第31話 絡まってこんがらがる②
「は? それは一体何の冗談でしょうか?」
アレフはつい、聞き返してしまう。どうして謝罪相手が誘拐なんて事をするんだ? 必要性が全くないのに?
「現在、捕縛した犯人から順次取り調べを行います。冗談ではありません」
「いやいやいや、その御方達は当家の主人が謝罪する御方々ですぞ? 何故その様な意味のない事をする必要が?」
「…御方々? 冒険者風情にその様な言い回しはどうかと──」
「え? ご存じないのですか? 彼らはミスリルランクの冒険者、しかもあのセレス・フィリア様の孫娘である、セリス様がおられるパーティですよ」
「…へ?」
それを聞いた途端、顔がどんどん青くなっていく隊長。
アレフは、コイツ知らなかったんだ。と思いながらも続けて聞く。
「そんな御方々を取り調べて大丈夫なんですか? ハンクの証言以外にも何か、証拠になるような物でもお持ちで?」
──そんな物は無かった。
ソイツは何時もの情報屋だった。慌てて夕方に駆け込んできた時は何事かと訝しんだが、今夜倉庫街で攫い屋が動くと言って来た。
冒険者が依頼したらしいと。
そこで戦闘が有るかもと聞いた時は信じられなかったが、ギルドからの話しと聞いて兵を二人配置したのだ。
そうしたら、本当にそこで戦闘が起きた。駆け付けて見ればその場にいたのが冒険者だった。
話を聞けばギクシャクするし、芝居がかっていたのがバレバレだった。
怪しいなんてものじゃない。こいつ等は真っ黒だと直感した。
それが、あの災厄のセリスだと?! それが本当なら不味い。
彼らは確かに言っていた。襲われて撃退したのだと。セリスが戦闘したならば、あの惨状も納得できる。
しかし、ハンクは確かに言ったのだ。攫い屋の依頼者は冒険者だと…。
そこまで考えて気付く。ハンクはスレイヤーズとは言っていない。冒険者だと言っただけ…俺は何時から彼らを犯人と決めつけていた?
「おい! お前、ギルドに行ってマスターか事情に詳しい者を連れてこい!」
慌てて隊長がそう叫んで、兵の一人をギルドに向かわせようとした時、部屋に入って来る一人の偉丈夫が居た。
「ふむ。その必要はない。彼らの身元は我が保証しよう」
「──…あ、貴方は!」
◇ ◇ ◇
《マスター、何者かが接近します。カラーは青、中立です》
シスがそう言うと、少ししてから牢に何人かの足音が近づいて来た。
「久しぶりだな青年。いや、スレイヤーズのリーダー、ノート殿」
◇ ◇ ◇
「──それで。俺達の拘束理由を、教えて欲しいのですが」
現在詰所の応接室では俺達全員に対して、衛兵隊長と副長が揃って絶賛土下座中だった。
「誠に申し訳ございません! 今日の昼に密告があったのです。その際、戦闘の有無や指示が冒険者から出ていると聞きまして! 一応の為に配置した部下からの連絡で駆け付けた所、皆さまがいらしたので。…じ、事情をお伺いした際に、あ、あの…」
「なんじゃ、ハッキリ言わぬか」
「は! 余りに芝居がかっておりましたので! 怪しいと思った次第であります!」
知らず知らずのうちについ、キャロとシェリーを見てしまった。
真っ赤な顔で俯くシェリーとアワアワして居るキャロル。…うむ、可愛い。は! そうじゃない!
「…ま、まぁ確かにこちらも紛らわしかったのは認めますが、いきなり拘束は不味いでしょう、せめてギルドカードで確認を取って欲しかったです」
俺の言葉に、『その通りでしたぁ! 申し訳ございませ~ん!』と床にへばり付きながら、土下座で謝り続ける二人。まあそんなに長い間牢に居たわけでも取り調べもまだされていなかったので、謝罪を受け入れる事にした。
「そうじゃな。…して、そちらの御仁はどなたかの?」
俺達の話しを黙ってずっと聞いている偉丈夫に、セリスが視線を向ける。先程、牢屋に迎えに来た男。…そして以前門の近くで出会った人。
「フム。改めて名乗りを上げさせて頂こう。我はフィヨルド・フォン・エリクス辺境伯様の騎士団、副団長マルクス・トッドと申す者。其方らを迎えに参った」
立派なカイゼル髭を持つ、鎧騎士様だった。
「辺境伯様の騎士様? え? 迎えにとはどうゆう事ですか?」
俺の言葉に、マルクスさんは苦笑し、俺達を見て話し始める。
「はは…貴殿らは辺境伯様の領に向かっているので、相違ないよな」
そう言われて皆で頷く。
「うむ、忘れられてはいなかった様で何より」
「いや、そもそも現に向かっている最中だったんですが」
「ははは、そうかそうか。…一つ聞きたいのだが辺境伯様とは、何時別れたかね」
──…そう言えば、アレは何時頃だった?
