表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
85/97

74 決戦、再び

 日食。


 遂に、この時が訪れてしまった。


 黒雲で覆われた空の下、誰も彼もが緊張の面持ちで立っている。


 決戦の地は、魔族領と王国の国境。


 北壁ほくへきを背に、第一門の前に帝国勢が、第二門の前に王国勢が整列していた。


 四大しだいの何れかに適性のある上級魔術師は壁の上に展開。


 攻撃役はもとより、怪物や魔獣の陽動役も兼ねている。


 壁の内側には、簡易的な休息所や治療所が設けられており、長期戦に備えた改良が加えられていた。


 忘れてはならないのは、投石機の存在。


 これもまた、壁の内側に配置されている。


 前回と違うのは、その位置。


 壁の至近に位置取ることにより、いざという時の魔石の運用が楽になった。


 反面、壁を突破された場合の損失が甚大、否、壊滅的とすら言える。


 この投石機と魔石こそが、怪物を唯一(たお)し得る切り札なのだ。


 壁の死守の成否。


 それこそが、今回の決戦に於いて、勝敗を分ける要となるだろう。






 改めて思う。


 王国勢の数が多い。


 前回の決戦時の記憶よりも確実に。


 両軍合わせて、2千にも届きそうなほど。


 獣人だ。


 獣人が増えているのだ。


 それも、とんでもない数が。


 はたして、前回と今回とで、いったい何がどう違ったというのか。


 その理由は、よく見知った人物によるものだった。


 先生だったのだ。


 あの調査の折、俺の見せた記憶を信じてくれた先生が、2年もの期間を掛けて、町すらない獣人族領を巡り、説得して回ってくれていた。


 と、そのように先程、話を聞くことができた。






「なあに、気にするな。どうせ戦わねばならぬなら、より勝ちの見込める時と場所を選んだまでのこと」



 精霊は語った。


 獣人とは、あの怪物が人種ひとしゅを滅ぼすために生み出した存在なのだと。


 もしかしたら、怪物は獣人だけは滅ぼさないかもしれない。


 だが一方で、こうも語っていた。


 怪物は世界を滅ぼそうとしているとも。


 それはつまり、獣人すらも例外ではないということなのか。



「まあ何だ、小僧にばかり任せてもおれんからな」


「先生……」


「そう呼ばれるのも、いつまでか。ひょっとすると、もう小僧のほうが強いかもしれん」


「そんな、そんなこと関係ない」


「ふむ?」


「俺がそう呼ぶのは、この世でただ一人だけだ」


「ほほう、あの小僧がな。そうか、そう言ってくれるか。ならばその期待、応えぬわけにもいかぬな」


「いや、待ってくれよ。無茶な真似をしてほしいわけじゃあないんだ」


「小僧」


「な、何だよ」


「戦えば傷付き死ぬもの。誰もがそうだ。ワシとて例外ではない」


「だから──」


「この戦の果てに、もしワシの命が潰えていようとも、やり直そうなどとは考えてくれるな」


「そんなこと言うなよ。言わないでくれよ」


「もう幾度繰り返した? 望む結果が得られるまで、後、幾度繰り返すつもりだ?」


「何度だってやってやるさ」


「そのような真似、道理に反する。歪に過ぎる。何を代償としているかも分からん代物だ。そのようなモノを頼みとするな。小僧の口癖だったろう」


「……他者を頼みとするな、か」


「そうだ。ワシを救おうなどとは思うな。いや、その思いの分まで、他の者を助けてやれ」


「んなこと、できるわけねぇだろ。助けてみせるさ」


「そう背負い込むな」


「最初に背負ってくれたのは先生だっただろ⁉」


たわけ。そういう意味ではない」


「違わねぇ! いいや、違ったって構わねぇ!」


「聞け。ワシは小僧に守られるために来たのではない。小僧と共に戦うために来たのだ。ワシの意志を、捻じ曲げてはくれるな」


「けど、だってよ」


「そもそも、小僧がワシの心配などと、数百年は早いわ。ほれ、もう戻れ」






 先生はああ言っていたけれど。


 到底、了承できるようなものではない。


 遣り遂げてみせる。


 大事な人を犠牲にすることなく。



「なあ旦那~、アレに敵いそうかい~?」


「敵う敵わんではない。必ずたおさねばならん」


「ホントに同じものが見えてる~? 気概だけで、どうこうできるもんかね~」


「この力。今を於いて他に、いつ発揮してみせる」


「望んで得たわけじゃあないけどね~」


「相手にとって不足なし。存分に揮え」


「ヤダな~、シンドイな~」


「ふざけている場合か」



 緊張、不安、怯え。


 そんな騎士たちを余所に、赤竜と黒竜の遣り取りが続けられる。


 両者の声に震えはない。


 むしろ、周囲が歪むほどの闘気を纏わせている。



「ともあれ、まず相手取るのは魔獣だ」


「そう言われると、やることはいつもとあんまり変わらないね~」


「そうだ。迫りくる魔獣を、片端からたおせ。アレの相手は、王国が担う」


「そいつはありがたいね~」



 赤竜は正面を向いたまま、黒竜のみがこちらへと体ごと振り返ってみせた。


 そうして告げる。



「聞けい! 我ら帝国騎士は魔獣如きに遅れは取らん!」


「「応!」」


「ただの1体たりとも、後ろへ通すことまかりならん!」


「「応!」」


