諜報活動と情報収集
スカトは食堂でのろのろと食事を食べ終えると「明日も見回りだ」と言って、そのまま部屋へと帰ってしまった。
寮母は「そろそろ食堂を閉めるよ?」と言うので、「もうちょっとだけ待ってください!」と言って、アレスはスピカにひらひらとカードフォルダーを振ってみせた。
「どうかしたの?」
「ん。スカトの力分けてもらった」
「分けてもらったって、コピー……? でもアレスとスカトだったら、どちらも力同じだし、意味がないんじゃ……」
どちらもアルカナ能力のカウンターを持っているが、そもそも持ち合わせている能力をコピーしたところで意味などない。
スピカが首を捻っていると、アレスは「違う違う」と言った。
「もうちょっとしたら食堂閉まるし、さっさと見ようぜ」
そう言ってカードフォルダーから彼のカードを見せてくれたが、どうにも様子が違う。
普段であったら【愚者】のアルカナの絵柄が見えるはずなのに、ここに写っているのは、どこかの一室の光景なのだ。
「あれ……これって……」
「これがスカトのアルカナの真価だよ。あいつの実家じゃアルカナの稀少価値ばっかり気にしてて、あいつがグレるくらいに文句ばっか言ってたみたいだけど。もっとも、まともな人間が持ってなかったら悪用しかしねえんじゃねえの。スカトも普段はアルカナ全く使わずに拳でしか対処してねえしな」
それは鮮明に一室の様子を写し出し、そこで大量の書類に、その書類作業に追われていたオシリスが顔を上げた。
そこでようやく、ここが入ったことのない生徒会執行部の執務室だということがわかった。
狭い部屋には、生徒会執行部のメンバー用の机に書類、本棚が雑然と並んでいる。
「でもこれ……どこに五貴人の住む区画に入る出入り口があるんだろう……どこからどう見ても、普通の執務室……だよね?」
入り口はスカトが入ったらしい場所にしかなく、他の出入り口が見当たらない。
アレスは唇を抑えて、カードを凝視する。
「……駄目だ。これだけだったらどうなってるのかわかんねえ」
「ルヴィリエと一緒に生徒会執行部に入ってるんだったら、そのままついていったら駄目なのかな」
「ん-……でもこれを見てる限りじゃ、いつもルヴィリエと一緒にいる訳じゃねえみたいだし、仕事が終わって解散になった際に見失ってるって感じかな」
「でもユダ先輩の言い方が本当だとしたら……五貴人の居住区はここからしか行く方法がないはずだよね? でなかったら、生徒会の人たちが情報開示請求も、生徒会長が【世界】と話しに行ったりすることもできないはずだし……」
「……だとしたら、会長を見張るしかねえってことか。スカトの奴、今のところアルカナがばれてないけど。もしばれたら……」
ふたりの脳裏に、昼間に会った瞳の光の消えたルヴィリエがよぎった。
心を砕かれ、操り人形のようになった彼女。そもそも彼女の壊された心は戻るのかどうかすら、今のふたりには検討も付かないが。
同時に出会った生徒会執行部の面々を思い浮かべる。
基本的に彼らは倫理に準じているだけで、善人なのだ。会長のオシリスは五貴人と生徒会執行部の兼ね合いで相当板挟みのようだが、それを差し引いても彼らは善良であった。
少なくとも、スカトは自分たちの中でもっとも、学園の規律から離れていない。
スピカは延々と考えていて、ふと気付いた。
「そういえばユダ先輩、あの人どうしてスカトの持っている能力わかったんだろ。スカト、私たちにしかアルカナを明かしてないよね?」
そもそもスカトに諜報活動を促したひとりが彼だった。以前にカウスになにやら言われていたが、そもそもスカトとカウスは旧知だから、互いのアルカナを知っていてもおかしくないが、天井でぶら下がった人間なんてインパクトが大き過ぎて忘れる訳がない。どうしてスカトの能力を割り出すことができたのか。
アレスは「ん-……」と唸る。
「あの人、アルカナとしては【吊るされた男】だよな?」
「うん」
「なんかユダ先輩、いろいろ助言くれたっぽいし、アルカナカードにも詳しいから、いろいろ話を聞けないかな」
「うーん……どうなんだろう」
アレスの提案に、スピカは腕を組んだ。
元々ユダがスピカと会話をしたり、なんだかんだ言って助けてくれるようになるまでに、ひと月かかっているのだ。
スピカひとりだったら多少は違うかもしれないが、アレスたち後輩全員に対して優しいとは思えない。
彼がグチグチと陰鬱な物言いばかりしているのを知っているからこそ、スピカは勝手に「陰鬱三銃士のひとり」とか呼んでいるのだ。
