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【書籍化】推し騎士に握手会で魔力とハートを捧げるセカイ(連載版)  作者: 緑名紺
番外編

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41 番外編 特別な誕生日・中編

 


 十六歳の誕生日。

 成人して、大人の仲間入りを果たす日。


「…………」


 日付が変わるまで起きていようと思ったのですが、いつの間にか寝落ちしていました。

 朝、小鳥がさえずる声で起床すると、私は不思議な心地で誕生日を迎えました。当然と言えば当然ですが、体は昨日となんら変わりません。何も実感がなく、十六歳になってしまいました。


 祭壇のネロくんに挨拶をして、そわそわしながら身支度を整えます。


「おはよう、メリィ。誕生日おめでとう」

「もう十六歳なんて、時間が経つのはあっという間ね……健やかに育ってくれて嬉しいわ」


 食堂に入るや否や、父と母が祝福してくれました。

 朝が弱い父が私よりも先に席についているなんて、大変珍しいことです。ところどころ寝癖が直っていませんが、そんなこと気になりません。


「ありがとうございます!」 


 お手伝いさんにもお祝いされ、朝食も私の好きなメニューを用意してもらえました。


「ディナーも腕によりをかけて準備しますからね」

「わぁ、楽しみです!」


 母が苦笑しています。


「あらあら、今日はエナさんにもカフェでお祝いしてもらうって言っていなかった? 太っちゃうわよ」

「お祝い事なんだからいいじゃないか。食べきれなかったら明日もご馳走の続きを楽しめばいい」


 一週間くらいお祝いし続けてもいいくらいだと、父はのんびりと言いました。

 うーん、溺愛されています。有難いことです。


「夜、エナさんも来てくださるのかい?」

「誘ってみましたけど、成人の誕生日ディナーは家族水入らずで過ごすべきだと言われました」

「遠慮しなくてもいいのに。あ、家族水入らずというのなら、いっそネロくんを誘って――」

「だ、ダメですよ! いくらなんでもご迷惑ですから!」


 何を勝手に家族としてカウントしているんですか。図々しいと思われちゃいます!

 父も母もお手伝いさんも、ぷんぷん怒る私を微笑ましげに眺めていました。くっ、またからかわれてしまいました。

 これ以上私を緊張させないでほしいです。


 ……そう、夜は家族で改めてお祝いのディナーを食べますが、その前にビッグイベントが控えています。


 なんとエナちゃんが、騎士カフェ二号店の誕生日プレートを予約してくださったんです!


 誕生日限定のメニューを知ってから、ずっと憧れていました。しかし、自分で自分の誕生日のために予約するのは難易度が高いと思っていたので、持つべきものは推し活を共にする親友ですね。


 平日ゆえに普段通り学校には行かなければいけませんが、午後からは騎士カフェに行ける……そう思うと何も苦ではありません。歴史の小テストが返ってくるという事実にも、今日だけは見て見ぬ振りさせてください。

 両親たちに見送られ、私は家を出ました。


 特別な誕生日であっても、日課は欠かせません。広場の掲示板を見に行きました。

 今日は握手会の開催がないようで、私はほっと胸を撫でおろしました。とりあえず可能性は潰えずに済みましたね。


 今日の午後、ネロくんはカフェのシフトに入っているでしょうか……?


 あまり期待しすぎてはいけないと思いつつも、やっぱりネロくんにも祝ってもらいたい。

 エナちゃんが誕生日プレートを予約したことが伝わっていれば、きっと。

 だって、ネロくんは多分、私のことを……。


「っ!」


 私は恥ずかしくなって学校までの道を駆け出しました。

 ネロくんの言葉でちゃんと聞くまでは、事実として認識してはいけません!

 調子に乗ったら危険です。心の平穏のためにもあやふやな状態にしておくべき。


「好き」も「愛」もたくさんの種類があって、重さや形も様々です。私と全く同じ気持ちとは限りません。


 呪いを解いてくれた時の……その、口づけだって、人工呼吸的な意味合いが強かったんですから!

