表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサンの異世界妄想奮闘記  作者: トム
第3章 深謀短慮、豈図らんや。
91/266

第29話 肉の器



 ──薄れて行く意識の中で疑問符だけが浮かんでいく。


 コイツは誰だ? 一体なぜ刺された? 何回刺された?…あぁ痛い。


 立ち上がる事はもう出来ないし声も出ない。……テレジアは?


 温かいものが自分の身体から流れ出て行く感覚と同時に濡れる体。


 ぼんやりと思う。あぁ、俺の血か。


 ──…ここで死ぬのか…。


 抜けて行く血に熱を持っていかれているのか、自身がどんどん冷えて行く。既に指一本動かせないし目に光も入ってこない。…ただ鬱陶しい笑い声だけが聞こえてくる。あぁ五月蝿い…もう黙れよ! もうどこかに行ってくれ。


「ちょっと! マーカス! アンタどうしたのよ!…お前がやったのか?!」


 んあ? テレジアか?…もういい、もう良いんだ…。


 ははは…こんなスラムで人生終わりかよ。クソったれ…な人生…だったなぁ……。


「アハハハハ、このグリスナー様がやってやった! 高ランク冒険者も、大した事ねぇなぁ。見なよ、こんな錆びたナイフだぜ? …グウ! ゴバッ!」


 自慢げにナイフを見せたグリスナーが頽れる。


「ハッ、そのアンタが女のアタシに殺られる様じゃ、どうしようもないね」


 テレジアの隠し持っていたナイフで、グリスナーは喉を切り裂かれた。


 彼女はマーカスの傍にしゃがみ込み、話しかけるが返事はもう返ってこなかった。


「…クソっ、クソっ。一体何がどうなってるのさ!? グリスナーって事はゲールの使ってた掃除屋じゃないか?! は!? マーカス、アンタ擬態が」


 事切れた男はスキルが切れ、その体を戻していく。


「…そうだったね。アンタはもう爺さんだったんだ。忘れてたよ」



 ──真っ白になった髪と皺が顔中に刻まれた唯の年寄りが、血の海に横たわっていた。



「…お別れはお済みですか? テレジアさん」

「…はぁ~~。ここで、アンタの登場とはね、このクソ犬がぁぁあああ!」





********************************





 ”ピカッ!” ”ドゴォォォオオオンン!!”


 倉庫街の間の路地に強烈な閃光と共に、投げ込まれたそれが爆発した。


 男の持つ固有スキルは炸裂付与。物に対して術式を転写し、自身の魔力によって爆発物を作成する。込めた魔力の分だけ炸裂範囲は広がり、殺傷力も跳ね上がる。


「おっと、強力すぎたか?」


 にやけながら、爆風と舞う土埃を見ていると。


「な! 壁?!」

 眼前には少し傷ついた土壁が隆起していた。

 

 ”バチュン!”

「ぎゃぁぁあ!」 

 ”ズドン!”

「ぐがぁぁあ!」


 直後、突然聞こえる音と悲鳴に爆弾男は身構える。


「なんだ!? おい!どうした!?」

 聞こえた悲鳴は、分かれた奴だ。


「人の心配とは余裕ですね」


 いつの間にか土壁の上に人影が有った。男は咄嗟に横に飛びずさる。

 

 ”バズッ! ドスッ!”


「あら、反射神経は良いみたいね」

 男の避けたその場所に氷の槍が何本も突き刺さっていた。


「チィッ! ()()()()()()()()に魔術師かよ!」


 ボヤキながらも次から次へと、術式の入った物を投げつける。


 ”ドカン!” ”ドゴォォォォオン!” ”バガァァアン!”


「あら、私だけを狙ってていいの?」


 ”バシュン!”

 言われた瞬間、腕に激痛が走る。

「ぐわぁぁぁあ!? 何だぁ?!」


 見ると爆発物を掴んだその手が真っ黒に焼け焦げていた。


「…あ。」


 瞬間、爆発物が光を放つ。

 ”ドコォォォォオオン!”


「あら、自爆ですか。ご愁傷様」


「そっちも終わった様じゃな」

「はい、援護助かりました」




********************************




「あら貴女…テレジアさんじゃないですか? 何で貴女がこんな所に?」


 襲い掛かって来たナイフを躱し、半歩ずらして正眼の構えを取りながら話をする。同時に首から下げたアクセサリーを握りしめる。


「…煩い駄犬ね。まぁいいわ、話がしたいならしてあげる。何故ここに居るのかですって? それは…こういう事よ」


 そう言って渾身の魔力を瞳に込める。充血し顔全体が紅潮するほどに。


 ”バチィィィイ!”

