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ラストダンジョン最寄りの村の定食屋ですが、魔王様が常連客になりました  作者: 松本雀


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懲りない東の魔王様、定食屋再びの買収危機

こんな時に限って、どうしてこんな時に限って来ちゃうんですか、エヴァンス様……!


がっくりと膝をついて床を見つめている私に、エヴァンス様は上品な微笑を湛えて、満足そうに頷きました。


「殊勝な心掛けだ。跪いて私を出迎えるとは。実によろしい」


ちょっと待ってください!? 違いますよ、これ!

私が膝をついたのはショックのあまり気力が尽きただけですから! 殊勝な心掛けとか、一ミリルもありませんからね!!!


心の底から強く否定したい気持ちはありましたが、もはや口に出す元気もなく、私は力なくうなだれます。


――すると、そんな私の頭上から、妙に朗らかな声が降ってきました。


「やあやあ初めまして、お嬢様~。お噂はかねがね聞いておりますよぉ~」


思わず顔を上げると視界に飛び込んできたのは、ギザギザした白い歯を見せて笑う灰色の髪の男性でした。


深紅のシャツに黒いベストとズボン、袖口には金色のカフスボタン。鋭く吊り上がった目は狐のように細く、その瞳は金貨のようにキラキラと輝いています。


どことなく悪戯っぽい笑みを浮かべていて、その手は何故か揉み手を繰り返しています。


誰ですか、このいかにも怪しい方は!?


私がぽかんとした表情で彼を見つめていると、エヴァンス様はゆったりとした口調で説明してくれました。


「紹介しよう。彼は我が城の金庫番を務めるミミックのバスティアンだ」


「……ミミック!? えっ、それって宝箱のモンスターのことですよね!?」


私が思わず驚きで目を丸くすると、バスティアンはさらに嬉しそうに揉み手をしながら近づいてきました。


「そうですそうです! お嬢様のおっしゃる通り、一般的には宝箱の姿が有名ですなぁ。でもですねぇ、実は『ミミック』というのはそもそも擬態種全般を指す名称でして、本来はどのような姿にも変化が可能なのでございます。効率的に獲物を捕食するために、宝箱の姿を取るのが一般的というだけなんですよぉ~」


――な、なるほど……確かに理屈は分かりますけど、それにしても宝箱から人型まで擬態できるって、守備範囲広すぎませんか!?


私は驚きを隠せずまじまじとバスティアンを見つめますが、彼は一切気にする様子もなく、むしろ嬉々として説明を続けます。


「まぁ、私もね! 昔はよく宝箱になってましたよぉ~。それで宝物を狙う欲深い勇者さんや冒険者さんたちをパクッとね、パクッと! でも今は、時代も変わりましてねぇ~。エヴァンス様の金庫番という、名誉ある仕事を頂戴してからは人型の姿で頑張ってるわけでございます」


――頑張ってるって言われても!


というか、普通に怖いですよ、その『パクッ』のところ!!!


私の内心の戦慄をよそに、バスティアンは少しも悪びれることなく嬉しそうに続けます。


「ああ、もちろん今は安心安全、完全に信用できる金庫番でございますよぉ。絶対に大丈夫ですからねぇ~」


むしろ、その念押しがさらに怪しいんですけど!?

この人、本当に信用して大丈夫なんですか!?!?


再び襲いかかる不安と恐怖に、私はちらりとエヴァンス様を見上げましたが、私の不安などお構いなしに愉快そうに微笑むばかりでした。


――今日はもう、色々な意味で覚悟を決めるしかなさそうです……。


私は胸の奥で深いため息をつきながら、何とか気力を振り絞って立ち上がりました。


「それで……あの、本日のご用件は?」


私はおそるおそる問いかけました。


胸の奥が妙にざわついています。エヴァンス様のご来店に『ただお食事を楽しみに来ました』なんて平和的な理由があるはずありません。絶対に何か企んでいます。確実です。


「はいはい、それはもうお仕事のお話でございますよ、お嬢様!」


エヴァンス様の背後からにゅっと顔を出したバスティアンが、白い歯をギラギラと輝かせながら満面の笑みで答えました。いや、この笑顔、やっぱり全然信用できません!


「またですか……」


私は半ば呆れながら呟きました。以前バルゼオン様から『我の店に手を出したらどうなるか、覚悟しておけ』と忠告されているはずなのに、この人たち、一体何を考えているんでしょう?


「フッ、前回は買収を断られたからな。今回はより魅力的な提案を持ってきたぞ」


エヴァンス様は自信満々に胸を張り、金色の髪をサラリとかき上げました。なぜそんなに堂々としていられるんですか!?バルゼオン様の忠告が全く頭に入っていませんね!?


「では僭越ながら、この私バスティアンより具体的な提案をさせていただきます! 合併、事業譲渡、資本提携、業務提携、ジョイントベンチャー……いかがでしょう? 定食屋のお嬢様!!」


次々と魔法のように専門用語を並べ立てるバスティアン。

私はあんぐりと口を開けました。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! それって結局、一種の買収じゃないですか!!!」


バスティアンは微笑みを崩さずに「まあまあ」と宥めるように手を動かします。


「いえいえ、お嬢様。これは『買収』ではございません。『未来志向の戦略的パートナーシップ』とでも申しましょうか?」


「いえ、それ言い換えただけですよね!?戦略的とか未来志向とか、耳障り良く言ってますけど、要は店を買収するってことじゃないですか!」


私が必死で訴えると、エヴァンス様は頷きながら腕を組みました。


「買収ではない、メルヴィ。お前と共に、この定食屋を更なる高みへと導こうという話だ」


「だからそれを買収って言うんですよ!!!!」


私はテーブルを叩いて叫びました。

どうしてこう、魔族の皆さんって常識が通じないのでしょう!?


私の平穏な定食屋ライフは、一体いつになったら訪れるのでしょうか……。

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