Mission72.開戦前の唄
『大戦』当日。異様な姿と化したお社に入る計8つの部隊が崩壊した元玄関に集まっていた。
戦闘支部防衛部隊・『玄武』&『青龍』
戦闘支部第二部隊『千國』
戦闘支部第四部隊『六花銭』
戦闘支部第五部隊『黄金帝龍』
戦闘支部第八部隊『戒刀藍麻』
戦闘支部第十部隊『神樂』
戦闘支部第十二部隊『天雪羽衣』
戦闘支部防衛部隊2つと戦闘支部6つ、そして本部直轄部隊数名の合計8つの通称・突入班が真剣な面持ちで立っていた。その中、国彦は灯茉と千聖の近くで武器を腰に帯刀しつつ、隊長である西珠の指示を待っていた。
「『神譜』って全員、使うんだよね?」
「嗚呼、そうだ。亜矢都、頼むぞ」
〈まっかせなさい!ちーちゃん!〉
千聖が国彦の問いに答え、大斧を掲げて言うと亜矢都が元気よく答えた。それに千聖は満足そうに微笑んだ。
〈国彦は使うのは後にした方が良いな〉
「だよな」
「えーなんで?」
灯茉と千聖が言う事に国彦が不満げに問うと灯茉が国彦の頭を優しく撫でつつ言った。
〈あれは多くの体力を使う。初戦から使ったらお主が倒れるからのぉ〉
〈疑問なんですけど、俺達も出来るんですかね、『神譜』〉
と、彼らの元に竜胆華丸と緋暮がやって来た。竜胆華丸の些細な疑問に灯茉と亜矢都が唸る。
竜胆華丸は神であるが契約したのは『禁忌』。そして本来は臣下の立場にあるはずだが強制的に契約したために立場は主。『神譜』が使えるのかどうかは謎だ。というか『禁忌』ってできるのか。
「俺、出来ないに一票」
「えー千聖がそう言うなら僕、出来るに一票」
〈〈じゃあ、僕も出来ないに一票~〉〉
〈もう、遊ばないでください!〉
竜胆華丸がそう言って嗜める。そして彼らは小さく笑い出す。恐怖や緊張感をほぐすように。亜矢都が笑い終えた時に結論を出したようで大斧の姿でテンションを上げて喋り出す。
〈たーぶん、行けるんじゃないかしら!?ただし!ひーちゃんとリィちゃんの信頼関係がなきゃダメヨー?〉
〈妾も同じく、じゃ。お主らは例外中の例外じゃから試さぬ事にはなんとものぉ…〉
2人の結論に竜胆華丸と緋暮は顔を見合わせた。そしてニヤリ、と笑う。国彦がそれを見て、まさか…と首を傾げる。
「…ねぇ、千聖。此処で『神譜』やっちゃってもいいの…?」
恐る恐る、周りを気にしながら国彦が千聖を見上げて訊く。それに千聖はわからんと頭をかいた。と、国彦の問いに別の声が答えた。
「やってもいいんだよ!」
「螢!」
その声がした方向を見ると以前、『神譜』を使った時と同じように2色の光と蝶を槍に纏わせた螢がこちらに向かって来ていた。2色の光が弥厳だと分かっているので千聖と亜矢都と同じような能力らしい。螢がトンッと槍の先で床を軽く叩いて彼らの前に立つ。
「ボクはやっくんと一緒に準備満タン。『神譜』、やれる人はやっちゃって。隊長と狐も今、発動中なんだ」
「そう、なんだ…」
「んじゃ、俺達もやるかなっと」
千聖が納得したような顔をする国彦の横で慣れた様子で『神譜』を発動させる。たちまち、大斧に双龍が刻まれた。それを見ていた国彦が一瞬、灯茉を見上げ、疑問を口にした。
「疑問なんだけどさ、『神譜』した神様と会話って出来るの?」
その問いに千聖と螢は顔を見合わせると二ィと悪戯っ子の笑みを浮かべた。それに何か嫌な予感がした国彦はうっ、と呻いた。竜胆華丸と緋暮に助けを求めようとしたが灯茉となにやら『神譜』について会話している。万事休す。
「そういう国彦の『神譜』はどうなのー?」
「あれ不思議なんだよな。どっちが主導権握ってんだ?」
「え、えええと…」
2人の問いに国彦は慌てたように戸惑うと少し考え出した。少々の間の後、国彦は躊躇しながらも質問に答えた。
