魔王様、適当に誘った結果、魔王が増えた
今日も一日頑張りましょう。
「メルヴィ、来たぞ!」
カウンター越しに顔を上げると、そこには昨日と変わらず、黒いマントを翻しながら店に入ってくる魔王バルゼオン様の姿がありました。
――が。
「お待ちください魔王様、後ろにいる方々はどなたですか!?」
私は驚愕しました。
なぜなら、バルゼオン様の後ろに、見慣れぬ二人の男性が控えていたのですから。
一人は、長いウェーブがかった金髪に深い青の瞳を持ち、貴族らしい装いをした美しい男性。金色に輝く、牛のような角を生やしています。
その優雅な所作と気品漂う雰囲気から、一目で高貴な身分であることがわかりますが、同時に厄介そうな気配もぷんぷんします。
もう一人は、腰まである鮮やかな赤髪に緑の瞳、踊り子のような派手な服を着た艶やかな男性。薄いピンク色の捻れた角が頭から左右対照のハート型のように生えています。
ずっと笑みを浮かべていて、テンションが見た目からして異様に高そうですね。
……グリム様に続き、新しい魔族のお客様が……。
私は、すでに嫌な予感しかしませんでした。
バルゼオン様は二人を一瞥し、さらっと紹介しました。
「東の魔王エヴァンス、西の魔王アモルテだ」
「魔王様が増えたぁぁぁぁぁ!!!!」
いや、昨日まで+1魔王だったのに、なぜ+3魔王になっているんですか!!!?
「魔王様……どうしてお二人を……?」
私は恐る恐る尋ねます。
「うむ」
バルゼオン様は、実に堂々とした声でこう言いました。
「魔王会議で適当に誘った」
「適当!!!」
いや、もうちょっと計画性を持ってください!
あなた魔王ですよね!?
呆然とする私をよそに、エヴァンス様が優雅に店内を見渡します。
「なるほど、ここが例の定食屋か……。バルゼオンがわざわざ通うほどの店とは、どれほどのものかと思ったが……」
そう呟くと懐から金貨を数枚取り出しました。
「この店、私が買い取ろう」
即・買収宣言!?
「待ってください!そんな簡単に買われませんから!!!」
私は全力でツッコミます。
というか、なぜこの魔王様は買収から入ろうとするのですか!?
「む?」
エヴァンス様が、不思議そうに首をかしげました。
「金額が足りぬのか? ならば、この倍額を出そう」
「そういう問題ではありません!!!!」
お金で解決すれば、何とかなると思わないでください!
「そうか……買収はダメなのか……???」
エヴァンス様は、軽く目を伏せ、何か考え込んでいるようでした。
――と、その時。
「おーい!! そこのメルヴィとかいう人間ちゃーーーーん!!!」
大音量の声が店に響きます。
「……はい?」
顔を上げると、アモルテ様が満面の笑みで両手を振っていました。めちゃくちゃテンション高い!
「ふふ、バルゼオンが通う店って聞いて、気になってたんだ!!!」
アモルテ様は、カウンターの前にズイッと身を乗り出します。
「いやぁ~~~、実は僕、定食ってやつを一度食べてみたかったんだよね!!!」
「……は、はぁ……」
あまりの陽気さに、私は気圧されます。
まさか、こんなに元気な魔王様がいるとは思いもしませんでした……。
「というわけで、注文しようか!」
アモルテ様はピッと指を立てます。
「僕は愛のある定食がいいな!」
エヴァンス様は胸を張って言いました。
「では、私は王に相応しい豪華な定食を」
――なるほど、なるほど。
「日替わりはミックスフライ定食です」
「……」
「……」
二人の魔王様、沈黙。
「愛は?」
「それは豪華なのか?」
「エビフライとアジフライとコロッケが入っています」
「まあ、豪華と言えなくも?」
「んん~、愛を感じる?」
いや、無理やり納得しなくてもいいんですよ!?
しかし、結局三人とも 日替わりミックスフライ定食を頼むことになり、私は厨房へ向かいました。
――こうして、魔王様がまた増えた。
この店はこれからどうなるのでしょうか?
私は、遠い目をしながらフライを揚げ始めました。




