Mission34.戦闘後の治療は、大切です
〈はい、よしっと〉
「痛っ」
パチンッと右頬に貼られたガーゼを軽く叩かれ国彦は軽く呻いた。それに目の前にガーゼとテープを事前の小箱の中に戻していた朝陽はクスクスと笑った。
復活する『忌鬼』の群れを見事倒した彼らは“砦”で治療を受けていた。国彦はいつの間にか頬を切られていたらしく、たった今、治療が終わったところだ。灯茉は長谷部に頼まれて(実際は引きずられて行ったと云う)“砦”の前で他の人の姿をしている神と共に万が一のための警備に当たっている。
国彦はいつの間にか負ってしまっていた傷をガーゼの上から撫でると朝陽に気になっていたことを訊いた。
「朝陽」
〈ん?なんだ?〉
「僕らが合同任務って知ってて千聖の担当医になったんじゃないの?」
朝陽が目を見開く。単純な疑問だった。朝陽は千聖の担当医で別れた後に戦闘支部防衛部隊『玄武』へ弟の付き添いでやって来た。光希に会うことは必然だが朝陽の場合は偶然に偶然が重なり過ぎている、と国彦は思っていた。朝陽は国彦の問いの意味を理解したようで小箱を閉じると笑って言った。
〈たまたまだよ、たまたま。俺が戦闘支部の任務内容知るなんて出来ねっつの。俺は兄貴に一緒に行けって言われて来ただけだし。びっくりしたぜー?〉
「い、いひゃいいひゃい」
〈ははは〉
悪戯っ子の笑みで国彦の無事な左頬をつねる。国彦は痛いと身を捩る。国彦は自分の考え過ぎかとつねられた頬をさすりながら「ごめんね」と頭を下げた。それに朝陽は大丈夫と笑う。その時、国彦の隣にドカッと千聖が座り込んだ。管狐との話が終わり、こちらに来たらしい。
「あ、悪ぃが朝陽。俺も治療頼むわ」
〈はぁぁ?!片付けた後に来やがってっ〉
朝陽がぶつくさ文句を垂れながら閉じたばかりの小箱を開ける。国彦は千聖の怪我を心配していた。
「千聖、怪我したの?」
「平気平気。ちょっと掠っただけだしな。ほら、ここ」
そう言って千聖が指差したのは緩めた首元。首元に一線、刻まれていた。血は止まっているようだ。千聖は困ったように笑った。
「いつの間にかついてた」
「僕も!ほら、ほっぺ」
「本当だなー」
クスクスと笑う2人。朝陽がベシッと千聖の頭をはたいた。千聖が文句を言おうと顔を上げると般若顔に近い朝陽がいた、ので黙った。
〈きみたちはなんでそんなとこを怪我するんだ!?千聖、もう少しボタン外せ!薬塗るから!!〉
「へーいへーい」
千聖は言われた通りにボタンを外す。と、国彦が見た傷は案外、深かった。それに国彦は心配そうに千聖と朝陽を交互に見た。
「深そうだけど…大丈夫?」
〈こんなん薬塗りゃあ治る。血ぃ止まってるしな…我慢しろよ〉
「いっっっ?!」
朝陽が千聖の傷に薬を塗ると彼はしみる痛みにうめき声をあげた。朝陽は痛みで呻く千聖の事などお構いなしに薬を満遍なく塗り、ガーゼを貼った。
〈はい、終了〉
「いってぇ…」
「大丈夫?国彦」
国彦が問うと彼は大丈夫大丈夫と手を振りながらボタンを直して行った。朝陽は道具を小箱に戻し、辺りを見回した。そして呆れ顔で2人を振り返ると言った。
〈俺は他の人の治療に行くな。次、大怪我したら承知しねぇから!〉
「へいへい」
「うん、ありがとう朝陽」
歯を見せて笑い、朝陽は小箱を持って別の所へと去って行った。残った国彦は千聖に闘いで聞いた、あの“声”の事を問った。
「千聖」
「ん?なんだ?」
「あの“声”ってなんだったんだろう?」
「さあな。あの“声”のせいで『忌鬼』が復活しちまったんだし、“声”がなんらかの力を持ってる事は確かだろうな」
「そっか…あ、あとさ」
国彦が灯茉と千聖と共に協力して最後に倒した『忌鬼』。その時に自分の近くで聞こえたあの濁声。灯茉に聞いたところ、彼は聞いていなかった。だったら千聖は?もしかするとあの“声”を聞いているかもしれない。“声”の正体を見たかもしれない。そんな考えから国彦は彼に訊いた。
「千聖は最後の『忌鬼』を倒した時、何か聞いた?」
それに千聖は怪訝な顔をして首を傾げた。
「いや?聞いてないけど…それがどうかしたか?」
「う、うんん。なんでもないよ」
「そうか?」とまだ怪訝な顔をしている千聖。国彦は空耳だったのかな…と自己完結した。
「いた!国彦ー!千聖ー!」
「「?」」
その時、螢が2人を呼んだ。
その後、戦闘支部第十部隊『神樂』は防衛部隊『玄武』と数日間、街に滞在し、復興を手伝った。第五部隊『黄金帝龍』は本部への報告のために早く帰還した。
『神樂』と『玄武』が『『禁忌』対抗専門組織』の建物に帰って来た時には復活する『忌鬼』についての話題ばかりだった。そして隊長である西珠と管狐が本部に緊急会議に呼ばれた。その間、国彦達は久しぶりの友人達と憶測を交えた新しい『忌鬼』や部隊の話に花を咲かせていた。
“誰か”の背後を睨みつける瞳がある事など、此処にいる誰も知らない




