Mission67.神と人間の心通い
シリアスにしたかったがシリアスになってますかね…?
亜矢都が灯茉を追って他の臣下組と来たのは以前、第十部隊の臣下組で酒盛りをしたあのヘリポートだった。ヘリポートの入り口の近くの壁に灯茉は灯茉らしからぬ格好でそこにいた。顔を俯かせて、小さくうずくまっていたのだ。臣下組は一瞬、その様子に困惑した。彼がそれほど、思い詰めていたと思ったからだ。それとも、別の事が彼を悩ませているのかもしれない。
誰も動こうとしない中、狐幸の肩に乗って移動してきていたシルクが飛び降り、ゆっくりと灯茉に近づいた。それを皮切りに他の臣下組も彼に近づく。
〈…灯茉様〉
〈……………〉
シルクが白い前足を灯茉の靴の上に軽く乗せ、優しく声をかける。灯茉の真っ正面に亜矢都がしゃがみこんだ。他の者は壁に寄りかかったりしている。
すると、灯茉がゆっくりと顔を上げた。長い時間が経ったような感じがする。灯茉の顔からはいつもの威厳さは消えていた。ただそこには、不安と恐怖が宿っていた。灯茉は足元のシルクを見やり、目の前の亜矢都を見る。と、情けない笑みをこぼした。
〈……情けないのぉ……分かってた、はずなのに……お主らにも、話そうって……〉
いつもの元気がない。相手をからかうような言葉も言わない。相当きている事が嫌でも分かった。すると亜矢都がポンっと灯茉の肩に手を置いた。その意味が分からない灯茉はその手を見て、首を傾げた。
〈ねぇ灯茉。ワタシ達も驚いてるわ、とっても〉
〈でも、今は、その感情を全て吐き出した方がいいよ?〉
〈よいしょ〉と声に出しながら弥厳が亜矢都の隣にしゃがむ。灯茉は2人の言葉が理解できなかった。
感情?なんのこと?どういう事?
するとツルギがしてやったりという顔で灯茉に言った。
〈分かってないみたいだけど、その涙を全て流せって言ってんだ〉
〈な、みだ……〉
灯茉が自身の頬に触れると生ぬるい水が伝った。涙。それが何の涙かを理解した瞬間、涙が止めなく流れ出した。ずっと、長年、溜め込んでいた涙が流れ出す。
自分は、怖かった。国彦に自分がやったことを知られるのが。嫌われてしまうのが。
不安だった。また、一人になるのではないかと。
自分は、妾は、何かを失うのが怖かった。だから、だから…………!
灯茉の涙が止まるまで全員は優しく彼を見守っていた。
灯茉の涙が流し尽きた頃、灯茉は再び、その瞳にいつもと同じ、強い光を宿していた。それにそこにいる友人達、全員が安心感を得た。真剣な表情で灯茉が言い出す。
〈…お主らに、言わねばならん事がある〉
〈"忌み子"、ですか?〉
狐幸が戸惑いながらも聞くと、灯茉はゆっくりと頷いた。その表情はまだ固かった。何を言われるのか、怯えているような。同じ神だからこそよく分かる。彼らはそんな彼を安心させるように笑いかけながら声をかける。
〈なぁーに、んな暗い顔しとんねん!おれらがきみの事、悪く言うとでも思うたか?〉
〈白鉄の言う通り。貴方自身の考えにオレ達がとやかく言うつもりはないし、嫌う訳もない〉
〈すでに仲間ですしね。仲間とは裏切らぬ者と、お聞きしております〉
〈我が主とも仲が良く、私達を気にかけてくださった優しい灯茉様ですから〉
〈お前にからかわれた事、根にもってんだから俺の冗談くらい軽く流せるようにしろって〉
〈神は全員、兄弟のような者だろう。安心しろ〉
〈ねぇ、灯茉。大丈夫よ。みんな、みーんな、味方で、アタナの仲間で、友人なんだから!〉
それに灯茉は目を見開き、感極まったのか一瞬、顔を伏せた。
もっと早くに逢えていたら…いや、逢えたのならそれで良い。
灯茉はクスリと笑って、いつものように口元を袖口で隠して言う。
〈お主らにそう言われるとは妾も落ちたかもしれぬのぉ………ありがと〉
照れ隠しの彼のお礼。頬が赤く染まった灯茉が笑う。全員が笑い、しばらく笑った。
しばらく笑いあい、灯茉の真剣な表情に全員が真剣な表情で返す。今、聞こう。君達2人の、封じられし"思い出"話を。
灯茉は一瞬、視線を伏せたが、決心してその光を宿した瞳を上げた。凛々しい、会った時とは別人の瞳と表情がある。
そして、灯茉はゆっくりと今まで誰にも明かさなかったその重い口を開いた。
**
千聖は他の友人達に背中を押されてラウンジのソファに膝を抱えて座っている国彦の元へとゆっくりと歩み寄った。
「…国彦、落ち着いたか?」
千聖の問いに国彦は俯いたまま頷いた。それに千聖が入り口付近で心配そうにたむろっている全員を手で呼ぶと全員がゆっくりとやって来た。千聖がボフっと勢いよく国彦の隣に座ると頭に手を置いた。優しくクシャ…と撫でた。国彦のもう片方に光希が控えめに座る。
国彦がゆっくりと顔を上げた。その目元は涙で濡れており、顔は不安に歪んでいた。
「くー兄、大丈夫?」
「…………なんで」
光希が彼を心配して言った時、国彦はポツリと呟いた。何に対する問いか、全員は一瞬、分からなかった。けれど、国彦が"思い出"した何かについての問いということは分かった。
「なんで、灯茉は、僕の記憶を……」
「ねぇ、国彦」
螢がぶつぶつと呟く国彦に声をかける。国彦は首を傾げながら目の前に軽くしゃがんでいる彼女を見上げた。国彦の瞳には少し涙が浮かんでおり、不安に、恐怖に押し潰されながらも微かな光を宿していた。螢は彼を不安にさせないようににっこりと笑いかけながら言う。
「国彦はわかってるんじゃないの?灯茉が、神様がなんでそうしたか」
「………?」
分からない、とでも言うように国彦が俯く。螢の言葉に理解出来たのか壱華と管狐が頷く。それに理解した全員も頷く。自分自身の臣下もきっと、そうする。分かるから、だって、きっと、それは。
「……………な、んで?」
「それはね、国彦だからだよ。灯茉はキミを守りたかったの」
「!」
嗚呼、そうなの…?
