表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
84/97

73 帰国

 翌朝。


 爺さんに事情を伝えるため、宿舎へと訪れていた。



「よもや追い返されて来るなどと、其方そちは何をやらかしてきおったんじゃ」


「すまない」


「……まあよいわ。妙なことに、抗議らしい抗議が一切来とらんしのう」


「そうなのか」


「ともあれ、こうして戻って来おった以上、遊ばせておくつもりもありゃせん。他の騎士と共に魔獣討伐に尽力せい」


「ああ、分かってる」


「予定どおりならば、明日にも嬢たちが戻っても来ることじゃろう」


「今は第五門から向かってるんだよな」


「そうじゃ。今回も空振りならば、いよいよ以て厄介なことになるわい」


「東、か」



 魔族領東部。


 王国の北東、獣人族領からは北に位置する地域。


 史上最も手付かずな場所であり、まず間違いなく魔獣の巣窟と化している危険極まりない土地。


 先生曰く、獣人すら近寄りもしないそうだ。


 怪物が休眠しているとすれば、此処こそが一番可能性としては高い。



「左様。魔族領東部となると、もう補給すらも見込めん。如何な嬢たちとて、持てる物資には限りがあるからのう」


「じゃあ、どうするんだ?」


「現状、考えておる案は3つ。1つ目は、最初と同様、全軍での行動じゃな」



 流石にそれは無理があるだろうな。



「2つ目は、補給可能な位置に陣営を構築し、そこを起点として嬢たちを向かわせる」



 結局は3人頼りなわけか。


 これだと、3人の心配もそうだが、陣営の防衛の面で難がある。


 何せ、主力が不在になるわけだしな。


 加えて、陣営をさらに奥側へと移動させられなければ、3人だってそう遠くへは赴けまい。


 つまりは、これも実行は厳しい。



「3つ目は……これはもう、案ですらないがのう」


「どういうことだ?」


「要するに、遠征の断念じゃな」



 今回の遠征は、爺さんが皇帝に進言したから実施されたわけで。


 発見したならまだしも、何の成果も無かった場合、結構マズいことになるんじゃないか?



