菜食主義ではありませんが、今日は野菜だけです東の魔王様
昼近くになってようやく私はベッドから這い出しました。明るい日差しが窓辺のカーテンをふんわりと透かし、世界はすでに白昼の光に満たされています。
「うわぁ、久しぶりに寝坊した……」
昨日の騒ぎの疲れが出ちゃったんでしょうか。でもまあ、こういう日もありますよね!
ぼんやりとした頭を抱えながら厨房へと向かい、ひんやりとした真新しい魔法冷蔵庫の扉を開けました。昨日グラフが魔力を込めて進化させた冷蔵庫は、扉を開けると中から輝くような冷気を放ち、野菜たちを新鮮そのもので保ってくれています。
「あぁ、最新型って素晴らしいですねぇ……!」
今朝の村長さん達の訪問が思い出されます。産みたて卵を抱えた村長、ずっしりとしたかぼちゃを抱えた道具屋のおじちゃん、そして新鮮なレタスやトマト、きゅうりを腕いっぱいに持ってきた雑貨屋のご主人。
『昨日のお詫び』ということでしたが、お詫びにしてはなかなか豪華な差し入れです。卵は新鮮そのもの。かぼちゃは艶々として、レタスは葉がパリッとしていて美味しそう。
おかげで野菜はたっぷり揃いましたし、今日は朝ごはんとお昼ごはん兼用でもいいですよね。野菜メニュー中心で!
そんなことを思いながらお米を研ぎ始めます。米粒が冷たい水に触れてさらさらと音を立てると、少しずつ私の頭もはっきりしてきました。
今日は、商業都市から定期的にやって来る移動販売の商人さんが来る日だったのですが、馬車が脱輪して残念ながら来られないという知らせが朝早く届いていました。
それならいっそのこと店をお休みにして、いただいた新鮮な野菜でゆっくり過ごすのも悪くありません。
そんなふうに楽観的に考えつつ、私はふと魔王様たちが野菜メニューを食べる姿を想像してみました。
――バルゼオン様だったら、最初は野菜だけのお皿を見つめて、静かに眉を寄せてしょんぼりしてしまいそうですね。でも一口食べ始めたら、「……うむ、このレタスのシャキシャキ感、そしてトマトの瑞々しさ。これはこれで実に味わい深い」などと丁寧な食レポを交えて、「たまにはこういうメニューも悪くない」と言いながら、綺麗にお皿を空にしてくれそうな気がします。
――グリム様ならお皿を見て、最初は少し驚きつつも豪快に笑い飛ばし、「野菜だけか?まあ俺はそんなこと気にせんぞ。たまにはいいだろう」と軽く肩をすくめて、ワイルドに野菜を口に運びそうです。でも食べ終えると、余裕たっぷりの口調で「次はたくさん肉を用意してくれよ。俺はしっかり食べたい派だからな」と言って、笑って許してくれるでしょう。
――アモルテ様だったら、野菜だけのメニューを目の前にしても目を輝かせ、「僕は愛の魔王だからね! 大地の愛情がたっぷり詰まった料理ならむしろ歓迎さ!」と明るく言って、にこやかに野菜を頬張るでしょう。「このトマトの瑞々しさはまさに愛の水分補給だね!」なんて、微妙に恥ずかしい食レポをしながら、最後まで満足そうに完食してくれそうです。
――シュトラウス様は、静かに野菜の盛られたお皿を見つめて「……野菜だけなら、なんとか……私でも食べられそうです……」と小さな声で呟きそうですね。そして、レタスをうさぎのようにシャクシャクと少しずつ食べながら、「……あ、意外とおいしいです……」と控えめな声で言いながら、一生懸命食べている姿が目に浮かびます。
そんな魔王様たちの姿を想像すると、思わず笑みがこぼれました。
――約一名だけ、ちょっと……いえ、かなり厄介な魔王様がいますが、まさかね。今日に限って来るなんてことは……。
そう思った瞬間、店の扉が勢いよく開かれました。驚いて振り返ると、入り口から華麗な赤いカーペットが鮮やかにくるくると敷かれていきます。
「うわぁぁぁ!! まさかが来たぁぁぁ!!!」
「フッ。久しぶりだな、メルヴィとやら」
ああ……やっぱり。
優雅で傲慢で、それでいて妙に人を惹きつける声。輝く金色の髪に、深く澄んだ碧い瞳。端正で整いすぎて、どこか現実味のない顔立ち――視線を恐る恐る上げると、そこには東の魔王様ことエヴァンス様が、これでもかというほど気品に満ちた笑みを湛えて立っていました。
なんというタイミングの悪さでしょう。
今日は野菜メニューしかありません。しかも、よりにもよって、一番高級志向の魔王様が現れるとは……。
どうして私の日常は、こうも簡単に壊れるのでしょうか。
私は力なく、静かにその場に膝をつきました。