 結婚式の話をしてくれたのも、ファーストキスの責任を取ろうとしているだけかも。もしくはただの天然。

 ネロくんは純粋な人ですからね、あり得ますね、十分に。


 ……そもそもたとえ同じ気持ちだったとしても、永続的に好意を持ってもらえるとも限りません。心変わりすることだってあります。

 これから出会う人の中に、ネロくんの本当の運命の相手がいる可能性だってあるわけで。


「…………」


 冷静に自分を諭し過ぎて、落ち込んでしまいました。

 少しはネロくんを信じるべきでは?


 普通の人間じゃなくても、全然気にしないと言ってくれた。

 必ず守ると言って、私の手を握り締めてくれたんです。


 足を止め、お守り石のネックレスに触れました。そうすると、ネガティブな感情が浄化されるような心地がします。


 今は、嫌われないように謙虚に健気に応援を続けて、来るべきその日に備えましょう。

 ネロくんにふさわしく、誰も文句を言えないくらい素敵な女性になれば、おのずと自信も持てるはず!


 とりあえず、私は今日から成人です。

 誕生日を祝ってくれる大切な人たちに、感謝の気持ちを伝えなければ。知的で上品で包容力のある、凛とした振舞いを心掛けましょう。






 ……という意気込みも虚しく、私はみっともなく泣き崩れていました。


「うぅ、エナちゃん、ありがとう……こんな最高な誕生日初めてです」


 やってまいりました、おなじみの騎士カフェ二号店。

 予約席は窓際の角にあり、テーブルは淡い紫色の小さなフラワーアレンジメントで飾り付けられています。私の座る席には、誕生日を祝福するバースデーカードが添えられていました。


『十六歳の誕生日おめでとう。メリィちゃんにとって、幸せいっぱいの一年になりますように』


 贈り主の名前は、ネロ・スピリオ――世界一格好良い推し騎士様その人でした。

 もう既に幸せいっぱいで爆発しそうです。


「こんなに喜んでもらえるなんて、祝い甲斐があるわ。わたしの誕生日のお返しよ」


 エナちゃんはふふんと胸を張り、ふらつく私を椅子に座らせてくれました。


 実は、エナちゃんの誕生日はもう過ぎてしまったんです。異国の家族と離れ、学校の寮で暮らす彼女の希望で、当日は私の家に招いてお誕生日お泊り会をしました。

 エナちゃんの推し騎士様――アステル殿下モチーフのクッキーやデコレーションケーキを用意し、精一杯のおもてなしをさせていただきました。ご満足していただけたみたいですし、私もめちゃくちゃ楽しかったです。


 ……残念ながら、騎士カフェ二号店にアステル殿下はいらっしゃいません。

 当日会うことは叶わず、ご本人からバースデーカードも受け取れません。だからカフェで過ごす案は採用しなかったのですが……なんだか、私ばかりが良い思いをしてしまって、申し訳ないです。


「メリィが何を考えているのか、なんとなく分かるけど、やめてよね。わたしも最高の誕生日にしてもらったんだからいいの。この前なんか家宝もののプレゼントももらえたし……メリィも今日をめいっぱい楽しみなさいよ」

「エナちゃんっ!」

「泣かないの。せっかく直してきたメイクが崩れるわよ」


 頷いてハンカチで涙を拭いました。

 涙腺の脆さをどうにかしなければ……。


「いらっしゃいませ。そして、お誕生日おめでとうございます、お姫様!」

「リリンちゃん! ありがとうございますっ」


 早速リリンちゃんがお席にやってきてくれました。

 改めてメニューの確認と、エナちゃんの分のオーダーを聞くと、大きなお目目で「ばちっ」とウインクを放ちます。う、可愛い。ありがとうございます!


