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第九話 子鬼姫ゴブリンプリンセス2

 ゴブリンに運んで連れてこられたのは、土でできた牢だった。

 テディと同じ部屋にぶち込まれ、ガシャンと錠が締められる。


「シュウさん……これ」


 テディは部屋の隅にある、人のものっぽい頭蓋骨を指差す。

 前に捕まっていた人間だろうか。


 壁を見れば、石で付けたらしいバツ印があった。

 少し横の壁を掘ろうとした後もあるが、かなり浅いところで作業は止まっている。


「……土魔法で、土を硬化していますね。歳をとったゴブリンは土魔法を使えると聞いたことがあります」


「あれだな、これ、駄目な奴だな」


 あまり深刻にこれからのことを考えたくない節もあって、俺はわざとあっさりと言った。

 ただ、言った後に涙が出てきた。


「げ、元気を出してくださいシュウさんっ! 絶対何か、出る方法はあります!」


「……テディ、そっちの部屋の端見てみ?」


「なにか、入れ物がありますね。これはなんでしょうか?」


「トイレだろ」


 テディも泣きだした。


 そりゃそうだろう、女の子の方が絶対ショックはデカイ。

 六畳スペースにオープン共同トイレのコンボはえぐい。泣いてしまう。


「元気出せって、何か方法はあるはずだ」


「ありませんよそんなものぉっ! あったらとっとと出てます! もうここで死ぬしかないんです! きっと兄さんも母さんも馬鹿が家から消えてせいせいするって言ってる頃なんですぅーっ!」


 泣き喚きだした。

 最初に元気を出せと言ったのはテディだったはずだが……と、俺は心中でツッコミを入れる。



 しかし……どうすればここから出られるだろうか。

 スキルを確認し直すが、脱出に使えそうなものはない。

 ゴブリン達が眠っている間を狙い、力技で牢を壊す他ない。



「人間さぁん、食事を持ってきてあげたわよぉ?」


 ゴブリンプリンセスが牢の前に現れた。

 付き人ならぬ付きゴブリンが二人彼女の横に立っている。

 紫色のけったいな肉を鉄格子の間からこちらに投げ入れる。


「まさか……これが食事かよ」


 洞穴の空気のせいではなく、劣悪な食生活のせいで前冒険者は死んでしまったのではなかろうか。


「嫌なら食べなくてもいいのよ、ワタクシの可愛い可愛いペットさん」


 ゴブリンプリンセスが長い舌を伸ばすと、彼女の八重歯が覗き見えた。


 ふと、鑑定は魔物にも使えるのだろうかと疑問に思った。

 ゴブリンプリンセスは希少種だと聞いたし、変わった習性を持っているかもしれない。

 彼女のことを知れば、ここを抜け出すヒントにもなるはずだ。


「鑑定」


 小声で言い、俺はゴブリンプリンセスを睨む。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

種族   :ミミクリースライム

LV   :18

HP   :72

MP   :54

攻撃   :23

防御   :14

魔力   :38

素早さ  :32



特殊スキル:

『擬態:Lv5』

『変形:LvMAX』

『魔物言語:Lv7』

『アルデンダ言語:Lv4』


通常スキル:

『ものまね:Lv3』

『やまびこ:Lv2』

『チャーム:Lv1』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 何か、見間違えたのかと思った。

 もしくは鑑定のスキルがいかれているのかと思った。


 ただ特殊スキルをゆっくり確認していると、なんとなくわかってきた。

 こいつは、ゴブリンじゃない。

 美形のゴブリンに化け、ゴブリンをこき使っているだけだ。


 だったら話は早い。

 煽てて油断させ、正体を暴いてやれば統制は破綻する。その隙に逃げ出せばいい。


「……お前、綺麗だな」


 思わず口に出してしまった体裁を装うため、口を塞ぐ演技もする。


「あらぁ、さすが、ワタクシの魅力がわかるかしらぁ?」


 偽ゴブリン姫はさっと自らの手で髪を梳かす。

 ふわりと、オレンジ色の髪が宙に舞う。


 いけるぞ。こいつ、結構チョロそうだ。

 この調子なら、強引に話を進めてもなんとでもなりそうだ。


「シュウさん、何言ってるんですか! 確かに顔立ちは多少整ってますけど、こいつ皮膚緑ですよ緑! ちょっと太ったゴブリンで、ちょっと痩せたトロルですよ! こいつと比べたら私の飼ってた犬のがまだ綺麗です! 月に一度は水浴びさせてましたから!」


 テディから一気に横槍をぶっ刺された。

 頼むからちょっとは俺の思惑を読んでくれよ! なんでそこまで逆撫でするんだよ!


 一気に偽ゴブリン姫が不機嫌そうな顔になる。


 しかし、ここで退くわけにはいかない。

 信頼を得るためにはもっと日数を掛けるべきなのだろうが、この相部屋牢は色々キツい。

 一気に勝負を掛けるべきだ。


 殺すわけでもなく監禁するのは、こいつが人間を愛玩動物として見ている証拠だ。

 媚びれば媚びるほどいい気になる。

 犬が尻尾振って寄って来たのを邪推する人間はいない。


「なぁ……手、握ってくれないか?」


 すっと俺は鉄格子の合間から手を伸ばす。


「フフフ、オスは従順ねぇ。いいわぁ、ワタクシが死ぬまで可愛がってあげるわぁ」


「ちょっと、シュウさん! どうしちゃったんですか! ねぇ!」


 テディが叫ぶ声を無視し、俺は鉄格子越しに偽ゴブリン姫を抱き締める。


「あらあらぁ、激しいわねぇ。これだけ素直だったら、貴方だけ牢から出してあげようかしらぁ?」


 ここだ! 今が最大のチャンスだ。

 手下ゴブリンの前で化けの皮を剥がしてやる!


