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ぼくのいない世界  作者: 松永晋也
戦う世界(????)
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 やがてぼくたちは、一つの洞窟を見つけた。


「多分ここだな。足跡がある」


 xxが地面を指差して言う。

 人間の足跡に似ているけれど、それよりは少し小さい足跡が無数にあった。

 しかも、まだ出来たばかりの湿った足跡だ。


「そうだね」


「かなりの数が居そうだな」


「うん」


「……危険、かもな。殺されるかも」


 xxは言う。確かに、魔物の巣に入るのは危険だ。相手にとっては地形をよく知った有利な場所だし、数も間違いなく向こうの方が多いから。


 xxは暗闇の中をじっと見つめて動こうとしない。


「でも、荷物はこの中にあるし、入るしかないよ」


「それはそうだけど、別に戦う必要はないだろ? 今回の依頼は荷物を奪い返すことだけだ」


「そうだね」と、ぼくはそう言ってから、首をかしげた。「でもどうするの?」


「魔法がある」


 xxは杖を構えた。そして精神を集中するように目をつむる。


 すると杖の先から薄いピンク色の霧が発生して、洞窟の中にそれが入っていった。


 魔法だ。


 けど、見たことのない魔法だな。


 なんだろう? と思って様子を見ていると、次第に甘くて美味しそうな匂いが漂ってきた。はちみつといちごを混ぜ合わせたみたいな、甘い良い匂いだ。


「いい匂いだね」


「だろ?」


「分かった。食べ物の匂いでおびき出すんだ」


「その通りだ」xxはうなずく。「俺が匂いの元になって囮になるから、アスカがその間に洞窟の中を調べてきてくれ」


「分かった。でも、xxは平気?」


「大丈夫だよ。姿を消す魔法を使えば、ゴブリンなんかには絶対に見つけられないからな。それより、お前の方が危ないんだぞ。洞窟の中からゴブリンが全部出ていけば良いけど、多分そう上手くはいかないだろうからな」


「大丈夫、心配しないで」ぼくは剣を構えて笑顔を作った。「ぼくは戦士だ。魔物なんかに怯えたりしないよ」


 そうしたら、xxはいたずらっぽく笑った。


「なら良いけどな、戦士様。ともかく、商品を取り返したら街で合流な」


「了解」


 しばらくして、ゴブリンは本当に洞窟から出てきた。緑色の顔についた小さな鼻をヒクヒクとさせている。


 ぼくは木陰に隠れてその様子を眺めて待って。xxは匂いを漂わせながら、森の奥に消えていった。


 洞窟からはゴブリン達が「ごぶごぶ」と鳴きながら、どんどん出てくる。一匹、二匹、三匹と次々に洞窟からそれが出てくる。そして、xxが向かった方角へと、誘われるように進んでいく。


 予定通り、甘い匂いに釣られているようだ。


「よしよし、作戦通りだね」


 ゴブリン達が洞窟から出てこなくなってところで、ぼくは恐る恐る洞窟の中に足を踏み入れた。


 洞窟の壁には火の点いた松明かけられていて、床には動物の毛皮や骨、果物の食べ残しなんかがそこら中に散らばっている。構造は単純で、ひたすら一本道が続いていた。だから迷うことは無く、どんどん進んでいけた。ゴブリン達もどうやらみんな出払ってしまったようで、一匹も見つからなかった。


「これかな?」


 洞窟を行き止まりまで進んだところで、ぼくは一つの大きな木箱を見つけた。木箱は爪で引っかかれて傷だらけだけど、未開封だったから、多分これが盗まれた商品だろうなと分かった。


「……でも、これ。外まで運べるかな?」


 木箱の大きさは、ぼくが入れるくらいの大きさだ。

 ぼくは戦士だから力持ちだけど、それでも持ち運ぶのはかなり大変そうだな。


 そんなことを考えていた時、

「誰か居るんですか?」

 箱から声が聞こえてきた。


「うわっ、箱が喋った!」

 ぼくは驚いて飛び上がった。

 けど、よく考えたら箱が喋るわけない。箱の中に人が居るんだ、とすぐに気づいた。


「お願いです……助けてください」


 箱の中の人が言う。


「君は誰?」


「わたしはミカです」


「君が『商品』なの?」


「……そうです」


 彼女は少し躊躇してから答えた。


「……ともかく、ここを出よう。この中に居たら、君はゴブリンに殺されちゃうよ」


 ぼくは剣をてこのように使って、木箱の板を一枚剥がした。


「出られる?」


 ぼくが質問すると、やせ細った白い手だけがニョキっと箱から出てきた。


「すみません。もう一枚外してもらえますか?」


「うん」


 ぼくはもう一枚板を外した。そうしたら、今度こそ彼女は箱から出てきた。


 彼女は、ボロ布の服を着ていた。見るからに貧相で、お金が無さそうだ。そして年齢はぼくたちと同い年くらいで、背が少し小さい。食べ物を全然食べていないらしくて、身体はがりがりに痩せている。


 なんだか、可愛そうだな。と思う。もしも商人に彼女を引き渡したら、きっとどこかのお金持ちに買われて、死ぬまで働かされるんだろう。


 彼女もそれが分かっているのか、目がすごく暗い。お腹が痛い時のxxよりずっと暗い顔だ。


「……急ごう」


 でも、余計なことを考えている時間はない。xxが誘い出してくれたゴブリン達も、やがてここに戻ってくるはずだ。もしも鉢合わせになったら、一本道の洞窟には逃げ場がない。


 ぼくは彼女の手を取って、洞窟の出口へと走った。


 けれどすぐにミカは息が切れて、走る速度を落としていった。


 よく見たら、彼女は裸足だった。ゴミだらけの洞窟の中を走ったせいで、すでにその足はボロボロになっている。


「ご、ごめん。気づかなくて」


「良いんです」


「これじゃ走れないよね。ぼくがおんぶするよ」


「大丈夫です。走れますから」


 彼女は厳しい目でぼくを見ていた。多分、ぼくのことを悪い人間の仲間だと思っているんだろう。


 いや……実際、ぼくは悪い人間なのかもしれない。と、そう思って少し嫌な気分になった。


 今から彼女を奴隷商人に返して、その報酬として金貨3枚をもらうんだから。


 けど、ここに彼女を置いていったら、間違いなくゴブリンに食べられてしまうだろう。それはもっと悪いことに違いない。


「君の走る速さに合わせていたら、ぼくまでゴブリンに殺されちゃうよ」


「……それは……なら、私一人で行きます」


「だめだよ。ほら、乗って」


 ぼくはその場でしゃがんで、彼女に背中を向けた。


「……」


 彼女はしばらく悩む素振りを見せたけど、結局はぼくの背中に飛び乗ってきた。


 そしてぼくはまた走り出した。幸い、ミカの身体はすごく軽いから、さほど苦にはならなかった。

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