見つけました
現れた女の人が、そのまま叫びながら、ユウリちゃんに向かって手を伸ばしてくる。ボクは、何かあるといけないと思い、ユウリちゃんを背に庇って、一歩退く。
「そのエンブレムは、キャロットファミリーの方ですね!?」
今度は、ボクに向かって手を伸ばしてきた女の人。攻撃をされるんじゃないかと警戒したけど、違った。ボクが首から提げている、キャロットファミリーのエンブレムを指差して、歓喜の表情を見せる。
もしかしたらと思い、ボクは彼女のステータス画面を開いてみる。
名前:レンファエル・E・ヘンケル
Lv :26
職業:学生
種族:人間
レンファエル……ヘンケル……あ、この人、行方不明の人だ。こんな所にいたんじゃ、いくら地上を探しても見つかりっこないです。
それにしても、格好が凄くて目のやり場に困る。彼女は、ボロ切れに身を包んでいて、隠すべき所があまり隠せていない、まるで不潔な奴隷服のような格好だ。彼女自身はキレイで、胸も大きくて大人の女性のような風貌だから、それがまた目のやり場に困る。
貴族のご令嬢なだけあって、肌は白くてキレイだし、ボロボロの姿ながら、どこか気品を感じさせる。ショートカットの金髪は、今は汚れてるけど、多分洗ったら凄くキレイになるんじゃないかなと思います。
「そうですけど、貴女は?こんな所で、一体何を」
ボクの背中から、顔だけ出して、ユウリちゃんが尋ねた。
「……失礼。少々、取り乱しました。私の名前は、レンファエル・E・ヘンケル。貴族、ブラッド・E・ヘンケルの娘です」
「お、お姉さま!」
「う、うん。この人、だね」
ボク達は、偶然にも、探し人を見つけてしまった。
その事に興奮したユウリちゃんは、ボクの背中から飛び出して、レンファエルさんの手を握る。
「私たちは、貴女を探してここに来たんです!一緒に帰りましょう!」
「……はい」
ユウリちゃんの言葉に、レンファエルさんは、その瞳から、大きな涙を流して、足を崩して座り込んでしまった。
多分、凄く苦労して生き延びてきたのだと思う。こんな、ぎゅーちゃんのような高レベルモンスターの出る場所で、だ。
そんなレンファエルさんを、ユウリちゃんはそっと、抱きしめる。さすがに、こういう時にふざけたりしないユウリちゃん。……ふざけないよね?もし、セクハラしようものなら、キツイのが飛ぶから覚悟しておいてほしい。
そんな時、洞窟の奥から、何かが走ってくる音が聞こえて来た。それは、1つや2つではない。凄く、多い。状況的に考えると、たぶん、オークかな。先程のボク達の叫び声を、聞きつけたのかもしれない。
「はっ!早く、幻惑の魔法を復旧させないと!」
それまで泣いていたレンファエルさんが、ユウリちゃんを振り切って、慌ててボクが壊した壁の下にあった、魔法陣に飛びついた。レンファエルさんが、その魔法陣に向かって手をかざすと、それが青い光を帯び始めて、少しずつ、今までなかった岩の壁が出現していく。
「凄い。コレが、魔法……」
感嘆の声を漏らすユウリちゃんだけど、このままじゃ、とてもじゃないけど間に合わない。足音は、すぐそこまで来ているよ。
「……ユウリちゃん、少し、奥にいて」
「はい」
「レンファエルさんも、奥にいてください」
「ですが……!結界を作らなければ、ヤツらはここに入ってきます!」
「大丈夫。ボクが、全部やっつけます」
「無理です!ここは、ヤツらの巣の中です!この場所が見つかれば、ヤツらは大挙して押し寄せます!そうなったら、もう……!」
尚も、結界を張ろうとするレンファエルさんだけど、もう目の前に、オークがいます。
「ニンゲン、ミツケタ」
「っ……!?」
オークの手が、油断していたレンファエルさんに向かって、伸びる。
