Mission85.拝啓、親愛なる貴方達へ
《拝啓、親愛なる貴方達へ
元気にやっていますか?こっちは元気にやっています。
『やり直し』を止めた、強制的に上書きをしたために君達がいる世界にはいられなくなったけれど、世界は、別の世界を用意してくれていました。異世界、って言うんだっけ?僕らがいるのもその数ある中の一つ。もしかしたら会えるかもしれないね。まぁ、いられなくなっただけで戻れる可能性はあるから、安心してください。
言い忘れてた。ちゃんと生きてるよ?
『やり直し』を止めた直後に瓦礫が落ちてきた時はもう終わりだと思ったけどね。女神様達が助けてくれたんだと思う。思うってのは正確には定かじゃないから。気づいたら別の世界に移住してたんだよね。もし、助けてくれたんだとしたら女神様達しか思い付かなかった。ま、わかんないのは仕方ないよね。
そういえば、読んだよ。
みんな、自分の道に進んでてて、安心しちゃった。お幸せにって、これがもし、届くのなら伝えておいてね。
僕らを待つだけの人生なんて退屈でしかないから。楽しく待っててよ、その方が僕も楽だよ。早く会えるといいね。どっちかがお爺さんとかお婆さんになる前にね………此処、笑ってね…?
こっちの話になっちゃうけど、こっちでも闘いは絶えないんだ。『忌鬼』とか『禁忌』がいるわけじゃないんだ。なんだろ……似てるけど違う敵がいるんだ。強くもあり、弱くもあり、元こちら側であったりと難しい敵。それでも僕らはなんだかんだ生きてるし、生活できてる。こっちもこっちでなんだかんだいいよ。こっちの人達もいい人達ばかりで何処から来たか分からない僕らにもとても優しくしてくれたんだ。感謝してもしきれない。第二の故郷、と言ってもいいかもしれないね。あ、そういえば、こっちでは一年中、桜が咲いてるんだよ!見たことがなかった桜をいつも見ることが出来て、少し感動してるんだ。他にも色んな花が咲いていて外にいても結構飽きない。僕らがいた世界は現状が現状だったから、見ることが出来て嬉しい。あ、そういえばあそこの花達ってどうなったのかな?唯一と言ってもいいくらいの癒しの花畑だったから気になっちゃった。帰って時間があったら見に行こうかな……》
〈何をしておる?〉
突如、頭上からかけられた声に彼は勢いよく顔を上げた。そこには見慣れた友人であり仲間である神様がいた。
「手紙を書いてたの。書かなくて本当にいいの?」
〈妾が書かなくてもお主が全て書いてくれるからのぉ〉
「もぉ」
クスリと苦笑すると神様も口元を袖口で隠して笑った。神様は彼が書いてた手紙を覗き込む。と彼は恥ずかしいのか手紙を見えないように胸に押し当てた。それに神様は悪戯っ子の笑みを浮かべながら〈残念じゃなぁ〉と残念がる様子もなく笑う。すると遠くから神様と彼を呼ぶ声が響いた。神様がそちらを向いたと同時にその声は近くなった。
「「おじいちゃん!」」
〈だぁれが爺じゃ、童共!〉
ピシャリと神様の激が飛ぶが神様をそう呼んだ2人の幼い兄弟はめげずに口々に「おじいちゃん」「おじいちゃん」と言う。神様の機嫌が悪くなった事に彼が気づき、苦笑したと同時に神様は憤怒の表情で空中を滑るように飛んで行った。それにおじいちゃんと口煩く呼んでいた兄弟は遊んでもらえると思ったのか嬉しそうな顔をしていたが神様が怒っているのを見て、逃げ出した。それを神様が追う。
彼が声をあげて彼らが見えなくなったところで笑う。あの神様はああやって遊ぶのがまんざらではないが嬉しく好きなのを知っている彼にとっては可笑しい事だった。しばらく笑った後、彼は胸に抱き締めていた手紙を傍らに置き、空を仰いだ。空は晴れ渡っており、雲一つない。そんな彼の視界にピンク色がうつる。そのピンク色を追うとそこにはピンク色の花を木々いっぱいに咲かせた桜の大木があった。実は彼は今までずっと桜の大木に背を預けて座っていたのだ。彼が桜の大木を見上げていると優しく、暖かい風が彼の頬と髪を撫でた。なにやら視線を感じ、前を向くと彼は息を呑んだ。
「……………っ」
そこから少し遠くにいたのは透明な姿の2人の男女。仲睦まじく、互いを支えあうように寄り添っている。2人は神様と兄弟達がいる方向を暖かい目で愛しそうに見やると彼の方を向いた。
男は美しいほどの金髪に碧の瞳を持ち、女は同じく美しいほどの銀髪に碧の瞳を持っていた。2人からは神々しいほどの雰囲気が遠くからでも伝わって来て、彼は我知らず、背筋を伸ばした。
2人は彼に向かって優しさ微笑むと、女の方がなにかを言った。遠目からでは声は聞こえなかった。いや、もしかすると声を発していないのかもしれない。だが彼には女が「ありがとう」と言ったように感じられた。理由はその笑みが深い慈悲に溢れていたからだけではない。だが、説明しづらい。
「……………」
2人は彼に向かって軽く頭を下げた後、徐々に薄くなっていき、消えてしまった。それを呆然と見ていた彼は面食らったようにハッと我に帰った。
