2話 明治とか、そんな馬鹿な
「んでな、せがれ玉蔵って言うんだげどもよ、ガマの穂かじってまってなぁ。口ん中わただらげにして、ないでだんだわ(泣いてたんです)」
「ははは! あるある。うまそうだもんな、あれ」
「にぃしでも、これうめぇなー」
どんなとこでも酒と肴があれば話にも花が咲く
囲炉裏もあるし欠けた茶碗で飲む酒も乙なもんだ。
「あれ、薪ねぐなっだが」
「ああ、とってくるかい? どこさあるの」
「小屋ん裏だ、あい、すまね」
「いい、いい、これぐらいはね」
うう、日も更けてくると流石に寒い。
それにしても、星がすごい綺麗だなー。
札幌とか夜中に高速乗って帰ると街の明かりが空を明るくしちゃうんだよね。まぁあれはあれで安心感あるんだけどさ。
ん、薪の隣に炭袋があるな。
薪と炭もいくつか持って莚をくぐる。
「この炭って親父さんが作ったの?」
「んだ」
炭を軽く叩き合わせると澄んだガラスみたいな音がする。
色も薄く白くなってて、こりゃいい炭だ。
「この炭いいねぇ、ミズナラ? 炭作るの上手いねえ、職人技だ」
「ははは、はっさえぐびんぼうなだげだ(器用貧乏なだけだ)」
「いやいや、備長みたいだよこれ」
「備長ば言い過ぎだ! えへへへ」
「囲炉裏でちょっとべっこ燃してもいい?」
「ええよぉ」
細い薪がチロチロと火を上げてるところに炭を割って入れてみた。おお、火付きもいい、この炭でバーベキューしたいなぁ。
「火付きもええでないの、やっぱいい炭だわ」
「あんましあおんねぇでくれや、こっぱずかしいわい。(そんなにおだてないでください、恥ずかしい)そいや、なじょしにこっちきだの? (何をしにこっちに来たんですか?)」
親父さん、照れ臭くて話を変えたなー。
「遠軽にある工場ん機械直しに来たのよ、んで帰りに事故ってこのありさまさ」
「いやぁ、たいしたもんだない。お付きの方々も、さぞご心配しておらんしょなぁ」
「いやいや、一人よ。男一匹、気楽なもんさ」
「はぇー」
「親父さん、いつからここで炭焼いてるの?」
「んー、10年ぐれぇになりますかねぇ。ここさきだのが明治24年だどもな」
「明治? まぁた冗談ばっかし、仙人様じゃあるまいし」
「いやいや、冗談じゃねぇ。ほれ、見でみろい」
首にぶら下げていたお守りから小さく折りたたまれた紙を渡され開いてみる。
「なになに、明治24年4月、入植許可、入植許可書?! え、え? なに、これ」
「なあに、会津から来たなだけだべ。そだげおどろぐごどがい?」
しわくちゃになっているがどう見ても100年以上経ってるようには見えないし、判子の紅色が鮮やかだ。
この人のいい親父さんが俺を驚かせるためだけに肌身離さず持っているとは考えづらい、狐にでも化かされてるのか。親父さんが幽霊とかないよな。それとも事故って頭打って幻覚でも見てるのか。
「親父さん、本当におかしいことを聞くんだけど、今って何年?」
「えぇ? 明治34年にきまってっべ」
明治34年! 明治34年っていつだ。
何年前なんだ?100年前くらいか?
嘘だろ、おい。
「親父さん、これみたことある?」
「ありゃあ、こんなもんが町で売ってんだがいなぁ」
ペットボトル、LEDライト、紙幣と色々見てもらったがどれも見たことがないらしい。
特にLEDライトは親父さんが物欲しそうに見ていたが、ごめん、商売道具だから譲ってあげられないわ。
これは、ひょっとしてほんとに明治に来ちゃったってことなのかな。いや、色々おかしいことには気づいてはいたんだよ。親父さんの恰好とかも靴じゃなくて草鞋だし。今時ウサギの毛皮なんて使わないし。
いてもたってもいられず外に飛び出した。
親父さんがびっくりした声を上げたがそれどころじゃない。向こうにあるはずの道路に明かりの一つすらないってものありえない。
「なしだの」
小屋の入口から心配そうな顔でこちらを見ていた。
「い、いや、随分遠くにきじまっだとおもっでさ。驚かせてすいません」
「いい、いい。おちついだら中さ入んなっせ。さぶいがら」
馬鹿野郎、親父さんに気を遣わせてどうするんだ。
今更じたばたしても仕方ねぇだろ、深呼吸だ、深呼吸。
明日になれば息子さんも来るっていうし、待つしかないだろ。
だけど、もし本当に100年前に来たってんならどう帰ればいいんだ、これ。
主人公は道内津々浦々で仕事してるから色んな方言が混ざっててます。