「すぐに準備しますね。というか、もう準備してまーす。期待してて!」

「!」


 これは、もしかしてもしかしなくても……会える!?

 幸運にもシフトが重なったのか、わざわざ予定を合わせてくれたのか。どちらにせよ、体が痺れるほど嬉しい。

 そわそわしながらその時を待ちます。私があまりにも挙動不審だったので、見かねたエナちゃんが先にプレゼントをくれました。

 故郷から取り寄せたという、大人っぽいデザインのバレッタでした。大きな紫色の天然石の他、金と銀の小さなビーズで縁取られてキラキラしています。


「ありがとうございます。すごく素敵です。大切に使います!」

「そうして」


 早速明日、上品なハーフアップに挑戦してみましょう。身に着けるのが楽しみです。


「お待たせしました。はーい、まずはエナちゃんの分でーす」


 リリンちゃんが、エナちゃんが注文したメニューを配膳し、場所を譲ります。

 そして、少し遅れて現れたのは……。


「メリィちゃん。誕生日おめでとう。大切な日に、ここに来てくれてありがとう」

「っ!」


 私はあやうく昇天しかけました。

 ネロくんが、いつも厨房のエプロン姿だったネロくんが、ホールの制服に身を包んでいるではありませんか!


 騎士団服と執事服をミックスさせたようなシックな装い。ばっちり決まっています。

 なんという神々しさ……。

 絶対に似合うと思ってました。超絶格好良いに決まっているって何度も何度も妄想していた姿が今目の前に……ただでさえ良い視力がさらに良くなる。

 いえ、むしろ瞳の中でプリズムが弾けて、ネロくんの周囲が七色に煌めいているように見えます。衝撃で正常な視界を失ってしまったようです。


 SSRスーパー・スペシャル・レア――ネロ・スピリオ/ホール制服


 実装(お披露目)おめでとうございます!

 誕生日にだけお目にかかれるということは、三百六十五分の一ですか。妥当な排出率ですね。で、どこに課金すれば、もっと確率が上がります?


「これ、ボクが提案したんだよ!」

「ありがとうございます、神よ」


 リリンちゃんは姫君をもてなす天才、さすが看板騎士様です。

 ……感極まって変なテンションになってしまいました。一番にネロくんに感想を伝えなくてはいけなかったのに!


「ネロくん、あの! とても素敵です! よく似合っています! ありがとうございますっ!」

「え、あ、こちらこそありがとう? ……今日は給仕も頑張るね」

「給仕も?」

「調理と盛り付けも頑張ったんだ。溶けないうちにどうぞ」


 そう言って、ネロくんは慎重に私の前に大きなお皿を置きました。少し恥ずかしそうです。


「か、可愛いー!」

「本当ね。すごくカラフル」


 これが、騎士カフェの誕生日デザートプレート!

 しかも口ぶりから言ってネロくんのお手製です!


 真っ白なプレートの中央に鎮座するのは、イチゴが載った丸いケーキ。

 それを彩るように季節の果物が添えられています。お花やハートの形に切られていて、可愛らしいです。あ、本物のお花の花弁も飾られていますね。

 さらに、色とりどりのクリームで虹が描かれ、お皿の半分には大きくチョコペンで、


    誕生日おめでとう

    俺の大切なお姫様


 ……という意味の言葉が綴られていました。


 これを、ネロくん自ら書いたんですか?

 メッセージカードだけでも嬉しいのに、さらにもう一言いただけるとは!


 私はその言葉たちを噛みしめると、両手で顔を覆って宙を仰ぎました。


「メリィちゃん?」

「すみません、もう少し咀嚼させてください」

「まだ食べてないよね?」


 幸せの甘い味がします。これだけで紅茶三杯は余裕です!



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 実装お披露目おめでとうございます! 「すみません、もう少し咀嚼させてください」 「まだ食べてないよね?」 にはめちゃくちゃ笑いました。幸せの味……
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