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7話・「あれ?Sランク?Bランクくらいかと思ったが?(困惑)」

 リヴァスたちを気絶させた日の翌日、ギルスは冒険者ギルドを目指して歩いていた。


(一年ぶりに戻ってはみたものの…ギルドはこんなに落ちぶれていたのか。まったく。……………ギルマスが過労でぶっ壊れたか?)


 ギルスがそう思うしかないほどギルドはボロボロになり、経営難レベルになっていた。机はあちこちにヒビが入っており、周りにいる冒険者のレベルも半分以下にまで落ちている。ギルドの平均レベルは40だったとギルスは記憶している。今や、12程度しかない。軍隊レベルの魔物がいたとしても、冒険者たちを皆殺しにすることは不可能だと予測した。


(魔王の襲来とか、あり得ないと思っていたが、意外と関係ありそうだな。とにかく、受付に行くか。)


 ギルスはそのボロボロのギルドに入る。床は一歩歩く度に軋み、ギーギーと音を鳴らして少しずつ沈み込む。仕方なく浮遊魔法【フライ】で浮遊して受付まで行く。


「あのー、こんにちは。」

「あ、はい……。えっと、初めてお越しのお方ですか?」

「あー、いえ。実はリヴァスさん達に置いてけぼりにされてしまったギルスという冒険者です。」

「ギルス…………その方はすでに死んでいます。ゴブリンエンペラー依頼時、無謀にも一人でゴブリンの大群に突っ込み、そのまま死亡した後、リヴァスさんとメディルクさんが二人だけで討伐したという記録が残っております。証拠の人骨がこれです。」


 するとそこには…。ゴブリンの骨があった。自分の骨くらい、何度も自分で見た。その度に教会に行き治療を行い、教会の教えを学びながら魔物を倒していた。当然、食料は自腹となってしまうために魔物を喰らうしかなかったというのが飢えをしのぐために必要なことだったのだが。

 話が外れた。そもそも、魔法でゴブリンを加工した場合、約半年で魔法は効果を消してしまう。その結果、ギルスの血が付いたゴブリンの骨となっているのだ。


「それのどこが僕の骨ですか?」

「え?いやでも確かに…。」

「ゴブリンの骨と僕の骨くらい、見分けがつくでしょう?どうせなら今から確かめてあげますよ。」


 そういってギルスは痛覚遮断の魔法を使うと、その左腕を自身の鎌で切り落とした。すぐさま回復魔法の【ホーリー】を使う。【ヒール】では足りない。腕の蘇生は魔力のみで行う。少し動かしづらいが、無いよりはマシだと判断する。


(証明のためにわざわざ寿命を削らなくてもいい。まあ、腕の分の細胞はあのカエルから作るか。)


 あのカエル…………ポイズントードである。強力な毒を体表に持つBランクの魔物で、その血液は全ての生物の細胞へと変化できるという万能細胞を持つのだ。ちなみに、治癒で寿命を削るというのは細胞分裂を強制的に行い、体を修復するために体力を使ってしまう所為だと言われている。


「キャアアアアア!?ちょっと!何やってるんです!?」

「この腕を使えば、僕の骨かどうかを知ることができるはずです。出来れば、失効してしまったカードを戻したいのですが。」

「は、はい!…………少々お待ちください。…………【鑑定】」


 受付の目に青い光を放つ環のようなものが出現し、ギルスの骨とゴブリンの骨をそれぞれ鑑定する。


「大変失礼しました。……良かった、生きててくれて。」

「こちらこそ、1年間も顔を出さずにごめんなさい。故郷へ帰っていた時期がありましたので。えっと、これが失効したカードです。」

「お預かりします。…………あの、ちょっと討伐履歴がおかしなことになっているのですが。『グレーターデーモン』192体って?」

「はい、少しその魔物に恨みがございまして…。見つけ次第討伐していたらこうなっていました。ハハハ…。」


 受付は少し疲れた顔をしてカードをギルスに渡した。


「どうぞ、これが新しいカードです。以前とルールは変わらないので、説明は省かせていただきますが、よろしいですか?」

「はい、ありがとうございます。…それと、1年前と比べると随分と変わりましたね。ここは。」

「え、ええ…。」


 受付は歯切れの悪い言い方をした。不思議に思ったギルスが聞いてみると、どうやら魔王が軍を率いてこの街を襲ったらしい。生存者は少なく、復興も進まないという。


(1年の間に魔王が軍を作れるようになっていて、その一角が冒険者ギルドを襲ったらしい。その結果、と『死の森』は危険地帯として恐れられるようになってしまった…か。これでは、墓参りにすらいけないな。ミラに会いたくてずっと方法を探しているのに、こんなのは酷い。僕は、自由に過ごしたいという願いが聞き届けてもらえないってことか。残念だ。いや、それは今はどうでもいい。魔王がここに攻めてきた?手練れの冒険者はここには常にいるはずだ。それがいない?少なくとも、ここを放棄したという可能性は低いはずだしな。そんなことをしたら、悪評が広まって他の街ですら働けなくなるはずだ。)


「えっと、大丈夫ですか?」

「えっ?あ、はい。少しだけ気になったことがありまして。」

「そうですか。あ、そう言えばギルドマスターがギルスさんが来たら呼んでくれと言っていました。どうやら何か用件があるようです。」

「分かりました。」



 1年ぶりにギルドマスターの部屋の前に来た。重く暗く、ドス黒いオーラが扉から出てきている。ついでに血の臭いとそれを誤魔化しているような紅茶の匂い。魅惑的で魅了的なその匂いはギルスを不快な気持ちにさせる。


(紅茶飲まないだろギルマス…。ついでに闇魔法があるな…。禁術の【洗脳】だ。あの個体(グレーターデーモン)が使ってたな。生憎、僕の方がレベルが高いから全く効かんがな。ついでに対抗魔道具を作ってあるから何があっても効かねぇよ。)


「入るぞ…。それっ!」


 ドスッ!


