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『猫のお話③ 猫の集会に行ってみた!』

太郎に連れられて、猫のミケは病院を訪れています。おばあちゃんに会いに来ていました。しっかりボス猫の太郎が安全を確認しながら連れてきています。

婦長さんが、おばあちゃんに会えるようにと、一階の窓際にベッドを移してくれました。


窓のところでミケが「にゃーん」と鳴きます。

おばあちゃんは満面の笑顔でミケをお迎えします。

おばあちゃんの具合はとっても良さそうです。早く退院できるのでしょうか。


ミケがおばあちゃんとお話ししている間、太郎は病院の裏の方に回ります。


そこには婦長さんが地域猫たちにご飯をあげていました。太郎は当たり前のようにそこに近づき、地域猫たちに貫禄のある挨拶をして、一番いい場所に陣取ります。

「にゃーん」

婦長さんは笑顔で太郎の頭をなでて、缶詰を1つ開けてあげます。

太郎は満足そうに、もぐもぐと食べています。とても美味しそうです。


横から地域猫が話しかけます。

「にゃーん、にゃにゃーん……親分さんは、ご存知ですか。この人は昔あの伝説のルナの飼い主だったんですよ」

太郎は食べるのをやめて横を見ました。

「にゃー……アイドルのルナか」

「にゃん、にゃん……ええ、そうです。あの伝説のアイドル、ルナですよ」

「にゃ……そうだったのか」

「にゃーん、にゃーん、にゃ……ルナの鳴き声、ルナの歌声は猫の世界では伝説です。もうすぐ満月猫森集会ですね」

「にゃー……そうだな」

太郎は目を細め、昔のことを懐かしむような顔をしました。


太郎はお腹いっぱいご飯をもらうと、婦長さんに

お礼のひと鳴きをして、ミケのいる方に回りました。


ミケはおばあちゃんの腕の中で、まだゴロゴロ言っています。

「にゃーん……ミケ、帰るぞ」太郎がミケに向かって鳴きました。

ミケはおばあちゃんに向かって、名残惜しそうに鳴くと、太郎について行きました。

ミケは何度も何度も、優しいおばあちゃんの顔を振り返り、太郎について帰って行きました。


「にゃーん……太郎 いつもついてきてくれてありがとう」

「にゃにゃーん……通りは危ないからな。俺がいるうちは、もう二度と誰も死なせない」

太郎の決意の鳴き声が響いた。


「太郎ただいま、ちゃんとミケを連れて行ってくれた?」

のり子が玄関で迎えて聞きました。

「にゃーん、にゃん」

ミケと太郎は揃って鳴きました。

「ミケも、ご飯いっぱい食べるし、いっぱい遊ぶようになって、元気になったからもう大丈夫ね」


その夜、太郎は家をこっそり抜け出し、今月の満月の日にある満月猫森集会が行われる、古い神社に来ました。


そこには、何匹もの猫たちが、集会の時に食べる食べ物とか、またたびを加えて運んでいます。もっともまたたびを運ぶのは猫たちにとってはとても大変なことです。

途中でひっくり返ったり、よだれを垂らしたりしながら、中には自分が何をしていたのかわからなくなる猫までいます。

太郎は猫たちの間を抜けて、神殿の方に向いました。


そこには年老いた猫がいた。

「にゃー……お前さんか」

老猫は静かに鳴きました。

「にゃーん……猫たちと特別な縁がある人間は

満月猫森集会に呼んでもいいよな」

「にゃーん……そうじゃが、もう何年も、ここには誰も人間は来ておらんぞ」

「にゃーん、にゃ……あんたの娘の飼い主だよ」

太郎はそう言って、老猫をじっと見つめました。

「にゃー……地域の野良たちもたいそう世話になってるしな・・いいじゃろ」

「じゃあ、例の葉っぱに書いてくれ」

太郎がそう頼むと、老猫は葉っぱに[満月猫森集会 参加券]と書いて、太郎に渡しました。


太郎は、神社の裏の方の小さな丘に向かいました。そこからは月が奇麗に見えます。

