今だけ限定価格!?魔王側近、怒りの家電祭り
扉の向こうで、村長さんたちが背を向けて何やら話し合いを始めました。
その小声の囁き合いはひどく真剣で、たまにちらりとこちらを振り返っては険しい表情で頷き合っています。おそらく「本当に信用していいのか?」という相談でしょう。正直、私が村長さんの立場だったら全く信用できません。いかにも胡散臭いですし、今この瞬間のグラフの表情なんて特に最悪です。
私は冷や汗をこっそりと額から拭いながら、ちらりと横目で様子を窺いました。
グラフは、無言のまま怒りの形相で私を睨みつけ、指先で素早く自身とカタログを交互に指し示し抗議のジェスチャーを繰り広げています。
私は焦りながら両手を合わせて「そこを何とか!」と拝むような形で返しました。
(おい、人間の女ァァァ! 何故私が魔法家電屋の店員なのだ!?)
(そこにカタログがあったからです!)
(そんな登山家みたいなことを言うな!!!)
(登山家でも家電屋さんでもどっちでもいいですけど、とりあえず店員になりきってください!)
(ふざけるなァァァ!!! 私は魔王様の側近、誇り高き魔貴族だぞ! なぜ魔法家電の店員などというわけのわからん設定を!)
(設定なんて後から付いてくるもんです!!!)
この状況を作ってしまった以上、もう引くに引けません。私は自分の胸にしっかりと抱え込んでいた魔法家電のカタログをそっと差し出し、グラフの胸元に押しつけました。
私は店を守るためなら鬼になります!
……ええ、たとえ相手が魔族であろうとも!!!
グラフの瞳が限界まで見開かれ、驚愕と絶望の入り混じった顔で硬直しました。
――絶対に無理だ! むしろ、どうして可能だと思った!?
――無理だと思うから無理なんです! ほら、可能な気がしてきた!! さあ、頑張って!!!
目で必死に訴えてくるグラフに、私は両手で小さく拳を握り、にこやかな笑顔で返しました。こっちだって必死なんです。店と私の平穏がかかってるんですから!
グラフは一瞬天井を見上げ、絶望を深呼吸と共に飲み込んでいるようでした。そんな中、ちょうど村長たちが振り返ります。
「……さて、本当に魔法家電屋の店員さんじゃと言うなら、証拠を見せてもらおうかの」
村長は静かな口調ながらも、目には鋭い疑念を光らせています。その後ろでは雑貨屋のご主人と道具屋のおじちゃんが腕を組み、険しい顔で睨んでいます。
瞬間、グラフの背筋がぴんと伸びました。覚悟を決めたか、それとも怒りが突き抜けたか。カタログを力強く握りしめ、一歩前に出ました。村長さんたちが少し身を引くほどの凄みです。そしてその口元が、ゆっくりと開き――いつもの絶叫でプレゼンが始まりました。
「……皆さまァァァ!! 日々の家事に疲れ果ててはいませんかァァァ!?」
――なんでよりによってその口調なんですか!!
私の定食屋、完全に終わったぁぁぁ!!!!
グラフは振り切ったように商品説明を続けます。
「そんなあなた方にィィィ! 本日ご紹介するのはこちらァァァ! 自動魔法洗濯機『マジカント・ウォッシュX』ですゥゥゥ! 魔法陣搭載型の超高性能! 泥汚れから魔物の体液まで、洗浄から乾燥まで自動で完結ゥゥゥ!」
村長さんたちは、その壮絶な口調に目を丸くしましたが、意外にも道具屋のおじちゃんが小さく感嘆の声を漏らしました。
「まさか……!」
緊張で固まっていた空気が少し緩んでいきます。
勢いを得たグラフは、さらに大きなジェスチャーで次の商品を紹介しました。
「続いてェェェ! 季節のお悩み解決家電、『エーテル循環式冷暖房機・エアフロー・マキシマム』! エーテルの力で夏はひんやり冬はあったかァァァ! 一年中快適空間を約束する、驚異の魔力循環システム搭載ですゥゥゥ!」
雑貨屋のご主人の瞳がぱっと輝きました。
「こ、これは……!」
興奮気味に村長と道具屋のおじちゃんを振り返りました。村長たちも顔を見合わせ、揃って真剣な表情で頷きます。何だか空気が一気に好転したような……?
グラフは勢いを落とすことなく最後の紹介に入りました。
「そしてェェェ! 本日ご紹介する最後の商品はァァ! こちら、『圧力魔法鍋プレッシャー・マスタープロ』ォォォ! 硬い魔獣肉も根菜類も、短時間でふっくらトロトロに調理可能ォォォ! 魔力で素材の旨味を閉じ込め、極上の料理をご家庭で簡単に再現できますゥゥゥ!!」
「例のやつじゃあああ……!」
村長さんが感嘆の声を上げました。それに続き、道具屋のおじちゃんも「素晴らしい……!」と唸ります。雑貨屋のご主人に至っては、もう完全に心を掴まれたようで、両手を胸元で組んで感動に浸っていました。
いや、なんでそこまで???
グラフの紹介が終わると、村長さんたちは満面の笑顔になり、力強い拍手を送り始めました。
「いやあ、素晴らしかったのう!」
「本当に魔法家電の販売員さんだったんだねぇ」
「疑って悪かった! お二人を信用しよう!」
グラフは完全燃焼した表情で、乱れた前髪をかき上げました。呼吸を整えながら村長さんたちの拍手を受け止めています。ところがふいに私の方を振り返ったその瞳には、明らかな怒りと恨みが宿っていました。
――ですよね! 絶対怒ってますよね!? でもほら、結果的には丸く収まったわけですし、そこまで睨まなくても!
私は無理やり口角を上げて笑顔を作りました。とにかく今は、村長さんたちの心を掴んだグラフの頑張りに拍手を送るしかありません。
……この後が怖すぎる、誰か助けて!!!!
私の内心の叫びは、盛大な拍手の音にかき消されたのでした。




