三者三様の魔王様たち
アジは骨を抜いて、エビは背わたを取り、コロッケは丸く優しく握っておきます。
小麦粉、卵液、パン粉の順にくぐらせる音も、今日はなんだか軽やか。心地よい音を立てながらエビフライが油の中で泳ぎ、カラリとした衣が黄金色に染まります。
外はサクサク、中はふわふわの食感が約束されましたね。
横ではアジフライがこんがりと揚がり、コロッケも衣がきつね色に変わりました。
――完璧。
私はそれらを引き上げ、網の上で余分な油を落とし、カリッとした仕上がりを確認します。
皿にキャベツを盛り付け、揚げたてのフライたちを美しく並べ、レモンも添えて、定食としての完成度は申し分ないですね。
「皆様、お待たせしました。ミックスフライ定食です」
カウンターに三つの定食を並べた、その瞬間。
エヴァンス様が何かを思い出したように顔を上げました。
「そこのシェフ」
「……はい?」
「この定食、金粉を振りかける演出はないのか?」
「ないです!!!!」
私は即座に却下しました。
「なぜだ?」
「なぜ必要だと思ったのですか!?」
金粉を振るミックスフライ定食なんて、聞いたことがありません!
「料理というのは、華やかさが大事だろう」
「確かに豪華にはなりますけど!! でも、そういうジャンルの食事じゃないんですよ!!!」
そもそもミックスフライ定食は、庶民の味方であり、みんなに愛される親しみやすい料理です。そこに、金粉を振りかける発想を持ち込む魔王様がいることに驚きです!!
「む……そうか。では、私の定食はこのままなのか……」
エヴァンス様が不満そうに首を傾げます。
いや、そんなに真剣に悩まないでくださいよ!!
「そもそも、ミックスフライ定食は普通のフライ定食よりも金額が高いんですよ!」
「……なんと?」
「普通のフライ定食は単品ですが、こちらはエビフライ、アジフライ、コロッケの三種が揃った豪華な定食です。その分、材料費も手間暇もかかっています」
「……」
「……こちらは、金粉を振りかけずとも、すでに価値のある定食なのです!!!」
「……ほう」
エヴァンス様は 「なるほど……」 と納得した様子で頷きました。
「私に相応しい、華やかで豪華な料理であるということか……」
「そういうことです!!」
「……では、よしとしよう」
納得してくれたぁぁぁ!!!!
心の中でガッツポーズ。
いや、これ以上金粉を求められたら、どうしようかと思いました!!!!
――と、今度は。
「ちょっと待ったぁぁああ!!!」
突如、隣のアモルテ様が大声を上げました。
「メルヴィちゃん!さあ、僕の定食に愛を込めて!!!」
「愛!?!?!?」
「いやぁ~~、やっぱり食事ってのはさ、作る人の気持ちが大事だと思うんだよね!!」
「あの、私、これでも一生懸命作りましたよ」
「う~ん。ちょっと意味が違うかも~~。つまり、僕は愛のこもった定食が食べたいんだ! 料理は愛情!!ハートだよ!!!」
アモルテ様は、こちらにキラキラした笑顔を向けました。いや、そんな陽キャのノリで求められても、困るんですけど!?
私はどうにか適当に誤魔化せないかなと考え、ふと皿の上のフライを見やります。
……あ。
「えっと……エビフライの尻尾とか、アジフライやコロッケがハートに見えませんか?」
私は、とりあえずそれっぽいことを言ってみました。
「……ん~?」
アモルテ様が、じっと皿の上を見つめました。
「エビフライの尻尾をよく見てください。ほら、ちょっとこう、くるんってハート型に見えません?」
「おぉ~~!!」
「あと、アジフライはこう……開いた形が、どことなくハートっぽくて……?」
「確かに~~!!」
「そして、コロッケは――丸いからハートに見えなくも……?」
いや、無理がありますね!?
コロッケ、完全にただの丸ですね!!!!
ですが――。
「ふむ……」
「……ほう、そう見えなくもないな……」
まさかの他二名の魔王様が納得モード突入。
「おぉ~!そうかぁ~~!! これが愛のこもった料理ってやつかぁ!!!」
アモルテ様がぱちんと指を鳴らしました。
「いやぁ~~いいねぇ!! こういうの、僕大好きだよ~~~!!!」
「ふむ……確かに、ただの食事よりは、意味がある方がよいな」
ちょっと、バルゼオン様まで!!
定食に食事以上の意味なんてないですよ!!!!
もうダメだ……。
魔王様方の思考回路がわからない……。
結局 「豪華で愛のこもった定食」 として納得したまま、三人の魔王様は満足げに食事を始めました。
私は、遠い目をしながらため息をつきます。
――魔王様は三人とも自由人でした。