 ギルスは扉を蹴飛ばして部屋に入る。


「ギャ!」

「うわっ!」


 ギルドマスターのヴェードリッヒの声と女の高い声が聞こえた。ついでに【洗脳】、【魅了】を感知して非常に不愉快な感覚を引き起こし、ギルスは顔をしかめた。

 扉を蹴り飛ばしてすぐにわかったのはギルマスと豊満な胸をぶら下げていて無駄に露出度が高い、あちこちがビリビリに破れている服を着た女がいた。矢印のような尻尾が生えていたことから、獣人種、または魔族と判断し、すぐさま【鑑定】を行った。


「誰よ!私がこれから楽しもうとしていたのに!」

「だ、誰かだずげで…!」

「全く、僕が離れていた時にどれだけ被害を受けていたんだよ、ギルマス、あんたもそこそこ強いならそんな闇魔法に抵抗しておけよ。危うく洗脳されかけていたじゃねぇか。…………で、サキュバス、個体名:ミレナ・ヴァーデリア、LVは121か…。何だ、この程度の魔物が入り込んでいたとはな。人間側の重要人物の機能不全を狙っていたんだろうが、残念だったな。さっさと消えてもらおうか…………目障りだ。」


 サキュバスが入り込んでいたことを知ったギルスは鎌を構え、フードをかぶり直して戦闘態勢に入った。


「誰がただのサキュバスよ!私は、魔王ヴァーディティア軍四天王が一人、ミレナ・ヴァーデリアよ!LV121もあったら絶望するでしょ!?なんで動揺してないのよ!」

「生憎、グレーターデーモンLV285を単騎討伐したんでね。正直大したことないように思えてな。しかも、そんな貧弱ステータスじゃ1ダメージもこっちに入らねぇよ。」

「ク、キィィィィィィィィ!言ったわねぇ!覚悟しな………。」

「…………【虚空より現れし異空間(バニシング)】。…………えっ?もう終わり?雑魚じゃね?あ、レベル上がった。やっぱり四天王は経験値が美味しいな…(小並感)。」


 ギルスは自前の空間魔法のみで消滅させた。何か言っている間に消してしまった事でギルスはどこか腑に落ちなかった。最後に少しくらい、話をさせてやるべきだったか?いや、こいつはやつらの仲間だ。殺して当然だ。しかし、ギルスはこう思っていた。


(あれ…?せめて魔法無効結界くらい張っておこうよ…。おかげであいつから情報を引き出せなかったじゃねぇかよ。)


 以前、魔法を無効化する結界を張っていたグレーターデーモンが居たため、それを警戒して魔法の後に追撃しようとしていたのだが、する前に死んでいたためやる気が失せていた。


「た、助かった…。ってギルス!生きてたか!」

「一応、あの裏切り者には罰を与えたが、まあ生きてるよ。今頃地位を取り戻そうとして足掻いているだろうさ。」

「そうか…。それにしても、まさか四天王を一撃か…。レベル上がり過ぎだろ…。『死の森』周回していたのはどうやらお前らしいな。」

「それも、ご自慢の情報網か。僕も知らないことばっかりだ。まあ、それはいいんだ。とりあえず、ここを復興させてからまた、狩りに行くつもりだ。それに、いい加減Cランクに上げてくれ。あの野郎に報酬横取りされた上にほぼ無一文にされた。Cランクにしてすぐにそれで固定させてくれ。グレーターデーモンを、狩りに行きたいんだ。」

「ああ、やっぱり恨みは消えてないよな………。分かった。これから手配する。何とかなるようにしておく。」

「あと、あの自称四天王、ランクで言ったら何なんだ?」

「Sだ。」

「え?」

「Sランク認定されている。」


 ギルスはその言葉を聞いて固まった。


「あれ?Sランク?Bランクくらいかと思ったが?(困惑)」

「はぁ、こりゃお前、社会復帰難しそうだな………。」


(社会復帰て、僕はそんな引きこもりやろうじゃない、むしろ働き者だろうが!いや、単なる趣味だから結局ニート?いや、ちゃんと冒険者はしている。大丈夫なはずだ。………多分。)


 ギルスは拠点としている店の中で頭を抱えることになるのだった。


(それにしても………勇者がここに来るのか…。まあ、僕をスカウトする気はないだろうし、とりあえずいつも通り狩りに専念しよう。)


 この出会いが、自らの運命を変えるものだとギルスが気付くには、そこまで時間がかからなかった。

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