魔王様、湯呑みを見せびらかす
食事の仕方ひとつ取っても、魔王様方の個性は見事にバラバラでした。
バルゼオン様は静かに、そして満足げにフライを噛み締めています。
「……ミックスフライというのは、異なる国が静かに共存しているかのようだ。それぞれが主役を張れる素材でありながら、この一皿の上では互いに争わず、役割を全うしている。海老は甘く、魚はしっとり、コロッケは温かい安心感をもたらす。……なるほどこれが調和というものか」
さも当然のように美味い、という顔をしているのがなんともバルゼオン様らしいですね。
一方、エヴァンス様は――
「高級な素材でなくとも、敬意を払えばここまで昇華するのか。海老も魚も芋も、ただ揚げただけではない。一度手をかけ、性質を見極めた上で、最適な調理をしている。そして、盛り付けにも、料理人の思想が見える。秩序ある美しさ――それこそ、料理の品格だ。実に好ましい」
何やら高尚な感想を呟きつつ、フォークとナイフで優雅に召し上がっていらっしゃいます。まるで高級レストランのコース料理でも食べているかのような雰囲気ですね。
そして最後のアモルテ様は――
「う~~ん!最高だね!!」
エビフライを尻尾まででバリバリ食べながら、ニカッと満面の笑みを浮かべました。
「いやぁ~~!いいねえ、このミックスフライ!!海老も魚もコロッケも、全部味も食感も違うのに、なんで一緒に食べると、こんなに幸せなんだろう?違いを楽しむ、それが愛ってやつなんだよ!!同じじゃなくていい、むしろ違うからこそ楽しいんだ。フライの世界は、実に愛に満ちてるねえ!!!」
いやはや。ミックスフライに愛の哲学を見出す人、初めて見ました。フライは愛じゃなくて揚げ物です、アモルテ様……。
さて――ここからは、食後の時間です。
私は湯呑みにお茶を注ぎ、魔王様方の前に静かに置きました。
バルゼオン様は当然のように、懐からマイ湯呑みを差し出します。そういえば、私がプレゼントしましたね。お茶を注ぎながら、すっかりこの店に馴染んでいるなあと、思わず微笑んでしまいました。
……いや、常連過ぎませんか、バルゼオン様。
「フッ……」
「…………」
「…………」
エヴァンス様とアモルテ様が、無言でバルゼオン様のマイ湯呑みを見つめました。
いや、その間は何ですか……?
「ほう……」
最初に反応したのはエヴァンス様でした。
「その湯呑み……なかなか品のある造りではないか」
「ふむ、そうだろう」
バルゼオン様はやたら得意気に湯呑みを持ち上げました。
「この店の主人が、我のために用意したものだ」
「……それはどの程度の価値なのだ?」
「…………」
はい、やっぱりそう来ましたね!?
エヴァンス様、ものの価値は金額で測るタイプ!!!!
私は内心ため息をつきつつ、「普通の雑貨屋で注文したものなので、そこまで高価なものでは……」と答えかけた、その瞬間。
「さぁ、どうだろうな」
バルゼオン様が 「あえて答えない」 という選択をしました。
「曖昧にしておくのも、王の嗜みか。――だが、ますます興味が湧いたぞ」
いや、ただ勿体ぶってるだけですよね!!!!
なんでこんな高尚な駆け引きみたいになってるんですか!?
と、そこへ――
「僕も質問があるよ!!」
アモルテ様が、身を乗り出しながら割り込んで来ました。
「ねぇねぇ、その湯呑み……一体どんな愛が込められてるんだい!?」
「愛!?!?」
まだその話、引っ張りますか!?
「フッ……」
またもや勿体ぶるバルゼオン様。
そして、それをじっと見つめるエヴァンス様とアモルテ様。
いやいやいやいや、何この謎の緊張感……!?
「まぁ……知る必要があるかどうかは、お前たち次第だな」
「……ほう」
「……気になるねぇ~~!!!」
……なぜか 「語られざる逸話」 みたいな雰囲気になりかけています。
雑貨屋で買った湯呑みに、王家の秘宝みたいな雰囲気を纏わせないでくださいませんか!?
――それはただの湯呑みですから!と、私は全力で叫びたくなりました。