螢の言葉に国彦はばっと顔を上げた。そして、視線を漂わせて、考える。
僕を守りたかったの?あの、"思い出"から?僕のため、だったの?
「そう、だったの……ねぇ……っ」
国彦の両目から大粒の涙が溢れ落ちる。
嗚呼、僕は何を勘違いしていたの?灯茉が僕を裏切ったと思ってた?違う、灯茉は裏切ってなんかない。ずっと、長い時間、あの時から守ってくれてたんだ。僕はそれに気づかなかった。ごめんね、ありがとう。
「うっ……」
国彦が全ての涙を流し尽くすまで全員は何も言わずにただただ温かく見つめていた。
国彦の涙が枯れた時、彼の瞳には確かに強い光が宿っていた。過去と決別する決意が出来たかのようだった。国彦が小さく息を吸い、足を投げ出し、きちんと座った。
「…………聞いてもらってもいい?誰かに言うことで、乗り越えれる気がするんだ」
はにかんだ笑みには、まだ不安と恐怖が宿っていた。過去を、"思い出"を話すことを躊躇っている。大丈夫だと、励ますように口々に彼らが言う。
「第十部隊の期待の新人さんが乗り越えられねぇはずがないだろ?」
「ボクが選んだ一人だよ?自信を持って、キミがしたいようにすればいいの」
「大丈夫だ。国彦がそう思うのならば、乗り越えれる」
「いち兄が心配しないでって言ってる。ずっと友達だよって。あたしもだからね!大丈夫!」
「あのようにお強い国彦様の事ですわ、きっと乗り越えられます。わたくしが保証致します」
「過去は誰にでもあるよ。乗り越えなければ、先は見えない。大丈夫」
「聞いたか国彦。お前は大丈夫だ。こんなに心強い友人やお前を守ってくれた灯茉がいるんだ。心配すんな、全員、お前の味方だ」
全員の言葉と笑顔に国彦は感極まった様子で笑った。安心したのかその顔に不安と恐怖は微塵もない。
君らに逢えて、本当によかった。
国彦は真剣な表情をした。他の全員の表情も引き締まる。今、聞こう。君達2人の、封じられし"思い出"話を。
国彦の瞳には強い光が宿り、とても凛々しい。別人のようだ。
そして国彦は"思い出"した過去の、"忌み子"の話を話し出す。
〈「昔ーーーーーーー」〉
今、2人の口から封じられし"思い出"が語られる。それは、傷を負った人間を助けようと紛争した神様と、傷を負いながらも神様を信じた人間の、強い信頼関係の始まりの話だった。
少しプロフィール、隙間開くかもです。
・候補生&訓練関係者
灮兼光希
国彦達と同じ戦闘支部第十五期候補生の一人で最年少。男の娘。明るく元気な性格で武器は剣、臣下の神は剣のアイリス。
→戦闘支部防衛部隊所属
14歳、158cm+ヒール5cm
第一人称:あたし 第二人称:君
アイリス
光希の臣下で武器の剣。だが怠け者でいつも寝ている、そのためあまり喋らない。が光希の言葉にはたまに反応する。西洋の神(不明?)。
→戦闘支部防衛部隊(光希の臣下のため所属扱い)
栗粟 壱華
国彦達と同じ戦闘支部第十五期候補生の一人。諸事情により喋る事が出来ない。だが表情筋は動いているので表情豊か。武器は短剣(二刀流)で臣下の神はシルクで変化して闘う。
→戦闘支部防衛部隊所属
22歳、189cm
第一人称:? 第二人称:?
シルク
壱華の臣下で武器の短剣。諸事情で喋れない壱華の代わりに通訳をしている。白い猫。猫神。
主である壱華の呼び名は我が主
→戦闘支部防衛部隊所属(壱華の臣下のため所属扱い)
第一人称:私 第二人称:貴方




