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禁忌×戦闘ディストーション  作者: Riviy
第三章 蠢く気配
31/85

Mission31.緊急事態はいつも突然で…?



「ボク、基地ここの図書室にいるね」

「オレも同行するかなぁ…」

「え、あ…いいの?」


戦闘支部防衛部隊がこの街に設置した仮の基地は古びた建物だった。その建物内には図書室と保育園が入っていた。今はどちらも廃れており機能はしていないが部屋がいっぱいあるため基地としては持って来いだった。

螢は何故か図書室に行くと言い出し、それに同行するように西珠も言った。西珠は長谷部が苦手だからだと分かるが螢は分からない。弥厳と管狐の顔色を伺うように国彦が問うと管狐は大丈夫だと頷き、弥厳は曖昧な笑みで言った。


〈主は…螢はちょっと理由があってなぁー〉

〈私が嫌いなのだろう〉

「違いますぅうう!!やっくんの知り合いが多くて嫉妬してるんでs………あ」


螢が図書室に向かっていた廊下でそう叫ぶと突然、赤面した。自分が言っていた事を理解したらしい。そういうのに疎い国彦でも意味が分かり、千聖と笑い合った。


「螢ちゃん正直者ー」


西珠が螢の横でからかうが螢の耳には入っていない。螢は顔を両手で覆い隠すと図書室に逃げ込んだ。


〈え、ちょっ?!螢?!〉


弥厳がそんな彼女を追って図書室に走り込んで行った。行く直前に国彦は弥厳が嬉しそうに笑っているのを見た。西珠がその後にのんびりと続いた。


その後、国彦達は光希の案内で中央にテーブルが配置された部屋に通された。そのテーブルに各自座った所で真っ先に千聖は「なぁ」と声をあげた。


「合同任務って何すんだよ?それに関係が複雑すぎて…」

「あ、僕も千聖に同意…」


千聖の言葉に国彦が小さく手を上げた。管狐はクスリと笑って帯刀している刀をテーブルの上に置いた。その間に光希はお茶を淹れて来ようと、部屋を出て行った。


「合同任務については後で確認するとして。2人が知りたいのは長谷部と俺の臣下の関係だろう?」

「まぁ、うん」

〈国彦は気になる事が出来るとすぐに顔に出るからのぉ〉

「ちょっ?!灯茉!要らない事言わないで!」


灯茉がからかい半分で言った事に国彦が恥ずかしそうに顔を赤くする。それをクスリと笑う千聖。真っ正面に座る長谷部の顔はピクリとも動かないが。それが気に食わないのか灯茉は不貞腐れたように右耳のイヤリングを弄り出す。

それらを眺めていた管狐がタイミング良く話し出す。


「さっきも説明した通り、俺の臣下と長谷部は兄弟。俺が兄弟と初めて会って長谷部に今の副隊長を紹介した」

〈大将と書いて大将バカと読むがな〉

「攻撃力、防御力は共に良いだろう?」

〈まぁ、な〉


管狐の問いに長谷部は満更でもないようで、小さく笑った。管狐は自身の臣下である刀を優しく一撫でした。千聖は「ふーん」と理解したようだったが国彦は今だイマイチだ。だが合同任務の方が気になるので納得したと頷いた。それに管狐はよし、と頷いた。


「で、合同任務の件だが…【-ブーッ!ブーッ!-】」

「(ビクっ)?!」


管狐が話そうとした時、部屋の隅に置かれた通信機が震えた。長谷部が立ち上がり、通信機のマイクを手に取った。音に驚いた国彦に灯茉が静かに、と人差し指を口元に当てる。それを国彦も真似る。和む、隣で千聖はそう思った。


〈こちら戦闘支部防衛部隊『玄武げんぶ』。哉山なりやまノ街にて現在、任務に当たっている…嗚呼、第十部隊かぐらとは合同任務で一緒だが?……うん、うん……はぁああ?!〉

〈どうしたのじゃ?〉


長谷部の緊迫した声に灯茉がのんびりと聞く。長谷部が通信機のマイクを握り締めたまま、彼らを振り返った。ちょうどその時、光希がお茶が入ったコップをお盆に乗せて帰って来た。緊張した空気が流れる彼らに何かを察した光希はお盆を持ったまま真剣な表情を浮かべた。


〈…戦闘支部第五部隊『黄金帝龍おうごんていりゅう』より通達。この街に『忌鬼』の群れが接近中との事。第五部隊がこの近くで討伐中にその『忌鬼』共が現れたらしい。第五部隊が此処に来る数を減らそうとしているらしいが…〉

『?!』


全員が緊急事態に驚きながらも立ち上がった。戦闘支部最強と言われる第五部隊からの情報だ。『忌鬼』の数も相当のものだろう。光希はお盆をテーブルに叩きつけるように置いた。ガシャンッッ!とお盆に乗ったお茶が強い衝撃に悲鳴を上げる。


「長谷部さんっ!あたしっ!」

〈嗚呼、“砦”を他の奴等と頼む!〉


光希が長谷部からの指示に力強く頷くと部屋から走り去って行った。呆然と立ち尽くしていた国彦が遠慮がちに問った。


「と、“砦”って?!」

「俺達は何すればいい?!」


国彦と千聖の質問が被った。長谷部はなんでそんな当たり前な事を聞く?とあからさまに顔を不愉快そうにしかめたが、少しして、〈嗚呼、貴様等、知らないもんな〉と一人で納得した。管狐がその間に図書室に行った3人を呼ぶために出て行ったがそれを見つけたのは灯茉のみだ。


〈“砦”ってのは後方支援支部が政府に考案した『忌鬼』用防衛シールドの名称だ。今月に試験段階に入り、許可を得てこの街に設置したんだ〉

「あ、“砦”ってその事か」


千聖が納得した様子で声を上げる。国彦もこんな状況なのに感心した声を上げる。長谷部は千聖の問いには後でやって来る管狐が答えてくれると思ったのか別の通信機のマイクを手に取った。


〈戦闘支部防衛部隊より緊急連絡!『忌鬼』がこの街に接近中!至急、“砦”に移動を!繰り返す!“砦”に移動!〉

「国彦!千聖!」


街中に響き渡る放送に人々が“砦”目指して急いで走り出すのが窓から見えた。部屋に入って来た声と音に振り返ると西珠と螢、弥厳、3人を呼びに行った管狐がいた。


「管狐から話は聞いた!『忌鬼』討伐に行くぞ!」

『はい!』

〈私も行く。副隊長である大将バカ高熱だいしょうで居ない以上、私が様子を見なければ〉


西珠が下した命令に国彦と千聖が返事をすると長谷部がマイクを置いてこちらを振り返った。それに管狐が軽く頷いた。そして彼らは武器を片手に部屋を、建物を飛び出した。



長谷部の主である副隊長さんの呼び名がどうしても大将バカしか思いつかなかった……

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