「それは……いいのか?」


「良いわけがなかろう。何らかの形で責任を取らねばなるまいて」



 3人の成果次第では、事実上の詰み。


 見付かるべきか、見付からないべきか。


 爺さんの処遇と、彼女たちの安全。


 であれば、比べるべくもあるまい。


 頼むから、このまま何事もなく終わってくれ。






 北区東端、第五門の外。


 しばらくぶりになる、騎士たちとの魔獣討伐。


 気にし過ぎなのかもしれないが、魔獣の数が多いようにも感じられる。


 少なくとも、通常個体よりもキメラ型が多いのは確かな様子。


 討伐に手間取っていることが伝わってくる。


 それでもどうにか戦えているのは、門の内側で休息が取れているからか。


 野営中であれば、もっと雰囲気がすさんでいたように思う。


 と、此処で傍観者を決め込むわけにもいかない。



 ≪勇敢ブレイブ



 精神魔術の初級。


 魔術を使い、魔獣の注意を引き付ける。


 さてと、憂さ晴らしに付き合ってもらおうか。






 改めて思う。


 魔獣の数は異常に過ぎると。


 連日に亘り、こうして討伐を続けているのだ。


 にも拘わらず、何処からか湧いてくる。


 雌雄同体であり、繁殖力が高いとは習ってはいた。


 それにしてもだ。


 毎日、何十何百と増えてはいないだろう。


 あるいは。


 そう、あるいは。


 怪物が日々、魔獣を生み出し続けていたりするのだろうか。


 あの決戦の最後のように。


 色々と思惑は外れたものの、騎士の強さは把握できた。


 だがしかし、果たしてこれで、怪物との決戦に耐え得るのか。


 決戦時の光景が蘇る。


 魔獣の群れは凄まじかった。


 門の内側で、次々と生み出される魔獣たち。


 得られた教訓としては、門の内側へは入れるべきではない、ということ。


 あの状況へと至ってしまっては、立て直しもままならない。


 門の外で、ただひたすらに魔獣の群れと戦い続ける。


 ああまったく。


 気の滅入る話だ。






 明くる日の午後、3人が帰還を果たす。



「して、どうじゃった?」


「残念ながら。発見には至りませんでした」


「そうか」


「いや~、やっぱり東側がヤバいね~。それはもう、うごくだかひしめくだかっていう有様さ~」


「魔獣の総数は、我々の想像を遥かに上回っているようです」



 魔獣を瞬殺できるコイツらが言うのだから、相当なのだろう。



「掃討は可能そうか?」


「正直、我々だけでは厳しいでしょう。ああした集団相手ならば、魔術師向きに思えます」


「騎士では相手足り得ぬと申すか」


「単純に相性の問題です。近接、単体に於いては我々が。遠距離、複数に於いては魔術師が優れる。とはいえ、私見ではありますが」


「王国を頼れと申すか」


「我々だけでは殲滅はおろか、突破すらも不可能です」


「もうよい。苦労じゃった。ゆるりと休め」


「ハッ」


「ん」


「はいよ~」



 3人が退出するのに合わせて、長い溜息が吐き出された。



「……どうやら此処までのようじゃな」


「なら、帰国するのか」


「仕方あるまい。今から王国に要請したとて、準備が整うまでに、どれほどの時間を要することか知れたものではない」



 思いがけず、黒竜はいい仕事をしてくれた。


 魔術師の重要性。


 爺さんにも、多少は印象付けられたことだろう。


 決戦時に於ける共闘も、可能性は上がる。


 一方で、魔獣の総数に関しては、どうにも疑念が残る。


 思い起こすのは決戦の折。


 門の外の様子こそ直接見れなかったものの、局長たちの遣り取りを聞いていた限りでは、そこまで絶望的な数が押し寄せてはいなかった気がする。


 それだけ魔術師の殲滅力が優れていたのか。


 それとも、戦力を温存していただけなのか。



「明日撤収する。騎士たちに準備させておくよう頼むぞい」


「俺がかよ……まあいい、分かったよ」






 責任を取らされた爺さんが、謹慎処分となってからしばらく経った。


 相も変わらず、国境警備に従事する日々。


 予定に変更はない。


 魔獣をたおし、訓練を重ね、魔術の向上を目指す。


 その合間に、ふと気になったことを聞いてみることにした。



「なあ、オマエはどう思ってるんだ」


「何?」


「自分の生まれについてとか、さ。エルフのとこで聞いてたろ? 爺さんに思うところはないのかってな」


「無い」


「そうか」



 赤竜は割と気にしてる風だったが、白竜は違うらしい。


 というか、相変わらず感情が希薄過ぎる。


 それなりに長い付き合いになるが、少しも変わらない。


 いや、少しは変わったのか。


 命令しなくとも、会話できる程度には。



「俺なら……俺だったら許せないな」



 母親がそのような目に遭わされるなど。


 到底看過できるはずもない。



「何で?」


「そりゃあ、自分の所為で母親が苦しんでたなら、それこそ死んじまったってんなら──いや、すまない。無神経過ぎたな」


「母親……」


「何か、思い出とかあるのか?」


「よく分からない」


「そうか」


「母親、どんな?」


「どんなって、そうだな……」



 古い古い記憶の彼方。


 色褪せて、穴だらけで。


 顔も声も、もうよくは思い出せない。


 だがそれでも。


 未だ残っているものもある。



「母さんは、何て言うか、安心そのものって感じかな」


「安心」


「ああ。一緒に居れば、抱きつけば、不安が消えた」


「興味。会える?」


「いや、随分前に死んだよ。以前、王国の東区へ行っただろ? あの廃墟がまだ町としてあったころにな、魔獣に襲われたんだ」


「そう。残念」


「ああ、残念だ。残念だとも。どうして、あの日よりも前に戻れやしないんだって……」



 どれだけ繰り返そうが、両親を助けることだけは叶わない。


 両親を救えたならば、先生ともマザーとも、出会うことはなかったのか。


 もっと他にも、想像以上に多くの事物へと影響を及ぼすのかも。


 たとえそうだとしても。


 助けられるならば、迷わず選んだはずだ。



「そういや、父親はどうしてるんだ?」



 母体をどうこうとは聞いたが、父親に関しては何も言ってやしなかったよな。



「知らない」


「そう、なのか」



 怪物をたおしたなら、地下にあるという竜の骸も必ず処分してやる。


 この繰り返しの原因が竜にあるというのならば。


 それだけではなく、もうこれ以上、同じような奴が生まれずに済むように。



「……できることなら、オマエとは敵対したくはないんだがな」


「敵?」


「場合によっては、な」



 皇帝に、爺さんに、黒竜にと、障害は多い。


 そこにコイツが加わったとしても。


 それでもやる。


 遣り遂げてみせる。



「──お姉様を独り占めなんて、感心しませんわね」


「あ? ってまた、勢揃いだな」



 気配まで消せるようになったのか。


 遠征から戻ってすぐ、取り巻きたちも黒竜の訓練を突破してみせた。


 今では、同じ国境警備の一員である。



「いやーゴメンね。邪魔しちゃ悪いからって何度も止めたんだけど、聞かなくってさ」


「そのような事実はございませんわ」


「いやいや、歯軋りまでしてたじゃん」


「お姉様と二人っきりでお喋りなんてズルいです~」


「戦う?」


「おっと、それは勘弁してほしいな」


「無理無理無理無理」


「ワタクシたちではもう、お姉様のお相手は務まりませんわ」


「キミも懲りないって言うか、飽きないって言うか。卒業後も訓練を続けてたんだね」


「死にたくなけりゃ、今のうちに努力しとけ…………後悔する前にな」


「何か悲観的ぃ~」


「折角だ、俺が相手をしてやるよ。全員でかかってきな」


「ちょー生意気なんですけどー」


「絞めとく? やっちゃう?」


「どうせやるなら、負けた側は罰ゲームってことでどうかな? 勝った側の言うことを、何でも一つ聞くってね」


「おー、いいねー」


「賭け事などと、感心しませんわね」


「いやいや、そんな固く考えずにさ。遊びだよ遊び」


「悪いが金は無い。金以外にしてくれ」


「……それはおかしいですわね。騎士の御給金は、そうそう使い切れるとは思えませんが」


「金は全部、恩人のために使うって決めてるんでね」


「全部って……家を何軒買えると思って」



 あれから、もう随分と時間が経ってしまった。


 誰の記憶にも残ってやしない。


 情けないことに、前はアイツの金を頼っちまったことだし。


 少しは甲斐性ってヤツを見せてやらないとな。



「……みんなはさ、こっちが負けた場合、何されるとか考えないわけ?」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