ボクは、レンファエルさんを庇うように立つと、そのオークの懐に飛び込み、だらしなく膨れた腹に、回し蹴りを繰り出した。その衝撃で、蹴りの当たった場所だけではなく、全身が壊滅的なダメージを受けたはず。そして、ボクの蹴りの勢いそのままに吹き飛んで行き、壁にめり込んだ状態になり、ようやく止まった。
その蹴りを繰り出した際に、ボクが被っていたフードがはだけて、顔が露になってしまう。
「貴女は……!」
そんなボクの顔を見て、レンファエルさんが驚愕の表情を浮かべた。
え、何?ボクの顔に、何かついてる?ボクは、慌てて自分の顔を触りながら、フードを被りなおした。でも、特に何もついていないみたい。
「フゴ……ニンゲン、オーク、コロシタ」
「メスハ、スグニ、コロサナイ。デモ、オマエ、コロス」
オークが、わらわらと集まってきた。その目には、ボクが仲間を殺したことにより、憎悪が宿っている。やらしい目つきで見られるより、こちらの方が、数倍落ち着くよ。
「「オオオオオォォォ!」」
オークが一斉に叫んで、ボクに襲い掛かってきた。その叫び声は、洞窟を揺らすほどの声量で、洞窟が崩れてしまうんじゃないかと、心配になってしまう。あと、五月蝿い。
だから早く、叫ぶのをやめてもらおう。
ボクはとりあえず、最初に飛び掛ってきたオークの顔面に向かってジャンプして、膝蹴り。顎にヒットして、そのまま胴体から首が外れて、天井へと突き刺さった。案外、首が弱いのかな。太くて頑丈そうなのに、脆かった。
ボクは、倒れていく首なしオークの身体を蹴って、くるりと一回転してから、少し下がった所に着地。
「ブオオオォォ!」
「ブヒイィィィ!」
着地直後の隙を狙ったのか、ボクを左右から挟んで、2体のオークが、その巨大な拳を振り下ろしてきた。ボクはその拳を、両手の人差し指でそれぞれ受け止めると、オークが戸惑いの表情を見せて、ボクから2,3歩下がり、距離を置いてくる。
そんな距離を置いたオークの1匹の懐に入り込んだボクは、腹に向かって拳を突き出した。その衝撃で飛んでいくオークが、何匹かのオークを道連れにして、壁にぶつかって止まる。まるで、ボウリングのようだ。面白いので、反対側のオークにも同じように拳を突き出して、吹き飛ばす。こっちは、見事にストライク。全部倒すのに成功したぞ。
「フゴオオォォ!」
ボクが背を見せたのを、好機だと思ったのかな。背後から、オークが1体、両手を組んだ状態で、ハンマーのように、ボクに向かって振り下ろしてきた。
どうでもいいけど、襲ってくるとき、どうしていちいち叫ぶんだろう。これじゃあ、これから襲いますよと、言っているようなものだ。その辺はやっぱり、知能が低いのかな。
ボクは、背後を見もせずに、横に飛んで回避。それから、そのオークの顔に目掛けて飛んで、空中回転蹴りを繰り出す。すると、顔は跡形もなく吹き飛んで、巨体はそのまま、地面に倒れて動かなくなった。
「ニ、ニンゲン、バケモノ……」
そこまでくると、威勢よく叫び声を上げるオークはもういない。1匹のオークが気弱そうにそう呟くと、恐怖は伝染していき、まだまだ数がいる事も忘れて、怯えだした。
「臭いから、死体を持って、全員どっかに行ってくれる?」
「ブ、ブヒ……!」
全部を相手にするのも面倒なので、ボクはそう言った。頼みを聞いてくれないなら、殺せばいいし、きいてくれるなら、別に殲滅する必要もない。ただの、雑魚だしね。さて、オーク達はどちらを選ぶかな。
少しすると、1匹のオークが動き、仲間の死体を引き摺って、洞窟の奥へと歩き出した。それに触発されて、他のオーク達も、残りの死体を担ぎ、歩き去っていく。
どうやら、ボクには適わないと判断して、いう事を聞いてくれたみたい。頭が良いんだか、悪いんだか、よく分かりません。




