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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
世界革命編

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再会と心変わり

 革命組織の面々から五貴人の話を聞き、エルメスとレダに退学命令を出されているのを目撃してから、一週間経った。

 相変わらずアルカナ集めの襲撃には遭うし、そのたびにどうにか撃退しているが。その中でもどうにかして五貴人の元にいるはずのルヴィリエを探し出そうとするが、見つけることができなかった。

 ただ学園内を探し回っていてわかったことはあった。

 どうも五貴人の居住区というものは、生徒会執行部しか知らないということだった。レダと同じ学年の先輩たちに話を聞いてみたが、やはり「五貴人は寮を使ってないし、どこに住んでいるのか知らない」と一様に言うのだ。

 革命組織の面々はカウスのゾーンの中で寝泊まりしているのか、やはり寮を使っていないようだし、そもそも寮は寮母のゾーンの中に存在している。彼女のゾーンに敷いている戦闘できないというルールが、五貴人にも革命組織にもいろいろ困るらしい。


「生徒会執行部なあ……」

「でもあの人たちも早朝から執務室に登校しているみたいだから、朝から会ったことなんてないよ? イブ先輩はなにかにつけて普通に寮で会うし、挨拶もしてもらっているから、寮には住んでるみたいだけど」

「そもそもスピカはそう易々と生徒会執行部に接触したらまずいだろ……」

「うん……」


 ルヴィリエの奪還をしようにも、そもそも彼女はこの一週間、授業すら受けていないみたいなのだ。実際に合同授業で会わないのだから、余計に彼女の安否が気になる。

 スピカはシュン、としながらパンを千切って食べていると「考え事ですか?」と声をかけられる。

 声の主に顔を上げて……スピカ含めて、アレスとスカトも顔を引きつらせる。

 天井からプラーンと、ユダがぶら下がっていたのである。


「ユダ先輩……おはようございます……食堂で会うのは珍しいですね?」

「食事しないと死ぬじゃないですか」

「そうですね……」


 そもそも天井にずっとぶら下がっているのは体に悪くはないんだろうか。そう思ったものの、天井にぶら下がっている人にそれを言うのも野暮な気がして、きゅっと口を噤む。

 アレスは引きつった顔をしつつ「先日はスピカがお世話になりましたー」と挨拶をする。

 ユダはこくんと頷いてから、寮母に食事を頼むと、そのままパンを咀嚼しはじめる。


「まだお友達は見つからず?」

「あ、はい……五貴人のところにいるみたいなんですけれど、そもそも五貴人の居住区に行くことができなくって、そこで手詰まりです」

「そりゃそうでしょ。五貴人の居住区は、生徒会執行部の執務室からでなければ向かうことはできませんよ」

「え」


 スピカは思わずユダのほうに、ギギギギギと首を向ける。新入生三人かけて駆けずり回っても得られなかった情報を、そうあっさりと得られるとは思ってもいなかったのである。

 アレスは目を細めてユダに尋ねる。


「つうかなんでそんなことユダ先輩が知ってるんすか。俺ら、この一週間あっちこっちで聞き込みしまくったのに全然情報を得られなかったのに」

「僕、何度か【世界】に勧誘を受けていますから」

「勧誘?」

「やれ生徒会執行部に入れ、やれ五貴人に奉仕しろと。全部断り続けてますけど」


 陰気で愚痴っぽい先輩ではあるが、一緒に授業を受けていたら、彼のすごさはよくわかる。そもそも王都レベルの授業を受けたことのなく、基礎教養でひいこら言っているスピカにわかりやすく解説してくれることで、彼女の学力を王都の平民レベルには底上げしてくれたのだから、彼はおそらく優秀な人間なんだろうと想像することはできた。

 スカトはそれで難しい顔をする。


「……ということは、生徒会執行部に入れば、五貴人の情報を得ることは可能かと……?」

「さあ、それはどうでしょう。現生徒会長は、次期宰相ゆえに、【世界】とも話ができますが、他の生徒会執行部面々は、何度か五貴人に情報開示請求を行っていらっしゃいますが、全て突っぱねられていると聞き及んでいます。せいぜい五貴人居住区の入り口を見つけることが関の山ではないかと」

