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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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対策会議波乱万丈!~定食屋の運命を握る魔王な元勇者~

バルゼオン様はすき焼き定食を食べ終えると、何事もなかったかのように微笑みました。


「ご馳走様である。今日も良き定食だった、実に満足だ」


「魔王様ちょっと待って!! さっきの意味不明なメニューを完全に無かったことにしないで!!!」


私の頭の中では『麗しのカピバラと真鯛のカッパ店長』という謎の生物が踊っていて、とても落ち着いていられる状況ではありません。


ちらりとエヴァンス様を見ると、難しい顔で眉間に皺を寄せていました。まるで難事件に挑む名探偵のようで、なんだかとてもミステリーな雰囲気が漂っています。


これは……もしかして。


「……メルヴィ、謎は全て解けたぞ。最大のヒントは『コース料理』というところだ」


「あの混沌の極みみたいな料理名から正解が!?」


私のツッコミなどまるで気にせず、エヴァンス様は淡々と解説を始めます。


「まず、前菜『麗しのカピバラと真鯛のカッパ店長』は『麗しのキャビアと真鯛のカルパッチョ』だ。バルゼオンがキャビアをカピバラ、カルパッチョをカッパ店長に聞き間違えただけだ」


なんてことでしょう。急にメニュー名が洗練されました!


「なるほどなるほど……って、エヴァンス様。それ、いくら何でも無茶な聞き間違いすぎません?」


「確かに無茶苦茶だが、奴なら普通にありえる」


あの、いまナチュラルにバルゼオン様を酷評していませんでしたか……?


「そして、『怖がらず照れる犬』。これは『フォアグラのテリーヌ』の聞き間違いだ。『フォアグラ』が『怖がらず』、『テリーヌ』が『照れる犬』に聞こえたんだろう」


エヴァンス様は静かに、探偵が事件を締めくくるように続けました。


「他にも、『困るエビのリスク』は『ロマール海老のビスク』、『本棚ショコラの戦士のささやき』は『フォンダンショコラの天使の囁き』だったのだろうな。全て辻褄が合う」


完璧に判明した料理名を聞いて、私は完全に脱力しました。推理の鮮やかさに驚くというより、むしろバルゼオン様の記憶力のなさに感心してしまいます……。


「高級フルコースじゃないですか!! どうやったらそんな華やかなメニューを、あんなにも見事に勘違いできるんです!?」


バルゼオン様は特に気にした様子もなく、満足そうにお茶を飲んでいました。


「ふむ、やはり料理は名前よりも味だ。次回はもっと分かりやすくするよう、彼奴に助言してやろう」


「問題はどう考えても魔王様の記憶力です! ジルヴァラク様、全く悪くありませんからね!?」


まったくもう……この人は本当にラストダンジョンの魔王様なのでしょうか。


私がそう言うと、バルゼオン様はしばらく考え込んだ後、どこか誇らしげに頷きました。


「メルヴィよ……記憶力とはな、細かいことを気にしない才能でもあるのだ。これぞ魔王の器よ」


いやいやいや、その器、絶対に何かが漏れてますからね!? もっとちゃんと細かいところ気にしてください!!


それにしても、エヴァンス様の推理によって判明したメニューは、どれもこれも聞いただけでため息が出そうなほど豪華でした。


『麗しのキャビアと真鯛のカルパッチョ』に『ロマール海老のビスク』、『フォアグラのテリーヌ』、そして極めつけは『フォンダンショコラの天使の囁き』……。


……いやいやいや、ちょっと待ってください。


こんな豪華絢爛なコース料理と、うちのシンプル極まりない定食を勝負させるとか、どう考えても無謀じゃないですか!?

むしろ何をどう対応すればいいんですかね!!!


完全に途方に暮れてしまった私をよそに、アモルテ様が興味津々な顔でバルゼオン様とエヴァンス様に問いかけました。


「ねぇ、バルゼオン、エヴァンス。ジルヴァラクって僕あんまりよく知らないんだけど、何か面白い情報とかないの?」


バルゼオン様は堂々と腕を組んで頷きました。


「ふむ、ジルヴァラクは最近代替わりしたばかりの魔王だな。まだ若く、魔王としての経験は浅い」


ほうほう、代替わりしたばかりですか。それならまだ穏やかな方かもしれない。そう安堵しかけた私に、エヴァンス様が涼しい顔で追い打ちをかけました。


「それだけではないぞ。ジルヴァラクは元勇者だ。魔王になったのは、最近の話と聞いている」


「元勇者!? 勇者から魔王って、職業の振り幅が極端すぎません!?!?」


思わず叫んだ私に、アモルテ様がにこやかに補足を加えました。


「そうそう、あの子『魔王より怖い勇者』って呼ばれてたらしいよ。勇者時代から一匹狼でね、一人で全部解決してたらしいんだぁ」


「『魔王より怖い勇者』って何ですかそれ!? 」


勇者ってもっとこう、爽やかで仲間と協力しながら魔物を倒すような存在じゃないんですか!?

一人で魔王を倒して代替わりとか、もはや勇者というより災害!!


そんなとんでもない相手と定食で勝負とか、完全に無理ゲーじゃないですか! どうすればいいんですか、これ!?


「まぁ良い、こうなった以上、我々でジルヴァラクを迎え撃てばよかろう。なぁ、アモルテ」


「そうだねぇ! 僕たち二人で一緒に襲えば、どんな魔王だろうとイチコロだよ!」


「そうだな、一緒に襲えば怖くない」


「ちょ、ちょっと待ってください二人とも!? どうして対策会議なのに、いつの間にかこちらが襲う側になってるんですか!?」


私が慌てて止めると、バルゼオン様がきょとんとした顔で首を傾げました。


「ふむ? メルヴィよ、この会議は我々がジルヴァラクを襲うための会議ではなかったか?」


「違います! 料理勝負の対策会議ですってば!!!」


「あれぇ? そうだったっけ?」


アモルテ様が不思議そうに目を丸くしますが、私が一番驚いてますよ! どういう思考回路ですか、この魔王様たちは!?


そんな混乱の中、エヴァンス様が涼しい顔で微笑みました。


「まぁいいだろう、結局やることは一緒だ。どうせ迎え撃つのなら豪華にやろうじゃないか」


「ちょっとエヴァンス様!? 豪華にやって解決しますかね!? というかここ、ただの定食屋ですけど!?」


バルゼオン様とアモルテ様は、既に二人でがっしりと握手を交わしており、妙な連帯感を放っていました。


「うむ、では奴が来店したら二人で攻撃を仕掛けるか」


「そうだねぇ、僕の愛とバルゼオンの魔力があれば完璧だよ」


「完璧じゃないですってば! しかも愛ってこの場合なんの役に立つんですかーー!?」


私の叫び声だけが空しく響き渡ります。


定食屋魔王襲撃対策会議は、今度は『魔王が魔王を襲う謎の連帯会議』へと変わってしまいました。


──こうして何一つまともな案も決まらぬまま、カピバラとカッパ店長だけが踊り、会議は予想の斜め上を行く展開で幕を閉じてしまったのでした。

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