満月までは、もう3日くらいでしょうか、明るい月が輝いています。

「にゃーん……ルナ、あのとき俺がそばにいたら・・・」



「行ってきま~す。太郎、今日もミケをお願いね」

次の日、のり子は学校に元気よく飛び出していきました。


太郎とミケは、朝ごはんのカリカリを食べるとミケのおばあちゃんが入院している病院に向かいました。

太郎は、[満月猫森集会 参加券]の葉っぱを、器用に首輪に挟み込みました。

ミケが途中で事故に合わないように、しっかり太郎が付き添っています。


病院に着くと、おばあちゃんの病室の窓の方に向かいます。


太郎は、首輪に挟んだ葉っぱを落とさないように注意しながら、窓に飛び移ると、「にゃーん」と鳴きました。

ミケのおばあちゃんが、急いで窓を開けます。すっかり、体力も戻ってきているみたいです。

ミケも遅れて窓に登ってきます。

「ミケ、今日も来てくれたのね、おかげでもうすぐ退院できそうだよ」

「にゃ!」ミケはうれしそうです。

「太郎ちゃんも、ありがとうね」


太郎は、おばあちゃんに、目で合図をすると、ミケを残して病院の裏の方に、婦長さんに会いに行きました。


太郎が病院の裏手に行くと、いつものように婦長さんが、地域の猫を集めてご飯を与えていました。

「今日も来てくれたんだね、いっぱい食べていってね」

婦長さんは、優しく太郎にも話しかけてきます。

しかし、今日の太郎はご飯を食べようとはしません。婦長さんの方をじーっと見ています。

婦長さんも、太郎のそんな様子に気づいて、

「何か言いたいことでもあるの?」と、優しく問いかけました。

太郎は、婦長さんのすぐ足元まで歩み寄ると、「にゃーん」とひと鳴きしました。

それから前足を首輪の隙間に器用に差し込むと、挟んでいた葉っぱをそっと引き抜き、婦長さんの足元へ落としました。

そこには、[満月猫森集会 参加券]と書かれていました。

婦長さんは、それを拾い上げると、太郎の方をじーっと見つめました。

「ご招待してくださるの?」

「にゃん」

「でも、場所がわからないわ」

「にゃん、にゃん」太郎は鳴きます。

「あなたが、満月の日に迎えに来てくださるのかしら?」

「にゃん」

「うれしいわ、待ってますね」婦長さんは、満面の笑みで答えました。



満月の日がやってきました。


いつものようにミケと太郎は病院にやってきます。

ただ、今日の帰りは違います。

太郎が、婦長さんを先導して歩いています。ミケも頑張ってついてきます。

夕暮れの涼しい風が、後ろから優しく押してくれているようです。


古い神社の鳥居をくぐると、そこはもう、いつもの夜ではありませんでした。

街の車の音も、遠くの救急車の音も、ふっつりと消えてしまいました。

ひんやりとした涼しい風と一緒に、どこからか甘いお花の香りが漂ってきます。

婦長さんは、不思議な気持ちで太郎の後に続きました。

「まあ……」

婦長さんは思わず声をあげました。

暗い境内のあちこちで、たくさんの小さな光がゆらゆらと揺れています。

それは、集まった猫たちの目でした。

金色、銀色、そして青色。

まるで、たくさんの小さなランタンに火がともったようです。

何百匹もの猫たちが、一斉に喉を鳴らしていました。

「ゴロゴロ、ゴロゴロ……」

その音は、まるで地球が静かに呼吸をしているように、地面から婦長さんの足の裏に伝わってきました。

ふと見ると、境内の隅の方では、何匹かの猫たちがフラフラと踊っています。

一生懸命に運んできた「またたび」の香りに、すっかり夢中になってしまったようです。

自分が何をしていたのかわからなくなって、地面にごろごろ転がっている猫もいます。

そんな様子を見て、婦長さんは「ふふっ」と優しく笑いました。


太郎が堂々と胸を張って歩くと、集まっていた猫たちは、さっと道を開けました。

みんな、しっかり者の太郎を尊敬しているのです。