「ぎゃぁぁああ!」


 昏倒させるほどの魔力を用いた魅了は難なく弾かれ、その反動が自身に跳ね返される。両の目に逆流した魔素が反応し、瞬時に角膜と網膜が焼け、集まっていた血が温度を上げ、鼻と耳から噴き出してしまう。



「グバァハァア!…ガハッ…グゥ…な、何を…したぁ……み、耳が、聴こえない?」


 血の逆流によって鼓膜も破れ、一瞬にして目は白濁化して爛れてしまった。


 こめかみがチリチリと針で刺されるように激痛となって押し寄せ、焦げた臭気で鼻も効かない。頭は朦朧とし、自分が立って居るのかも分からなかったが、犬女だけは、殺したかった。その思いだけでナイフを振り回す。


「クソ! くそぉ! どこだクソ犬! どうして魅了が効かない!? クソ! うがぁあ!」


 そうしてジタバタと暴れていたが、やがて動きは緩慢となり持ったナイフを取り落とし、そのままへたり込んでしまう。


「…くそぉ……キーン、駄目だったよぉ…しっぱいしちゃったぁ…パパぁ、わたし…」


 テレジアは消え入る声でそう言って、そのまま倒れ事切れた。 


「ふぅ、危なかったです。まさか、このアクセサリーに(ひび)が入るなんて」




********************************




(よし出来た。何とか一発作れた)


 ゲールが周りを見回す中、ステルスを使って外壁沿いの建物の影に移動して、創造を使った。一から創造したので時間はかかったが、それでも何とか二分程度で完成させた。すぐさま魔銃に装填し、シスに攪乱を頼む。


(よし! 自由に動いて攪乱してくれ、ビーム発射のタイミングだけはずらして)


《了解です、では3,2,1ゴー!》


 シスはステルス状態のまま浮遊移動で、俺の対面側へと飛んでいく。


「ム? 移動しましたか?! しかし、この結界をどうします?」

 ”バシュン!” ”バチィィィイ!”

「ハハハ。それは無駄だと言ったでしょう!」


(ナイス! タイミング!)

 ゲールは俺に背を向けた状態で大笑いしている。


(コイツで決まれ!)

 魔銃の撃鉄を起こし狙いを定め…引き金を引き、射撃!


 ()()()()という、発射音と共に亜音速で飛んでいく転移弾。魔銃に物理発射機構はない。なので発射時の空気音しかしないのだ。


 ”ビシャン!!” ”バズン!”

「何…だ!?…ガァア!!」


 弾は結界に触れた瞬間に転移が発動し、目標物手前で実体化するとその目標物を確実に捉えて破砕した。



 ゲールは一瞬何が起きたか分からなかった。何かが腰に当たったと思ったら、その場の空間ごと炸裂し無くなった。下半身が自分の前方に吹き飛び、その場に自分は倒れ込む。意識が遠のく程の激痛と、粉々に消えて行く結界。


 ──…それは、全て一瞬の出来事だった。


「グアァ…ガハッ…ゴフ…今…のは?」

「どう? ()()()を喰らった感想は?」

「…て、んい? だん…?」

「分かんないか…まぁ、いいけど。さて、一体お前はなん──」



『…もうこの体はダメだな。(にく)(うつわ)とはつくづく面倒で()()()だ』


《マスター! 次元結界を!》


『フム。…その()()()とやらも非常に()()()()()だな。…まぁ良いだろう、盤面も進んだことだ。今宵は此処までとしよう』


 ──…先程までのゲールとは全く違う、底冷えするような声が響く。


 ()()はまるで痛みを感じていない様に上体を起こして、言葉を吐き続ける。……直感で感じた。


「お前が…世界か?」

『……如何にも。我はその一端。』


 ソイツは俺を正視して、鷹揚に答える。


「俺が世界に対する異物ってどうゆう意味だ? それに何の盤面が進んだんだ?」


『フム。何も知らないのか。いや、()()()()()()()()のか、()()らも()()()のか…』


「まどろっこしい言い方をするな! 大体、命を狙われる意味が分かんないって言ってるだろうが!?」


『…無知蒙昧(むちもうまい)とは困りものだな…どうやら()()()()だ。精々抗え』



 ──…それだけを言うと、自らを世界と名乗ったソイツの瞳から光が消えた。







最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


ブックマークなどしていただければ喜びます!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


ランキングタグを設定しています。

良かったらポチって下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