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定食屋は魔王様の交流所ではありません!

定食屋を営んでいると色々なお客様が来ますが、正直、今日ほど戸惑った日はありません。


……なぜそんな、この世の終わりみたいな顔でお水を飲んでいるんですか!?

ただの新鮮なお冷ですよ? 毒じゃないですよ!


ちび、ちび……と水を飲んで、青白い顔で虚空を見つめてはため息をつく男性――シュトラウスさん。定食をお出しするのが不安すぎて、今から胃が痛いです!


私は大きく息を吐き、台所に立ちました。


……最近あまりにも魔王様絡みの騒動が多すぎて、正直、心が折れかかっています。

そう、こういう時こそ、家庭的な豚汁の出番なのです!


私は野菜をまな板の上に乗せ、準備に取りかかりました。まずは大根。最近の騒動を振り払うかのように、無心で包丁を動かすのです。


トントン、トントン、音を立てて野菜が切れていきます。豚汁は丁寧な下拵えが大事。私はゴボウの泥を落とし、綺麗なささがきに仕上げました。切り終わった大根、人参、ゴボウを並べると、野菜たちが私に語りかけてくるようです。「大丈夫、平和な日々は必ず戻ってくるよ」と。


鍋に水を張り、野菜と肉を優しく入れます。具材が静かに鍋の中で泳ぎ始めるのを見ながら、私は心の中で強く祈りました。


『どうか今日こそ何も起きませんように』――


ゴンッ!


「あいたっ……」


ダメでした!!!!


「メルヴィ、来たぞ」


店の入り口に角をぶつけながら、平然と店内へと入ってきたのは魔王バルゼオン様。もう完全に慣れてしまった私も私ですが、魔王様も相変わらずの来店スタイルです。


「本日の日替わり定食は何だ?」


「豚汁定食になります」


「おお、豚汁か。それは良いな、実は今日――」


嬉しそうに席につこうとしたバルゼオン様でしたが、テーブル席の隅に座る男性に気づきました。


「……ん?」


そして迷うことなく、隅っこに座る人物へと近づいていきます。

私は察しました。あっ、これ絶対によくないフラグだ!!


「何をそんな暗い顔をしている。せっかく誘ったんだから、堂々としろ」


「あ……バル、ゼ……イオン……様」


青白い顔の男性――シュトラウスさんは、ゆっくりと顔を上げました。

いえ、待ってください。その反応、もしかして……!?


「ちょっ、ちょっと待ってくださいバルゼオン様!? その方はお知り合いなのですか!?」


「ふむ、此奴はシュトラウス。北の魔王だ」


また魔王様が増えました!!!


もうやめてください! 私の定食屋は魔王様の集会所ではありません!!! これ以上増やさないで!!!!


しかし、そんな私の心の悲鳴をよそに、バルゼオン様はシュトラウス様の腕をぐいっと掴み――


「折角だ。こっちに座れ」


「……っ……ちょっと、待って……ください」


ずるずると無理矢理引っ張っていきます。


「わ……私は……ここで……」


「メルヴィの料理を食べるなら、カウンターが良い」


シュトラウス様は掠れた声で弱々しく抵抗するものの、バルゼオン様の腕力には敵わず、あっさりカウンター席に移動させられてしまいました。


「…………」


北の魔王様はぐったりとうなだれながら、 まるで吸血鬼が太陽の下に引きずり出されたかのような顔をしています。不憫なほどに力の差が明白。まさか魔王様同士で、こんな格差があるなんて……。


豚汁を煮込んでいる私を横目に、バルゼオン様は静かに頷きました。


「あの、バルゼオン様……なぜシュトラウス様をここに誘ったのですか……?」


私が小声で尋ねると、バルゼオン様は大真面目な表情で言い切りました。


「最近、此奴の顔色が悪すぎる。メルヴィの定食で元気にしてやろうと思ってな」


「私の定食、健康食品じゃないんですけど!!!!」


「何を言う。我は通い始めてから、角の艶が良くなった気がする。絶対に効果はある」


バルゼオン様、勝手にうちの定食に謎の効能をつけないでください! 私が作るのは普通の定食ですからね!?


シュトラウスさんは項垂れながら小さく呟きました。


「……むしろ……外出で、寿命が……縮みそう……です」


「なに、食べれば治る」


いやいや、治りませんってば!?


私は気が遠くなりそうになりながら、静かに、豚汁定食の準備を始めるでした。

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