太郎は婦長さんを守るように寄り添いながら、神殿の階段へと案内しました。

そこには、一匹のとても年老いた猫が座っていました。


老猫は、婦長さんの姿を見ると、静かに、そして深く頭を下げました。

婦長さんは、その老猫の静かな瞳を見た瞬間、胸が熱くなりました。

なぜでしょう。一度も会ったことがないはずなのに、ずっと昔から知っているような気がしたのです。

「……ルナ?」

老猫は、優しく「にゃーん」と鳴きました。

その鳴き声は、まるでルナが空の上から歌っているような、とても澄んだ歌声のようでした。


太郎が神殿の前に立ち、空高く輝く満月を見上げて、大きくひと鳴きしました。

「にゃーーーーん!」

それは、集会の始まりを告げる合図でした。

今夜だけは、人間も猫もありません。

悲しい後悔も、体の痛みも、すべて月の光が洗い流してくれます。

婦長さんは、たくさんの猫たちに囲まれて、夢のような平和な時間の中に溶け込んでいきました。


その時です。本殿の重い扉が、音もなくゆっくりと開きました。

中から、二匹の猫が、小さなきんちゃく袋の紐を口にくわえて、静かに出てきました。

猫たちはまっすぐ婦長さんのもとに歩み寄ると、その袋をそっと差し出しました。


婦長さんが不思議に思いながら受け取り、中の物を取り出すと、そこには手のひらに乗るくらいの、小さな銅鏡が入っていました。

銅を丁寧に磨いて作られた、古いけれど美しい鏡です。

婦長さんがその鏡を手に取った瞬間、あれほど賑やかだった猫たちの喧騒が、嘘のように静まり返りました。

猫たちは身じろぎすらしません。

どの猫も、ただ静かに鏡の方を見つめています。

動いているものは、猫たちの瞳にうつる鏡の光だけです。


すると、どうでしょう。

空高く浮かぶ満月から、まっさらな光の束が降り注ぎ、婦長さんの手の中にある鏡に吸い込まれるように集まっていきました。

鏡は月明かりを吸い込んで、まるでもう一つの小さなお月様のように、優しく光り輝き始めました。


その光の中から、婦長さんが昔飼っていたルナの姿が、おぼろげに現れていきました。

光の中に現れたルナは、まず太郎の方を振り向くと、優しくひとつ、うなずきました。

ルナはそれから、真っすぐに婦長さんの目を見つめました。

そして、にゃーんという鳴き声ではなく、はっきりとした人間の言葉で言いました。

「ありがとう」

婦長さんの目から、大きな涙がこぼれ落ち、鏡の光と混ざり合ってキラキラと輝きました。

その言葉とともに、ルナの姿は静かに、光の中に溶けて消えてしまいました。


けれど、その温かな響きは、しっかりと婦長さんの心に届きました。

大粒の涙があふれている婦長さんの周りに、いつの間にかたくさんの猫たちが集まってきました。

太郎も、ミケも、しまねこも、おばあさんねこも。

病院の周りで婦長さんがいつもお世話をしている地域猫たちも、みんなで婦長さんを優しく取り囲んで、楽しそうに踊り始めました。

婦長さんは、胸がいっぱいで、幸せそうに猫たちを眺めていました。


どれくらいの時間が経ったのでしょうか。

温かい気持ちのまま……気がつくと、婦長さんはナースステーションの仮眠室で目を覚ましました。

窓の外には、静かな月が輝いています。

「……夢、だったのかしら」

婦長さんが自分の手を見ると、そこには一枚の小さな葉っぱが握られていました。


[満月猫森集会 参加券]


あの日、太郎が首輪から落としていったあの葉っぱです。

けれど、その葉っぱの端の方は、まるで使われた後の半券のように、小さくちぎり取られていました。

婦長さんは、その葉っぱをそっと胸に抱きしめて、満面の笑顔で窓の外を見つめました。



おしまい

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