でも、スピカひとりで行くよりも、アレスと一緒に聞いたほうがまだマシなのはとも思う。
スピカはそもそも王都出身ではない上に、学園アルカナに入学するまで、ほぼ大アルカナに触れずに来たため、理解にまで時間がかかるが、まがりなりにも王都出身のアレスはその限りではない。
あとユダのアルカナの能力で、アレスが使えそうなものはコピーできないかなという計算も働いている。
「……スカトにだけ危険なことやらせているんだもんね。だとしたら、私たちもなんとか情報を集めないと。ユダ先輩を捕まえよう」
「だな」
こうして、スカトにルヴィリエが現在いる場所を特定するべく諜報活動をしてもらうことにして、今は五貴人のところに潜入する方法を考えるために、アルカナカードの情報を集めることに専念することにした。
まずはユダに話を聞きに行くと心に決めてから、ふたりはそれぞれ寮へと帰って行った。
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翌朝。寮で朝食を食べに食堂に行くが、相変わらず閑散としてしまっている。
どんどん人気がなくなっていくのをなんだかなと思いながら、スピカはアレスに「おはよう」と言って、ふたりでパンを食べはじめる。
「今日は占星術の授業は?」
「うーん、今日はお休み。だからユダ先輩の教室に向かおうと思うけど」
「うん、じゃあそれで行こうか。しかし、あの人天井にぶら下がってるから無茶苦茶目立つはずなのに、なんで俺もこの間まで知らなかったんだろ?」
「そういえば……ユダ先輩もゾーン持ちなのかな?」
「わかんねえ」
スープをすすり、寮母に「ごちそう様」と伝えてから二年生の階へと向かった。
教室ひとつひとつを回ってユダを探すが、出てくる先輩たちは皆、首を振る。
「普段どこにいるんだろうね? いないよ。授業には出てるみたいだけど」
「教室にはほとんど来ないよ」
「なんか一時期生徒会執行部や五貴人から勧誘を受けてたから、それがよっぽど嫌だったみたいで、あんまり教室に寄り付かなくなった。授業は受けてるから、授業受けてる教室にはいるけど、ホームルームはほぼ出てない」
散々過ぎる情報ばかり聞いて、ふたりとも顔を見合わせてしまった。
「どうなってんだよ……そんなに【世界】が嫌いか……」
「でもユダ先輩真面目なんだねえ、授業は出てるって」
「ホームルームに来ないのはどうなんだよ」
「多分だけれど、勧誘されるタイミングで勧誘者に会いたくなかったんじゃないかな」
「……そこまで気難しい人なの?」
「うん、どちらかというと」
気難しいし、神経質だし、陰鬱だし。
しかしこうも徹底していたのかとスピカは首を捻っていたが、そこで「やあ、フロイライン」と声をかけられた。
杖を携えて歩いているナブーであった。ふたりは挨拶する。
「おはようございます」
「おはようございまーす……すんません。ユダ先輩探してるんですけど、ご存じありませんか?」
「おや、珍しい。彼を訪ねてくる人なんてほとんどいないんだけどね」
「というか、ユダ先輩あれだけ目立つのに、ちっとも見つからないのなんでなんすか?」
「そうだねえ……彼も放っておいて欲しいと思うから、なるべく人と関わらないようにしているんじゃないかい?」
そのナブーの言葉に、少しだけスピカはピクンと眉を持ち上げた。
「スピカ?」
「……ううん、なんでもない。そろそろ授業はじまるから、また引き続き探しつつ、授業は行こう。ほら、アレスも授業あるでしょ?」
「おっ? おう……」
スピカはナブーに「ありがとうございました」と声をかけてから、アレスの背中を押して授業へ向かおうとする中。
ナブーはクククと笑って、杖を腕にかけてシルクハットを取ってお辞儀する。
「なら、わたしのほうから、君たちが探していると言っておいてあげようか」
「え……ナブー先輩、ユダ先輩のいる場所を知っているんですか?」
「いや、知らないよ」
「なんだ……」
「ただ、彼がどうしたら現れるのか知っているだけさ。さあ、ひとまずは授業に行っておいで」
そう言われ、スピカとアレスは首を捻りながらも、「よろしくお願いします」と言い残して授業へと出て行った。
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【隠者】
・アルカナカードによる攻撃を一定量受けた場合、それを倍返しにする。
・アルカナカードに見聞きした情報を貯蓄することができる。
・アルカナカードを一枚指定して、隠者のアルカナカードが貯蓄した情報を転写することができる。




