それで気に入ってくださってるのかな、と」
「違いますわ!」
思わず大きな声が出ました。
「タヌキが、シモン様に似ているのです。だから、好きになったんです。
シモン様が、先なんです!」
「そう…なんですか。」
「そうなんです!」
愛の告白が、どうしてタヌキの話になったのかしら?
気付いたら、二人で大笑いしていましたわ。
数日後、お父様とお母様、お兄様方に時間をいただき、二人で結婚の許しを願い出ました。
シモン様が根回ししてくださったのでしょう、お話は円滑に進んでいきました。
わたくしの様子から、思いを察していた両親は、驚くほどに喜んでくださいました。
「そうか、ウィステリアはお嫁に行ってしまうのか…」
やはり、お父様は寂しいと思われるのね。
お母様に慰められていますわ。
ふと、お顔を上げられたお父様が、いいこと思いついたという顔で
「ウィステリア、女王になるかい?」と訊いてこられます。
もちろん、お断りですわ。
「わたくし、シモン様のお仕事を手伝うので、そんな暇はございません。
タヌキの保護活動もありますし。
何より、シモン様を愛でなければなりません!」
「そうかー、らぶらぶかー。残念だ。」
お父様、ごめんなさい。でも、これは譲れませんの。
ほら、ヴィクトルお兄様のお顔が青くなってますわ。
ヴィクトルお兄様、冗談に決まってますわよ。
ね、大丈夫ですわ。
あら? シモン様が笑ってないわ。
シモン様の能力をもってすれば、なんとかなる、とお考えなの?
あら、どうしましょう。
わたくし、困ってしまいますわ。
その後、シモン様と二人でお茶をしました。
珍しく黙っていた彼が、ようやく口を開きます。
「ウィステリア様、ああいうことは、皆さんの前で仰らないほうが…」
「ああいうこと?」
「…私を、その…愛でる、とか?」
大変! 人前で言うのは、はしたないことでしたのね。
「ごめんなさい。わたくし、まだまだ子供ですわね。
シモン様に、いろいろ教えていただかなければいけませんわね。」
「いろいろ…教える…」
片手で口元を覆ったシモン様の耳が真っ赤ですわ。
あの、どうなさいましたの?
わたくし、また何かいけないことを申しましたかしら?
ねえ? シモン様?