Mission14.緊急事態なんか、仲間がいればへっちゃら
時間は少し遡るーー
国彦達と別れた千聖と管狐は神社の周りを一周し、二周目を開始していた。裏手を管狐が覗き込むとこちらに背を向けて泣いている幼い子供がいた。一周目では見なかったので警戒しながら管狐は千聖を呼んだ。
「千聖、あれ」
「ん?」
千聖も覗き込み、変だなと2人で首を傾げる。とりあえず、2人はゆっくりとその子供に近づいた。
〈坊や、どうしたの?〉
大斧の亜矢都が優しく問うと子供は背を向けながら泣きじゃくりながら言った。
〈『忌鬼』が、っひく、いて…〉
「こいつ、此処の神様か?」
「だろうな」
子供の答えに千聖と管狐は一瞬、警戒を解いた。が、待て待て。神様だとしても出てくるのが遅くないか?『忌鬼』がいると分かっていて隠れていたとしても千聖と管狐が契約を結んでいる事は神ならばすぐわかる。さっさと出て来て助けを求めればいいものを。なんでそれをしなかった?
…………………可笑しくないか?
「狐」
「嗚呼………」
千聖が大斧を握り締め、管狐が腰の刀の柄を握る。亜矢都も理解したらしい。警戒する2人の代わりのように優しく子供に話しかけた。
〈坊やは、神社の神様?他にはいないの?〉
〈………他、に?〉
泣き声が止まった。嫌な気配が漂う。遠くで闘う音がする。子供はゆっくりと立ち上がり、こちらを振り返る。
千聖はゴクリと唾を飲み込んだ。相手は『忌鬼』か、はたまた神様か。
〈他にもいるよ?………『忌鬼』ッテイウ鬼ガネ〉
「「?!」」
振り返った子供の顔には3つの赤い瞳が輝き、その背中からは先ほどはなかった4本の腕が伸びていた。『忌鬼』だ。ハッと管狐が周りを見回すとランランと輝く無数の光。『忌鬼』に囲まれているようだ。
『忌鬼』は喋れるものもいれば喋れないものもいる。多種多様だ。だからこうやって罠を仕掛ける『忌鬼』もいるのだ。
「罠だったかっ!」
「おいおい…初戦が罠ありって!」
〈どうするの?!〉
動揺する2人と亜矢都。管狐が刀を抜き放ち、『忌鬼』にその切っ先を向けながら言った。
「千聖、こいつらを狩るぞ。螢達が来るまで足止めだ」
「!…了解、狐。亜矢都!」
〈お任せアレ〜〉
2人は武器を構え、『忌鬼』の群れに跳躍した。
**
それがつい数十分前の出来事である。たくさんいた『忌鬼』の半分を削った。が数が数なだけに2人は疲労仕切っていた。国彦達の方にも何体が行っているのか国彦達は来ない。もう少し、もう少しで来ると暗示しながら2人は『忌鬼』を切る。
千聖が大斧で『忌鬼』を数体なぎ倒した時だった。管狐のハッとしたような声が後方から響いた。
「千聖!」
「?!……っ」
前転して後方から突き刺された刃物を避ける。が頬に一線刻まれてしまった。千聖は面倒いなと思いながら立ち上がり、自分を狙っている『忌鬼』を睨み付ける。そして『忌鬼』に向かって駆け出すと上段から大斧を振りかざす。『忌鬼』は背中から伸びた木の枝のような刃で防ぐ。木の枝のように枝分かれした刃が『忌鬼』と競り合いになるにつれて千聖の顔や首元に引っ掻き傷をつけて行く。バッと千聖が『忌鬼』を弾くとその背後から管狐が刀で背中の木の枝をバッサリと切った。
「ナイスタイミング!」
「嗚呼」
攻撃手段をなくした『忌鬼』は他の『忌鬼』と入れ違いになって下がった。まだまだ敵はたくさん。早く来てくれないか、あいつら。
そう千聖が思い、大斧の柄を強く握り締めた、その時だった。
〈来た来た来たぁああ!!来たわよちーちゃん!!〉
大斧から亜矢都の歓喜の叫び声が響き、千聖は思わず耳を塞ぎたくなったが亜矢都の言葉にその動作を中断した。
「…誰が、来たって?」
管狐が問うと亜矢都は嬉しそうに叫んだ。
〈国ちゃん達よ!!〉
その声と共に背後でズシャッと何かが切られ、倒れる音がした。その方向を振り返ると大太刀を構えた国彦とその傍らに漂う灯茉、槍を構えた螢とその傍らに寄り添うように立つ弥厳がいた。
「ごめん!待たせた?」
「ちょっとだけな」
螢の問いに管狐が苦笑しながら答えた。国彦が千聖の引っ掻き傷に気づき、軽傷でありながらも心配そうな顔をした。それに千聖はクスッと笑った。
「千聖!大丈夫?」
「大丈夫に決まってんだろ!」
千聖がそう返すと国彦は安心したように微笑んだ。螢がカンッと石畳に槍の柄を叩き、戦闘支部第十部隊『神樂』に気合を入れる。
「さて、みんな!さっさと終わらせて帰るよ!」
〈承知、螢!〉
「了解した」
「あいよ」
〈お任せアレ〜!〉
「はい!」
〈嗚呼〉
全員が『忌鬼』に向かって跳躍し、『忌鬼』も跳躍した。
**
「んー!昨日手に入れた酒は当たりだな!」
酔いから回復した戦闘支部第十部隊『神樂』隊長、西珠はまた手にした酒瓶の中身をあおった。
「にしてもオレを置いていくかねぇ…」
ガシガシと頭をかきながら西珠はぼやく。がすぐに納得したように頷いた。
「まっ、酔っ払ってたオレが悪りぃか」
と、また酒を飲む。ラウンジには誰もいないが西珠の背後の背もたれに寄りかかる一つの気配がある。誰かは分かっているので西珠は何も言わずに酒を飲み続ける。同じ酒を飲みすぎたらしく、耐性がついたようだ。さっきより酔わなくなった。そして、からになった。酒瓶を逆さにしても何も出てこない。西珠は酒瓶を腰のベルトに繋げるとソファに身を委ねた。
「んー…ヒマだ」
背後の気配は何も言わずにこちらに背を向けたまま腕を組んでいる。その気配を一瞥するとラウンジに誰か入ってきた。途端に気配は消えたが西珠はラウンジに入ってきた誰か、彼らを見てニッと笑った。
「お帰り」
「隊長!起きたんですか?!」
彼らは国彦達である。
『忌鬼』を全て討伐し、本物の神様も保護した。神様はお社に身を潜めていた。任務完了である。全員が軽傷を負ったものの医療支部で治療は終わっている。神と契約や縁を結んでいる彼らは普通の人間より回復が早く、普通ならば出血多量で死ぬような重傷でもギリギリで死なない。ギリギリなので治療が遅ければ確実に死にます。
螢が起きていた西珠を見て驚いたように言う。西珠はまぁなーと頭をかくと新人に目をやった。
「その2人か?螢ちゃんが選んだのは」
「ええ、そうですよ」
「飲むのを控えたら良いのに」
「すまんなー管狐。オレから酒をとっちまったらなんにも残らないからなー」
管狐のアドバイスに西珠は笑って言う。そして国彦と千聖、灯茉を見て笑った。
「ようこそ、改めてオレは戦闘支部第十部隊『神樂』隊長、西珠だ。宜しくな」