「今のって…」
もしかして……
脳内にある仮説が浮かび上がる。が根拠などないに等しい。だから彼はこう思う事に……いや、そう思うのだ。"彼らは自らの子供とその主を見に来た"、と。それ以上もそれ以下もない。ただそれだけ。
彼は自分自身に頷き返すと手紙を手に取った。すると、また誰かが来たようだ。彼に影が落ちる。彼がその影に顔を上げるとそこにいたのはこの世界、異世界で初めて会い、色々と世話になった少年だった。少年、と言っても年齢は青年、成人済みらしいが顔が幼い事と身長が成長期に入っておらず、低いために少年に見えてしまう。
「何してるの?」
「ついさっきもそんな質問受けたなぁ。手紙書いてる」
先程、神様に訊かれた質問とほぼ同じ解答をしながら彼は笑う。すると少年は同じ質問だったのかと驚いたように神様と兄弟達を振り返った。
「父様も訊いたのかい?」
「ねぇ、その呼び方、嫌がられないの?君だけだよ」
そう、彼と神様のここでの友人や仲間は神様の事を本名かもしくはおじいちゃんと呼ぶ。理由、口調が年寄りっぽい。だが少年は何故か父様と呼んでいた。おじいちゃんで少々嫌そうな顔をする神様なのに何故、父様と呼ぶのか……
ちなみに仲間は神様がおじいちゃんと呼ばれて怒ると遊んでくれたりするのでよく呼んでいる。
少年は彼を振り返ってきょとんとした表情をするとクスリと笑った。
「僕がそう言ってても父様は怒らないからね。それに、本当の事じゃん」
「それは……まぁ、そうだけどね?うぅーん…」
彼は首を傾げてそんな声をあげて唸る。少年はその様子にクスクスと笑った。そう、少年は異世界からやって来た神様の子供だった。血縁関係がある、正真正銘の子供。異世界から来た神様と彼にしてみればあり得ない事であったがこの世界ではあり得る事らしい。実際に少年の他にも数名いた。驚愕した。いまだに他とは違うそれに慣れることはないが、証拠が目の前にあるのだ。信じない方がおかしかった。彼はいまだに困惑したりしているが神様はさすが神様と感心するしかないほど、適応能力が高かった。自分の子供と認識した。早い。それに彼は苦笑しか出来なかったが。
彼は手紙にその事を書いていない事を思い出した。が、後ででもいいかと考え直す。すると少年が彼に手を差し出した。それを首を傾げて見ていると少年が言った。
「もう少しで定例会議だよ。早く行かないと兄様達に怒られちゃう。だから、行こう?主様」
少年の云う兄様達とは他の年上の仲間を示すが……彼は戸惑うように頬を軽くかきながら言う。
「それ、やめてよ」
「何言ってるの。僕の父様の主様は僕の、僕達の主様なんだから。ね、主様」
それに当たり前と答える少年の言葉に彼は少し照れたようで俯き加減になりながらも少年の手を取って立ち上がった。
「じゃ、行こっか」
「はいはい」
歩き始めた少年を追いながら彼は手紙にはこう最後に書こうと思考した。忘れる前に書けるといいが、きっと無理だろう。だが、こう書いて終わりたい。
《此処でのお気に入りの詩……というよりは文章をつけとくね。お返しに。
桜の花を見ながらみんなで酒盛りも良いと思う。どんな世界であれ、僕が救いたかった世界には変わりない。だから、少しだけ待っててね。此処での闘いが終わったら……終わってなくても会いに行くから。僕らの絆を辿って。
〈ある神様が言いました。
「世界には、全てには裏と表があるから美しい。表が裏を、裏が表を支え合うからこそ、美しく輝き、微笑むのだ」
と。
もし、貴方達が泣くのなら私達は海を作ってその涙を癒しましょう
もし、貴方達が憎しみにくれたりのなら私達は太陽でその影を包み込みましょう
もし、貴方達が眩きを拒むのなら私達は大地でその光を緩和させましょう
もし、貴方達が笑うのなら私達も同じだけ、幸せいっぱいに笑いましょう
桜の花びらが風を頼って行くように、私達も貴方達を頼りましょう
全ては必然であり、偶然
これは新たな『白紙の歴史』、白紙の物語
見ることが叶うのは貴方達と私達だけ
さあ、絆を辿ってその歴史を見に行きましょう?
再び、出会う日まで〉
神居 国彦》
『禁忌×戦闘ディストーション』を此処までお読み頂き誠にありがとうございます。これにて『禁忌×戦闘ディストーション』、完結となります。拙いながらもこんな物語を読んでくれた方には感謝しかありません。本当にありがとうございます。
さて、この後についてですが、次回作を既に決定したのですぐに(もし次回作も読んでいただけるのならば)お会いできるかな、と……あ、リクエスト募集中です!(此処で宣伝?)
最後にもう一度、此処までお読み頂き誠にありがとうございます。よければ前作なども宜しくお願いします(さりげない)…笑ってもいいですよ!?(なにを)
それではそろそろ。また何処かでお会いしましょう。See you!




