定休日なのに、なぜ魔王様がいるんですか!?
今日は定食屋メルヴィ、待ちに待ったお休みの日です!
いつもなら、仕込みに追われてまだ包丁を握っている時間帯。そんな殺伐とした毎日からの、久しぶりの完全オフ。これはもう、神様が私にくれた慈悲としか思えません。
私はふわふわの布団に包まれながら、二度寝への旅路をゆるやかに歩んでいました。
カーテン越しの朝陽は、まるで絹のように柔らかく、鳥のさえずりも、どこか上機嫌に聞こえます。いいですね……休日、最高です!!
「今日は起きない。絶対に、起きたりしない……」
そう、まぶたを閉じかけた、そのとき。
ゴンッ!!
「…………ん?」
なんでしょう。今、ものすごく不吉な音がしませんでしたか?
まあでも、気のせいかもしれません。疲れていると、幻聴くらい聞こえてくるものです。
……そう思いたかったのですが。
ゴトンッ……ドサッ……。
「…………ちょっと待ってください」
今のは気のせいじゃありません。なんか、転がりましたよね? しかも、けっこう重量感のある音でした。
え? なに? 泥棒?
いやいやいや、うちの店に盗まれるようなものなんてないはずですが!? 精々、高級醤油の在庫くらいしかありませんよ!?!?
でも、たしかに誰かがいる。そんな気配が、確実にするのです。
私は布団を蹴り飛ばし、目をこすりながら寝間着のまま階段を駆け下りました。いや、駆け下りるというより、半分転げ落ちたような勢いで。
そして、見たものは――
「ふむ、これでよいか……」
黒いマントを翻し、まるで城の玉座のように我が物顔で立つその姿。言うまでもありません。いや、言いたくありませんでしたが。
魔王バルゼオン様が、なぜか、うちの店のカウンター前に立っていました。
「…………魔王様?」
「ん? 目が覚めたか」
そりゃ目も覚めますよ!!!!
まるで「朝の散歩のついでに立ち寄った」くらいの自然な口ぶりで、何食わぬ顔をしている魔王様。
しかもマントの下に、明らかに生物的な蠢きと、がさがさという不穏な音が聞こえてくる謎の包みを抱えています。
「魔王様!? 本日は定休日ですよ!! お店、閉まっているんですが!!!」
「知っている」
「知ってて来たんですか!?」
「来た」
「いやだから、なぜですか!?」
「扉が開いたのでな」
「開けましたよね!? 勝手に!!」
うちの店って、休日勝手に入ってきてもいい仕様になっていましたっけ!? 定休日という概念が通用しないのは、魔王だからですか!?!?
私はこめかみを押さえつつ、改めて目の前の光景に目を向けました。
魔王様は、がさがさと動く奇妙な包みを腕に抱えたまま、じっとこちらを見ています。
がさがさ、もぞもぞ。……やはり、生きています。これは確実に、生命体です。
「ええと……魔王様? その……お持ちのそれは?」
「ふむ、これか」
魔王様は包みを持ち直し、得意げに私のほうへ掲げました。
「これは土産だ」
「………………」
土産。
その言葉の響き自体は、いたって普通のものです。
しかし、がさがさと動いているのですが。
動いているのですが!!!!
「ま、ままま、待ってください。まさか……その中、生き物ですか……?」
「そうだ」
「即答!?!?!?」
いやいやいやいや、なぜそんな自信満々に肯定するのですか!?
定休日の朝、のんびり二度寝を楽しもうとしていたら、店に魔王様が勝手に侵入しており、しかも正体不明の生き物を持っているというこの状況……意味がわかりません!!!
「……い、一応、聞いておきますが。中身、見せていただけるんですか……?」
「見てみるか?」
魔王様がにっこりと微笑みました。うっすら赤い瞳が、楽しげに揺れています。
「見たくないです!!!!」
全力で、全身全霊で拒否しました。
この包みの中身だけは、絶対に見てはいけない。私の第六感がそう告げています。何が入っていようと、人生において無視すべきフラグだと直感しました。
しかし。
魔王様は気にも留めず、小さく咳払いをひとつ。包みの結び目に手をかけ――
「ま、ま、魔王様!?!? ちょっと、本当に、本当に待ってください!! 心の準備が!! 心の準備がまだ!!!!」
もはや手遅れでした。
布がほどかれてゆきます。がさりと音を立て、包みが開かれ――
……そう、これは、嵐の幕開けにすぎませんでした。