「友を助けよ! 仲間を助けよ! 同胞を助けよ! 見捨てることなど、あってはならん!」


「「応!」」


「失わせるは敵の命のみと知れ! 我らの命、くれてやるな!」


「「応!」」


「友を想え! 仲間を想え! 家族を想え! 愛する者を想え! 帰るべき場所を想え!」


「「応!」」


「忘れるな! 如何に今日が長かろうとも、明日は必ず訪れる! 明日を変わらず迎えてみせろ!」


「「応!」」


「顔を上げろ! 腕を揮え! 脚を止めるな!」


「「応!」」


「帝国に栄光を! 我らに勝利を!」


「「帝国に栄光を! 我らに勝利を!」」



 千の声が大気を震わす。


 こちらに触発されてか、王国側でも声が上がる。


 意気軒昂いきけんこう


 それはいい。


 それはいいが、それだけでは敵うべくもない。



「旦那はいちいち大げさだね~。これじゃあ、余計に魔獣が寄ってきちゃうよ~」


「構わん」


「え~」


「王国の者たちは壁外戦に慣れてはいまい。その分、こちらが引き受ける」


「それはまた、お人好しが過ぎると思うけどね~」


「偶にはやる気をみせろ」


「毎日毎日、結構頑張ってると思うんだけどな~」


「ならば簡単なことだ」


「ん~? と言うと~?」


「いつもより、もう少し頑張ってみせろ」


「うへ~」






 眼前の荒地を埋め尽くさんばかりの、魔獣の群れ。


 黒雲と相まって、大地が黒く染め上げられているかのよう。


 重なり合った轟音と地響きが迫りくる。


 と、黒雲が稲光を孕み始めた。


 呼応するかのように、雨が降り注ぐ。


 ……どうにもおかしい。


 雨は魔獣たちのみを打ち付けてみせる。


 こちらには一滴すらも降らずにだ。


 さらなる変化。


 世界が白光する。


 遅れて、激音が連続する。


 落雷。


 魔獣の群れを次々と打ち据えてゆく。


 とてもではないが、偶然生じた自然現象とは思えない。


 ならばこれは、意図的なモノ。


 至高と名高い魔女の成せる御業か。


 続くのは、やはり壁上。


 群れの只中で、岩が、風が、強襲する。


 敵の勢いは、しかし止まらない。


 なおも怒濤となって押し寄せる。



「隊列を崩すな! 押し留めろ!」


「「応!」」


「では、我らは行くぞ」


「いっちょ、やりますか~」


「ん」



 黒と赤と銀が線と化す。


 縦に横にと、群れが穿たれてゆく。


 怪物は未だ遠い。


 戦闘はまだまだ始まったばかりに過ぎない。






 各所で戦闘が開始された。


 あの3人が率先して成体を討伐しているのか、来るのは幼生体ばかり。


 魔術は温存し、慣れぬ武器を揮って応戦する。


 斬りかかっては弾かれ、突いては弾かれ。


 役に立っているとは言い難い。


 だが、これでいい。


 この場に於ける俺の役目。


 それは、足止めだ。


 一撃必殺とばかりに、魔術を乱発することではない。


 周囲に集っているのは、何れも魔獣をたおせる強者ばかり。


 トドメならば、彼ら彼女らが刺してくれる。


 事此処に至っても、独力で魔獣をたおすことは叶わなかったわけだ。


 そのことが口惜しくもある。


 結局は、他者を頼みとしているのだから。


 ならば、矜持と命、どちらが大切なのか。


 決まっている。


 命だ。


 命だとも。


 自分と、そして何より、大事な者たちの命。


 そのために、これだけの人数を巻き込んだのだ。


 前回とは違う。


 後方で眺めていたときとは、決定的に違う。


 こうして、魔獣と直接戦っている。


 ちゃんと、守る側として立っている。


 十分でなくとも、不足はあっても。


 それでも、こうして。






 魔獣との戦闘が途切れない。


 次から次へと。


 否、徐々にだが、溜まってきている。


 すぐにはたおしきれなくなってきている。


 1体に対し、割ける人数が減る。


 その分、討伐に時間が掛かり、魔獣が追加される。


 悪循環。


 未だ怪物への魔石の投射すら開始されてはいないというのに。


 まさしく息つく暇もない。


 これほどか。


 これほどまでに、魔獣は多いのか。



「「うおおおおおおお!」」



 後方から生じる雄叫び。


 戦線が持ち直し、押し返されてゆく。


 続々と騎士が加勢に入って来た。


 第二陣。


 長期戦を見越して、あらかじめ隊列を複数配していたのだ。


 この場を任せて下がる。


 下がって下がって、壁の内側へ。


 ようやくの休憩だ。


 手に取った水で喉を潤し、残った分を頭から被る。


 そのまま地面へと仰向けに倒れ込んだ。


 疲れた。


 やはり訓練とは違う。


 命の危機。


 常なる緊張感。


 それが余計に気力と体力を削っている。


 後幾度、これが続くのだろう。


 人心地つき、余裕が生まれたのか。


 国側の戦況は、どうなっているだろう。


 先生は無事だろうか。


 そんなことが、今さら気になってもくる。


 助けるだなんだと言っておきながら、このザマだ。


 この戦況で、どうやって危急を知れるというのか。


 何たる甘い考えか。


 もう少し。


 後もう少しだけ休んだら、確かめに行かないと。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