「…………」


 スカトはそこで押し黙った。

 それにスピカはおろおろとした顔で、スカトを見る。


「まさか……前にイブ先輩から受けてた勧誘、受ける気じゃないよね?」

「さあ……それは最終手段だ」


 スカトが力なく笑う中、ユダはパンを千切って口に放り込みつつ言う。


「あなたが行くのなら、この中で一番向いているのはあなただと思いますけどね」

「それどうして先輩はわかるんすか」


 アレスは未だに胡散臭く頭上で朝食を摂っている先輩を胡乱な目で見ていると、ユダは鼻で笑った。


「そりゃわかりますよ。そういうアルカナですし。僕、アルカナには詳しいですし」

「スピカ、お前んとこの先輩なんなの?」

「陰鬱三銃士のひとり」

「残りふたり誰よ?」

「シェラタン先輩とアル先輩」

「なるほど」


 どうにか食堂を明るくしようとするものの、食堂は暗いままだ。

 アルカナ集めによる偽装アルカナの退学通告が、この一週間で増加の一途を辿っていたからだ。


****


 次の授業への移動中、合同授業のおかげでなんとかスピカとアレス、スカトは合流して廊下を渡っている中。

 急に土壁に取り囲まれて閉じ込められてしまった。


「はあっ!? なんっじゃこりゃっ!」


 アレスは土壁を蹴り飛ばす。スカトもいつもの調子で土壁を殴るが、ただ手の甲を痛めて血を流すだけだった。


「……固いな」

「バーカバーカ、手が壊れるから足使え、足」

「悪いな」


 男子ふたりがかりでガンガンッと蹴っても、それらは崩れる気配がない。


「無駄だ、魔力使って補強しているからな。アルカナを使わないと壊すことなんてできねえよ」


 土壁の外からは、先輩たちのしたり声が聞こえてくる。そして土壁をぽんぽんと叩きながら言ってくる。


「新入生ども。お前ら革命組織とつるんでるだろ? さっさと助けを呼べよ。そしたら【戦車】と【死神】を確保できるし……」

「カウスさんたちがお前らにやられる訳ないだろ!?」

「はあん!? ならお前らこのまんまここでのたれ死ね!」


 スカトの言葉に、先輩たちは苛立った声を返してくる。

 スピカは困った顔でアレスを見る。


「これ、なんとかできる力をコピーとかしてないの?」

「あーあーあーあー……今考えてるとこ」


 アレスがこめかみを指でつつきながら考え込んでいると、横からスカトが言う。


「デネボラさんは怪力で多分これくらい壊せると思うけど、それをコピーできないのか?」

「あの人、【力】だよなあ……無理。見たことねえもんはコピーできないから、今度見てくる」

「だとしたら土使いか……君の知り合いに土使いいなかったか?」

「いたことにはいたけど、俺も逃げてる最中だったから、確認取れてないしなあ……」


 いくら【愚者】のコピー能力が強いからと言っても、見たことないものはコピーできない上に、アレス本人の魔力量でできることでなかったらコピーしても意味がない。

 スピカも考えてみるが、この強度では【恋人たち】の風で削り続けてもアレスの魔力が底を尽きるほうが早い。

【吊るされた男】の嵐ならば、この強度の土壁でも削り取れそうだが、アレスが見たことなければ意味がない。

【悪魔】の羽をコピーして土壁を乗り越えて逃げる……は考えたが、さすがに三人まとめて上から逃げるというのは非現実的だった。羽はコピーできてもふたり抱えるのはアレスの腕力だ。

 他の革命組織の面々のアルカナも思い出してみるが、いまいちこれに対応しきれるものが思いつかない。


(どうしよう……)


 詰んだ、という言葉が頭を過ぎったときだった。


「なっ、なんだっ、お前らっ!?」

「生徒会執行部です! あなた方、偽装アルカナ使用の現行犯につき、退学処分ですっ!」

「ぐえっ!」

「こらっ、閉じ込められている人たちを解放なさいっ!!」


 土壁の外からでは見えないが、どうもイブが先輩たち……案の定彼らは偽装アルカナの所有者だったらしい……をしょっ引いているらしい。

 しかしアルカナの能力が解除される気配がなく、スピカたちは土壁の中から動向を探ることしかできなかったが。


「早くアルカナ能力を解除してください」


 その声を聞いた途端、思わずスピカは土壁に耳をくっつけた。


「早くアルカナ能力を解除してください。これで三度目です。四度目はありません」

「なんなんだこいつは……」

「……三回勧告しました。これより処罰開始します」


 平坦な声ではある。いつもの彼女の明るい声ではない。だが。

 この声はずっと聞いていた声だ。


「ル、ヴィリエ……?」


 ふいに土壁が解除されたところで、スピカがぎょっとした顔で見ていた。

 ルヴィリエは右手に剣、左手に天秤を構えて、先輩たち相手に大立ち回りをしていたのだ。

 イブが巻物を使って先輩たちを捕縛している中、逃げようとする先輩たちを容赦なく蹴りつけ、剣の柄でガンガンと無表情に殴り続けるルヴィリエに、スピカは唖然としていた。

 巻物で先輩たちを縛り上げるイブは、さすがにルヴィリエに苦言を呈す。


「ちょっとぉー、ルヴィリエちゃんやり過ぎですよぉ。この人たちはきちんと退学処分にできればそれでいいんですから、そこまで殴る必要はありませんっ」

「……きちんと殴って言うことを聞かせないと、また逆らうかもしれませんから。この人たちは、私たちの言葉を三度無視しました。四度目はありません」

「そうですけどぉー……!」


 日頃猪突猛進で考えなしな言動が目立つイブすら制止を訴えても、それを頑なに無視して殴り続けるルヴィリエ。

 いつも彼女は明るい上に、正義感は強いほうだとは思っていた。だから。

 たとえ偽装アルカナを使った先輩たちだとしても、こんな鼻血を噴いてもなお殴り続けるような真似をするのは、ありえなかった。

 なによりも。彼女の印象的な意思の強い瞳は今、なんの光も宿していない。

 人形。生きる人形。そうとしか言いようがないのが、現状のルヴィリエであった。


「あの人たち……本当にルヴィリエになにをやったの」


 スピカがどんどん血の気が引く中、スカトは唇を噛んでルヴィリエを見つめていた。

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