「その時、曖昧なんだ。意識は僕なんだけど、戦い方とかは灯茉に任せちゃう……どっちもどっち、かな?」
「ああ~なるほどねぇ~」
「………理解不能」
納得した様子の螢の隣で千聖はムスッと顔をしかめている。これで2人の質問には答えた、と国彦は「そっちは?」と問い返す。その質問の答えを告げたのは
〈もっちろん、話せるよ。ねぇ、螢〉
〈話せるわよねーちーちゃん?〉
変化を遂げた彼らの臣下だった。姿が変わっても話せるのか、と国彦は驚いたようで目を見開いた。臣下の少々不満げな物言いに千聖と螢が笑いながら対応する。それを国彦は「仲良いなぁ…」と羨ましそうに見ていた。
自分は、自分達は珍しい"憑依"。会話はどちらか一方しか出来ない。会話をするためには『神譜』を解かなければならない。いつでも話が出来る、姿が変わったとしても出来る彼らが国彦にはちょっと羨ましかった。
ちょんちょん、と肩を指先でつつかれ、国彦は後ろを振り返った。そこにはニヤニヤと愉しげに笑う緋暮がいた。
〈〈『神譜』、僕もやるぅー!!〉〉
「えー出来るの?」
緋暮はやる気のようで両手を万歳した。その向こう側にはあきれた様子の灯茉と今までにないくらいにワクワクとした様子の竜胆華丸がいた。
と、いうわけで竜胆華丸と緋暮の『神譜』やってみようが始まった。心配そうな面持ちの国彦とは裏腹に千聖と螢は楽しそうで、灯茉はどちらとも言えない、複雑な表情だ。竜胆華丸が脇差を抜き放ち、刃の方を緋暮に向ける。緋暮は愉しげにその刃に触れた。何故、こういう動作をするかと言うと国彦が灯茉に聞いたところ、〈簡単そうな場所から行ってみた〉だそう。
緋暮が触れた刃が一瞬、光った。が、
「…………何も、起こらない?」
〈失敗ですかね〉
〈〈えぇーーーー〉〉
どうやら、失敗だったようだ。だが思いがけない収穫もあった。少なくとも『神譜』はできる、ということだ。〈〈つまんなーーい!!〉〉と駄々を捏ねる緋暮を竜胆華丸が宥め、『禁忌』との『神譜』と言う例外中の例外に灯茉と亜矢都が再び、討論を開始する。千聖の真横で難しい話が繰り広げられるため、彼はめんどくさそうに耳を遠ざけた。
「うるせい…」
「あはは…」
その時、奥の方がざわざわとした。そちらを全員が向くと『神譜』を発動させた隊長達が戻ってきたらしく、部隊の隊員に指示を与えている。
「隊長ー狐ーこっちー!」
螢が片手を振って2人を呼ぶ。国彦と千聖、灯茉はこちらにやって来た2人を見て驚いた。竜胆華丸も驚いたようだが駄々を捏ねる緋暮を押さえるのに手一杯のようだ。
「おー螢ちゃん、場所示しどうもな」
片手を上げてやって来た西珠の両目の目元には稲妻を横に置いたような模様が刻まれていた。他にも変わっているところがある。肩から重そうな、それでいて少々豪華な、白い軍服の上着を羽織っており、右肩に担いでいる大剣からは雷の残り火がバチバチと散っている。
一方、管狐も変わっている。頭からは狐耳、後ろからは狐のふわふわとした尻尾(計9本)が伸びている。顔を隠していた仮面は外されているが前髪が邪魔で目元までは確認出来ない。
千聖が驚いた様子で、口を餌を待つ鯉のようにパクパクさせながら、2人を軽く指差し、問う。
「一体、どういう…?」
「嗚呼、これか?管狐の方がびっくりだろーなぁ」
にひひ、と歯を見せて笑う西珠に管狐が呆れた、とでも言うようにため息をついた。
「『神譜』の能力でな、オレは臣下、白鉄の力を纏ってる。んで」
「俺は、元の姿に戻っただけだ」
「「元の姿ぁあああ!?」」
「ちょっとー狐!2人共、驚いちゃってるでしょー」
