魔王様たち、食後の雑談が物騒です!
魔王様たちが食事を終えて、ようやく一息つける――と思ったのですが、そう簡単に平穏が訪れる訳はありませんでした。
「メルヴィ。お前の料理はなかなかのものだが、さらに上質な食材を使えば、格が上がるのではないか?」
持参したナプキンで優雅に口元を拭いながら、東の魔王エヴァンス様がそんなことを言い出しました。
「たとえば、肉だ。お前の店では普通の家畜の肉を使っているようだが、どうせなら黒毛ミノタウロン牛にしてはどうか?」
「即却下です」
間髪入れずにお断りしました。
「何故すぐに私の意見を却下するのだ……」
不満げに眉を寄せるエヴァンス様。
だって、そんなの仕入れたら破産しますから!!!
黒毛ミノタウロン牛――元は迷宮に棲むミノタウロスが、家畜化の過程で牛化した幻獣系家畜獣。かつては迷宮主専用の食糧で、一頭買いできるのは大貴族や王族だけと言われている、大陸でも最高級と名高い幻の牛肉。
そんなもの、定食屋の仕入れに組み込めるわけがありません。
「私が出資してやろう」
「結構です!」
「金に糸目はつけぬぞ?」
「問題はそこじゃないんです!!」
エヴァンス様は、なぜか本気で店のグレードを爆上げしようとしているのですが、私は場末の定食屋をやっているのであって、高級レストランを開業するつもりは一ミリルもないんです!!!
「そもそも、庶民の味こそが、うちの店の良さなんですよ!」
「ほう……そういうものか?」
納得したような、していないような顔で、エヴァンス様は渋々引き下がりました。
私は心の底から、ほっと胸を撫で下ろします。
……が、食後のお茶の時間になり、今度は魔王トークが始まってしまいました。
バルゼオン様とエヴァンス様が湯呑みを傾けながら、至極のんびりとした様子で勇者について語っています。
「最近の勇者はつまらん」
「ふむ、確かにな」
「この間、私のダンジョン『燦輝の黄金城』に侵入してきた者は、最初の門で泣いていたな」
「それはひどい。そういえば、我が『悠久の万魔殿』に挑んだ者も、第一層の魔獣が咆哮した瞬間、剣を落として泣き崩れたな」
物騒すぎる……。
なんですかこの会話!?
「最近の勇者は、根性が足りないな」
「同感だ。昔はもっと死にもの狂いだったのにな」
根性の問題じゃないと思います!
勇者様視点で考えたら、地獄以外の何物でもない。
私はこっそり距離を取ることにしました。
さっきまで「美味いな、これはさっぱりしていて良い」と言っていた方々と同じとは思えません……。
「人間のお嬢さんはどう思います?」
「――え?」
突然、話を振られて私は固まりました。
笑顔でこちらを見つめるのは、エヴァンス様の側近、ディートリヒ。湯呑みをワイングラスのように優雅に揺らし、まるで貴族の社交パーティーにいるかのような、余裕の微笑みを浮かべています。
いや、今の会話に私の意見必要ですか???
「あの……その……」
口を開きかけましたが、言葉が出てきません。
「ふむ、メルヴィはどちらかと言えば、勇者側の立場だからな」
「ならば、我々と勇者の戦いについて、何か思うことはあるか?」
「ええと……その……」
やめてええええええ!!!
定食屋の店主に、魔王会議の意見を求めないでください!!!!
私は慌てて話題を変えようと、お茶を差し出しました。
「ど、どうぞ!! おかわり、いかがですか!!!?」
「ああ、ありがたい」
……セーフ!!!!
魔王様がお茶に意識を向けてくれたおかげで、私は何とかこの死の会話から逃れることができました。
だめだ、規模が違いすぎてついていけない。
例えるなら、スーパーの特売の話をしている一般人の横で、国家予算レベルの経済会議が行われているようなものです。
「ふむ、メルヴィも興味があるのか?」
「ないです!!!!」
私は全力で首を振りました。
……お願いですから、もう少し普通の話をしてください、魔王様たち!!!!