《マスター、辺境伯との会見から既に六十日以上経過しています。こちらの暦で二か月程です》
(おお! サンキュー。ログ機能って便利だねぇ)
《…因みにその際、一か月の猶予で向こうに行く約束をしていますよ》
「ファ?! そうだった! もうそんなに日数過ぎてたんだ!?」
思わず大声で叫んだ俺を、皆が一斉に注目する。
「なんじゃ! どうした?!」
「日数って何の事?」
「ノートさん何か約束を?」
三人が、俺の言った言葉に反応して、聞いて来た。
「いや、辺境伯様と約束してたんだよ。領都に行くのに一か月くらいだって。…てかセリスはあの時一緒に居たじゃん。セレス様だったけど」
「んあ? そうじゃったか? 良くは覚えとらん。年寄りじゃからな」
「何都合のいい事言ってんだよ。あ、すみませんマルクス様これでも急いだつもりなんですが、いろいろ事情が込み入ってました」
「ははは。その辺はこちらも色々聞いているので問題ない。それでここからは我も同行させて欲しいのだ。辺境伯様の文も持参した。これは仲間内だけで読んで貰いたい」
そう言って懐から封緘の付いた手紙を俺に手渡してきたので、念話で早速相談する。
(皆、どう思う?)
(その手紙次第ですかね。まだ信用できませんし)
(キャロルと同意見ね。ただ紋章やあの鎧は本物よ。見た事が有るわ)
(儂も、始祖様も二人と同意見じゃ。まずは宿で文を読んでからじゃな。どうやら、儂らの動向を知っておる様じゃしの)
(決まりだね。じゃあ後はここの事だな)
「手紙の件は了承しました。同行の件はこれを読んでからでも構いませんか?」
「うむ。宜しく頼む」
「では、後は誘拐の件ですが隊長、密告者の人相って分かります?」
「は! それは大丈夫なんですが、如何せん彼奴はスラムの住人ですので、所在までは分かりません。ですが何故密告者の事を?」
あれ? この人…察しの悪い人なのか? どう考えたってソイツが一番怪しいじゃん。俺が説明すると『あ! そう言えばそうですね!』とか言ってるし。大丈夫かここの衛兵。
「今、被害者たちはどうなっているんです?」
「は! 彼らは治癒師によって治療済みです、安静が必要な為今は救護室で家の者が面倒を見ています」
「…話は出来そうですか?」
「か、確認してきます」
暫くして戻ってきた副隊長が、侍従の方なら話が出来ると言うので救護室へ向かう。
その部屋は結構広かった。ベッドが全部で六床並び、奥の一つにはカーテンで仕切られていた。その場所にはメイドらしき人が二人出入りしている。多分子爵の息子だろう。
もう一方には執事の服を着た男がベッドの脇に立って居て、ベッドの従者らしき男は体を起こしてこちらを見ていた。
「お初にお目にかかります。私、メスタ子爵が家令、アレフと申します。この度は我が家の子息デルネス様と侍従見習いのハンクをお救い頂き、誠にありがとうございます」
そう言って深く頭を下げるアレフさん。ベッドの彼も同じように頭を下げて礼を言う。
「デルネス様だけでなく、私めまでお救い頂き恐悦至極でございます」
「大事が無くて良かったです。少し話が出来ると聞きましたのでお時間を頂いてもよろしいか?」
「はい。」
「救助されたとき衛兵に攫い屋に誘拐されたと聞きましたが、間違いありませんか?」
「はい、本人達がそう言っていました」
「そうですか。他には何か話をしましたか?」
「…はい…お恥ずかしい話ですが…攫い屋と聞き、奴隷にされると思ってしまい、奴隷は勘弁してほしいと懇願しました」
攫い屋と闇奴隷商人はセットで考えられるからな。普通はそう思うのが当然だ。
「…ですが、奴らは違うと言って来たんです。俺達の仕事はここまでだって」
「ほう、それで?」
「後は依頼主がもう来るからと言って奴らはどこかへ行ってしまったんです。そのすぐ後に、彼女が入って来たんです」
「彼女とは?」
「名前は分りません。確か…冒険者ギルドの受付だったと思います」
ん!? 誰だ?
「その女が何と言って来たんですか? その女の特徴は?」
「…それが、何だかおかしいんです。確かに会ったのは女の人なんです。話しもしました。でもさっきから何か靄が取れた感じがしてすっきりしたのに話が思い出せないんです」
どういう事だと考えていると、シスが答えを話してくれる。
《マスター。恐らくテレジアに魅了され、何かを話す様に洗脳されたと思われます》
(マジか!? あちゃ~テレジアってもう死んでるじゃんか)
《逆に言えば、それで術が解けたんでしょう》
(成る程…しかし参ったぞ、これじゃ犯人見つけられねぇ)
「…あの、これで全部なんですが、お役に──」
「いやいやいや! ハンク殿! それではさっきと話が違います! 冒険者が依頼者だって言ってたじゃないですか?!」
衛兵隊長が慌てて、ハンクに言い募るがハンクは覚えていないと言い返すばかりだった。
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