管狐の突然の告白に国彦と千聖は面食らい、叫んだ。管狐の発言に螢が肩を竦めて言う。西珠は他人事のように笑い、灯茉と竜胆華丸、緋暮も驚いているようで声が出ない。
〈我が君は妖狐の末裔でしてな、私の力で普段は姿を隠しておられるのでございます〉
〈へぇーそうなんですね…〉
管狐の腰に帯刀された狐幸が説明すると驚いていた国彦達の思いを代弁するように竜胆華丸が頷きながら言った。その隣ではふわふわの尻尾が気になるのか緋暮がウズウズしている。
「び、びっくりしたぁ。でも末裔ってなんかすごい!」
驚きから我に返った国彦が興奮したように叫ぶと両腕を組んでいた管狐の顔が少し、嬉しそうに綻んだ。
「『神譜』にも種類があって、いろんな人がいるんだな」
〈あらちーちゃん、良いこと言うわね。珍しく〉
〈本当にのぉ、珍しく〉
「お前達は俺で遊ぶなっ!!」
灯茉と亜矢都にからかわれて千聖が照れ隠しで叫ぶ。それに第十部隊がクスリと楽しげに笑った。これから起こる、壮絶な『大戦』を目の前から隠すように。
【突入班に告ぐ。繰り返す、突入班に告ぐ】
耳元から流れてきた声に一瞬にして全員が緊張した面持ちとなる。先程までざわざわとしていた空気も引き締まり、いかにも戦闘前、と言う感じだ。
【政府の戦車、及び後方支援支部遊撃部隊の攻撃が始まり次第、他の部隊と共に出撃し、お社に突入してください】
国彦はそれを聞きながら、人混みの隙間から見える、龍のような姿をしたお社を見上げた。あのどこに『禁忌』がいるのだろう。どのくらいの『忌鬼』と『アラーヴァ』が待ち受けているのだろう。考えるだけで、武者震いが止まらない。国彦は大脇差の柄を握り締めた。
【それでは、】
ん?それでは?
【今から部隊ごとに通信を一時、変更するな】
はい?どういう事?
満場一致で全員がそう思っていると第十部隊の耳元に聞き慣れた声が響いた。
【えーと、これで声届いてんのか?】
〈朝陽?!〉
どうやら部隊ごとの担当医から何かあるらしく、このようにしたようだ。
「朝陽、どうしたの?」
【おー届いてる届いてる。あ、んでよ、きみたちに言いたいことがあってな。生きて帰って来いよ、勿論、全員一緒に】
朝陽の言葉に全員の口元が笑みを浮かべる。なんと心強い言葉だろうか。西珠がコンコンとイヤホンを指先で叩くと口元に笑みを浮かべたまま、言った。
「第十部隊の怖担当医さんが言うんだ。帰らなきゃなぁ?」
「安心していろ。必ず帰る」
「キミがボクらの担当医で良かった!」
「うん、分かった!」
「俺達が死ぬように見えるかっての」
〈こりゃあ絶対、帰らんとあかんなぁ!〉
〈ご安心を。帰ってまいりますよ〉
〈ははっ朝陽ったら心配症だなぁ〉
〈心配ご無用じゃのぉ〉
〈ちゃんと帰るから待ってなさい!〉
〈まだ、貴殿方に恩返し出来てませんからね!〉
〈〈大丈夫に決まってるからねぇ~!〉〉
それを聞いた朝陽がイヤホンの向こう側でクスリと笑った。
【本当に、きみたちは………さあ、自分たちの目的を果たそうぜ?】
その言葉を聞き、全員が顔を見合わせて頷く。どうやら他も終わったようでノイズが一瞬、入った後、通信が戻った。
【これより、作戦を開始する。みんな、健闘を祈る!『禁忌』を、ぶっ飛ばせっっ!!】
担当、妃翠の鼓舞に全員が答えるように叫ぶ。
外では政府の戦車と後方支援支部遊撃部隊の攻撃の音がする。他の部隊も出撃しようとしている。【行くぞー】と言う声が聞こえる。
さあ
国彦達、突入班は玄関の床を強く踏み出して『大戦』の中へと跳躍した。
最終決戦の時間だ
次回からプロフィール書こうと思いますー
そしてまさかの管狐。いや、彼の『神譜』考えたらこれだったんです。後悔はない………うん