「スキルドレインッ!」


 俺が触れている偽ゴブリン姫の両肩から、黒い煙が登る。


「な! ああ、貴方ッ! 放しなさぁい!」


 手下のゴブリンが慌てて俺を引き剥がそうとする。

 棍棒を投げ捨て、俺の指にきったない爪を喰い込ませて来る。


 必死に喰らいついていると、偽ゴブリン姫の肩ごと俺の指に噛みついてきた。


 それでも俺は堪える。これを逃せば、次はない。

 殺される。


 指から先は俺の身体じゃない、機械か何かなんだと必死に言い聞かせる。



〖スキルドレインに成功しました。好きなスキルを選択してください。〗


 頭の中に声が響く!

 来た!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ミミクリースライム:Lv18】


特殊スキル:

『擬態:Lv5』

『変形:LvMAX』

『魔物言語:Lv7』

『アルデンダ言語:Lv4』


通常スキル:

『ものまね:Lv3』

『やまびこ:Lv2』

『チャーム:Lv1』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 本音をいうと、あまり特殊スキルを奪いたくはない。

 ゴブリンのときのように、こっちの人格を冒してくるようなものがありそうだ。


 しかし、今は我が儘を吐く余裕はない。

 ものまね? やまびこ? チャーム?

 よくはわからんが、こんなもん奪ったって意味はない。


〖擬態のスキルを奪いました。〗


 それが聞こえた瞬間、俺は手を放して後ろに倒れる。

 テディが俺の背を支えてくれたお蔭で、頭を打ちつけずに済んだ。


「ガァァァアッ! ワ、ワタクシに何をしたのよぉぉおっ!」


 偽ゴブリン姫が顔を押さえながらその場にしゃがみ込む。


 彼女を気遣うよう、二体のゴブリンが左右から肩に手を置く。

 それからギッと俺の顔を睨む。


「へ……へへ、おいゴブリン、睨む相手を間違えてねぇか?」


 すっと俺は偽ゴブリン姫を指差す。

 俺の指の延長線上へとゴブリンの視線が移動する。


 偽ゴブリン姫の身体から、どんどん緑の色素が抜け落ちていく。


「こっこれは……! 貴方、やってくれたわねぇっ!」


 偽ゴブリン姫の身体も髪も、青い透き通った色にへと変わっていた。

 いや、これが元の姿なのだろう。


「聞けっゴブリン! そいつは、ただのスライムだ! お前らに身体の色を似せてこき使ってたんだよ! バーカッ! 間抜け!」


 ゴブリンにも一応、アルデンダ言語能力は低いがあったはずだ。

 俺はなるべくシンプルな言葉を選び、ゴブリンを煽る。


「ゲバッゲバゲバッ!」「ギャベケハゲハッ!」


 ゴブリン二体が偽ゴブリン姫……いや、スライムへと詰め寄る。


「あ……あ、あ……ちが、これは違うくて……」


 ゴブリンが落とした棍棒を拾い、スライムへと殴りかかる。

 モロに肩で受け止める。

 棍棒を受けた部分が抉れ、辺りに散らばった。


 それでもゴブリンの怒りは収まらない。

 今まで醜悪だ醜悪だと貶されながらも、自分達の同族だと信じて従って来たのだから。


 もう一体のゴブリンも棍棒を拾い直す。


「グァハーッ!」


「イヤ……イヤァァァァアッ!」


 叫びながらスライムが鉄格子にへと飛び込んできた。

 スライムの身体が鉄格子を擦り抜けて牢へと入り込んでくる。取り残された王冠と服が、牢の前に残される。


「ゲヴァッ! ケハッ!」「ケハッケハッ!」


 ゴブリン二体は王冠と服を踏み潰し、牢の前に立って棍棒を振るい、ガンガンと鉄格子を打ち鳴らす。


「どうしてくれるのよ貴方ァッ! ワタクシの築き上げた地下子鬼帝国が台無しじゃないのよぉっ!」


 スライムは半泣きで俺の両肩を掴み、ゆっさゆっさと身体を揺らしてくる。


「返しなさいよぉっ! ワタクシの擬態のスキルを奪ったんでしょぉぉおっ! 返せぇっ! 返してぇぇっ!」


「自業自得だろうが! ギャーギャー騒ぐなやかましいッ! 奪えるけど返し方は知らねぇよ! ザマア見やがれっ!」


 俺の言葉を聞き、スライムが頭を抱えながらよろめく。

 そのまましゃがみ込み、牢の隅で嗚咽を漏らし始めた。


 余裕ぶっていた頃の片鱗は今やない。

 はっ! 閉じ込められる側の気持ちを思い知ったが馬鹿アメーバーが!


「……シュウさん」


「ん? どうしたテディ?」


「その……楽しそうなところ悪いのですが、状況悪化してませんかこれ?」


 言われて、俺はふと牢の向こう側へと目を向ける。

 ゾロゾロと、牢の前にゴブリンが増えていく。


 おいおいこれ、結局牢から出られないどころか、牢の扉が開いたらゴブリンに叩き殺されるんじゃね?

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