第13話 報酬と男らしさ 前編
鏡で自分の姿を見ていると偶に思うことがある。
もはや俺が可愛いということは揺るぎようもない事実だ。その溢れ出る美少女オーラは男物の制服を着ていても決して隠せるものじゃない。現に学園内で「本当に男?」と言われた回数は二桁にも上るしな。そして私服を着ればさらに可愛さに磨きがかかり、特殊な条件だったとはいえアリサとククルをも圧倒した。最近では下着が持つ可能性にも気づいたし、ますます美少女っぷりに拍車が掛かるだろう。
――だからこそ思うのだ。
ここまでする俺はもしかして女になりたいのか、と。
「違う」と否定することは容易い。俺は男よりも女の子の方が大好きだし、可愛くあろうとしているのも、以前学長に言ったようにただ自分に似合っているからそうしているだけである。もし俺が男らしい容姿であったならそっち方面に努力していたはずだ……たぶん。
しかし自分を客観的に見た場合どうだろうか。
可愛い顔をした俺がワンピースやらスカート、おまけにブラまで着けておいて「私は男です!!」と叫んでも説得力など微塵もない。男らしい要素なんて何一つないのだから。クロスセブンに来てからを振り返ってみても男らしいことをした記憶はないし、このままだと誰からも男と信じてもらえなくなるかもしれない。
いかん、それではダメだ、女の子と付き合えないじゃないか!!
容姿が女っぽくなるのは構わない。むしろ望むところなんだが……付き合う女の子には男として見られたい。俺はあくまで男なのだから。うん、そうだ。このままではいけない。俺はもう少し男らしいことをすべきなのだ!!
「な!? 学長もそう思うよな!?」
「知るかアホらしい。だいたいお前は既に――いや、やめておこう。こんなくだらぬことに付き合っていられるか。おい、人生相談がしたいのならクーミルにでも頼め。喜んで応じてくれるだろう」
「そんな冷たいこと言うなよー。ほら、お茶と羊羹を用意したからさ、一緒に食べようぜ」
「……両方とも俺が買い置きしていた物なんだがな」
学長室のソファは座り心地が最高のため、暇な時やリラックスしたい時などによく訪れる。おかげで部屋に何があるのかはだいたい把握しているのだ。
「お前に構ってやるほど俺も暇ではない。要件がそれだけなら羊羹を食ってさっさと出て行け」
ここで羊羹を食べていいと言うあたりさすがは学長、懐が広い。
「もちろん本題はあるさ。この前、学園に貢献したら情報をくれるって言ってたじゃん? 粛正会を潰したんだし教えてくれてもいいんじゃない?」
粛正会の解体は大多数の生徒に歓迎された。ならば学園に貢献したと言っても過言じゃないはず。
「結果的に学園に貢献しただけだが……、まぁいいだろう。初回ということで甘くしてやる。お前もどういった情報を得られるのか知った方がやる気も上がるだろうしな」
「さっすが学長!!」
「では下位精霊について教えてやろう」
「下位、精霊?」
なんかあまり知りたいと思う分野じゃないな……。どうせなら大精霊の成り立ちを知りたかったのに。
「不服か? だが最後まで聞いてみろ、お前の認識は覆るだろう」
「へぇ」
俺は彼らのことをペットみたいなものだと思っている。見た目が小動物やら妖精やらと可愛い系が多いからな、どうしてもそう見てしまうのだ。
その認識を変えてくれるっていうんだから、ちょっと興味が湧いてきた。
「現状で下位精霊は契約するメリットがほとんどない愛玩動物扱いだ。一流の魔法使いと呼ばれる者達の間では『下位精霊と契約する奴は馬鹿だ』と言われるくらいだからな。しかしそれは間違っている。あいつ等ほど可能性を秘めた存在はそうそういない」
可能性、か……。あまりピンとこないな。
「あいつ等は幼いがゆえに身近なものの影響を受けやすい。特に契約するとより顕著になる。これがどういうことか判るか?」
ふむ……。
「契約者に似るってこと?」
「そうだ。契約した者が賢ければ賢く、愚か者なら愚か者に、凛々しければ凛々しくあろうとする。そして――契約者が成長すれば精霊もまた成長する」
「……」
気付いたら背筋を伸ばして学長の言葉に耳を傾けていた。
「そうやって契約者のマネをしながら学習をしていき、一定期間経過すると中位精霊へと“昇華”する。この時点で自我はほぼ固定されるため、容姿もそれに合わせて変化することが多い」
「はい質問!! 中位精霊の容姿や性格は下位精霊時に受けた影響で決まるってことだよな? ということは俺が下位精霊と契約した場合、よくよくは俺と同じ“可愛さを追求する者”になるってことか?」
それなら下位精霊と契約するのもアリだな。
「可能性は十分にある。が、必ずそうなるとは限らない。中には中位精霊になった途端、契約者とは逆の性格に変化するものもいる。お前の例だと“逞しさを追求する”といったところか。他にもお前の道を手助けしたり、美しさを追求、可愛い者好き、あるいはお前のソレを正そうとする可能性も考えられる。まぁ早い話、契約者から何らかの影響は受けるが、具体的にどう成長するかは判らないということだ」
「結局ランダムじゃねえか!!」
やっぱナシ。
「性格は、な。しかし強さに関してはランダム要素は絡まない。契約者が成長すればするほど精霊も強くなる。可能性を秘めているとはこのことだ。契約者しだいでいくらでも強くなるのだからな。よって長期的に見るならば伸びしろのある学生は下位精霊との契約が推奨される」
「ふむ……」
なら何故そのことを周知せず秘密にするのか。
ま、考えるまでもないか。
完全に性格を決められないといえ、ある程度は性格をコントロールできるのだ。子供を上手く洗脳すれば精霊を殺戮兵器にすることも出来るはず。そう簡単には教えれないよな。
だからここで聞くべきは――。
「どうして俺に話した? もしかして俺に下位精霊と契約しろと言っているのか?」
粛正会を潰したくらいで教えてくれる情報とは思えない。何かしらの思惑があるはずだ。
「そうは言ってない。ただ、見込みのありそうな奴がいれば下位精霊と契約するように促して欲しいとは思っているがな」
なーんか情報を貰うつもりが、逆に面倒事を頼まれた気もするが……。
「積極的には動かないけど、精霊と契約したがっている奴がいたら勧めるっていうのならいいよ」
「問題ない。重要なのは“質”だからな、数は求めていない。お前が認める奴であれば5人もいれば十分だろう」
5人か。1人はククルとして、あとは誰かいるかな? ティリカとアリサはスイレンがいるからダメだし、ネルもルパがいるしなー。
とりあえず下位精霊と契約しているクラスの奴には「大事にしてやれよ」とアドバイスでもしておくか。
……しかし、なかなかに面白い情報だった。学園に貢献すればもっと多くの事を教えてくれるようだし、真面目に考えてみようかな。




