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第八話 子鬼姫ゴブリンプリンセス1

「シュウさん……何か、嫌な気配を感じます」


 闇の洞穴地下二階を探索中、急にテディがそんなこを言い出した。

 こちとら、洞穴に一歩足を踏み入れてから身体中に嫌な気配をビンビンに感じている。


 何を今更と思ったが、テディは本気のようだった。

 どうやら彼女は、意識を向ければ魔物の魔力を感知することができるらしい。


「質というより……量です。この先に、大量の魔物がいそうです」


「量? そんなに群れる魔物がいるのか?」


「多少なりとも知性のある魔物で、強大な指示者がいればあり得ない話ではありません」


 とはいっても、後ろには引き返せない。

 いつトロルが来るともしれないのだ。


「あの先にちょっとした広間があって……そこに20体近い魔物が並んでいます恐らくゴブリンでしょうが、恐ろしく統制が取れています。さっき逃げた二体のゴブリンの報告を受けて、私達のことも知っているはずです」


「……トロルとどっちがマシだと思う?」


「それは……ちょっと判断できません」


 わからないのなら、先に進むしかない。

 トロルと敵対して勝てるヴィジョンが見えないのだから、未知の相手に挑んだ方がいい。


 それに、俺のスキルドレインを見てゴブリンは脅えていた。

 なまじ頭の回る相手だからこそ、ハッタリを効かせれば押し通せるかもしれない。


 洞穴は行き止まりになっていて、何かの骨を加工して作ったようなボロっちい扉が壁にあった。

 恐らく、この先にいるのだろう。


「これ……魔物が作った扉なんでしょうか?」


 テディが怖々と扉に手を触れる。


「予想以上に、知能が高そうです。作ったのはともかく、これを作るように指示をしたのはかなり上級の魔物でしょう」


「どいてろ、俺が開ける」


 震える手を押さえながら、なんとか扉を開けた。

 空洞が広がっており、ずらりと20体近いゴブリンが並んでいた。

 テディの予想通りだ。

 壁の八方には扉がついており、ちょっとした屋敷のようだった。


 そしてゴブリン達の奥に骨で作られた椅子があり、緑の皮膚を持った女の人がそこに座っていた。

 頭には王冠を被っており、汚れてはいるが服も着ている。


 身長は低いがゴブリンと違って痩せておらず、顔も整っており骨張っていない。

 それに肌も滑らかで妙に綺麗だ。

 頭も禿げあがっておらず、オレンジの気品ある長い髪をしている。


「な、なんだよアイツ! ゴブリンか? それとも人間なのか?」


「あれはゴブリンの突然変異種といわれている、ゴブリンプリンセスです! ただの噂話だと思っていましたが、まさか本当にいたなんて……。通常のゴブリンとは比にならない知性と魔力を有していると聞いたことがあります!」


 ゴブリンプリンセスの傍には、皿を持ったポーズのまま置物のように固まっているゴブリンがいる。

 皿も真っ白だ。何かの骨から作られているのだろう。


 皿の上には切り分けられた魚が並べられており、ゴブンリンプリンセスはそれを素手で掴んで喰らう。

 彼女は満足気に笑っていたが、皿持ちのゴブリンがわずかに手を震えさせると、一気に不機嫌そうな顔へと変貌した。


 ゴブリンプリンセスは、皿持ちのゴブリンを蹴飛ばした。

 ゴブリンは床に倒れ込み、割れた皿の破片が目に入って泣きながらバタバタと暴れる。


 ゴブリンプリンセスが皿持ちを指差して他のゴブリンを睨むと、ゴブリン達が五人ほど前に出てきて、皿持ちをリンチし始めた。 


「む、惨い……」


「さて、待たせたわねぇ、人間さん」


 ゴブリンプリンセスが俺を見る。

 一瞬、誰が喋ったのかわからなかった。


「お前、喋れるのか」


「フフフ……ワタクシを、誰だと思っているのかしらぁ。ただのゴブリンと一緒にしないで欲しいわねぇ」


 ぞわりと悪寒が走る。


「そう警戒しなくてもいいわぁ。見ての通り、ワタクシの同胞は醜い者ばかりなのよ。だから、人間さんは手厚く歓迎するわよぉ?」


 ゴブリンプリンセスはじゅるりと舌舐めずりをし、零れた涎を手で拭う。


「ただ、死ぬまで返さないけどぉ。逃げ出さないよう、一生牢に入れさせてもらうわぁ。とはいっても、洞穴内の空気は人間には毒みたいだからぁ、数年で死んじゃうだろうけどぉ……」


 剣呑に目を細め、意地の悪い笑みを浮かべる。

 そして綺麗な指先を俺へと向ける。


「いい、殺すんじゃないわよぉ? アナタ達はやりすぎるんだから」


 20体のゴブリンが俺へと近づいてくる。


「スキルドレインッ!」


 俺が叫びながら手を突きだすと、俺の腕から黒い煙が漏れ始める。


「さっき見た奴もいるだろ? 俺に近寄ったら、正気を失うぜ!」


 警戒してか、間合いを保ったところでゴブリンの動きが止まる。

 一定時間相手に触れなければ効果はなさそうだが、見かけの邪悪さもあって牽制には使えそうだ。


「何をしているの! とっとと囲んで! ひっとらえなさぁい!」


 だがゴブリンプリンセスが一喝すると、ゴブリン達が俺へと突っ込んでくる。


「くそっ!」


 俺はスキルドレインを解除し、腕を降ろす。

 テディと一緒にゴブリンの広間を出て、骨の扉を閉めて反対側から押さえつける。


 裏側から棍棒で扉をぶっ叩いているらしく、衝撃が伝わってくる。

 扉がぶっ壊れるのも時間の問題だ。


「シュウさん……前、前……」


「それどころじゃねぇっ! お前も扉押さえ……」


 顔を上げると、トロルが涎を垂らしながらこっちへと迫ってくるのが見えた。

 マジで泣きそうになった。


「最悪じゃねぇかぁっ!」


「だから言ってたんですよ!」


 終わりだ。

 後ろも前も死ぬしかない。

 扉に逃げ込めば、トロルはこの小さな入り口には入れないはずだ。

 しかしそうすれば、20体のゴブリンにリンチされて監禁されるのは目に見えている。


 かといってトロルと勝負する道を選んでも、ロクな結果は待っていない。

 おまけに後ろからゴブリンがなだれ込んでくるのは明らかなので、どっちみちである。


「クソッ! 何かいい手はないのかっ!」


 働けっ! 俺の悪知恵マジで仕事しろっ!


 三秒考え、そして結果に至る。

 どう足掻いても死しかない。


 しかしゴブリンに飼われる方が、まだ死を先延ばしにできる。


「こうさんしまーす!!」


 俺は大声で叫びながら扉を開け、ゴブリンの広間に飛び込む。

 その後からテディがついてきて、扉を潜れないトロルがまた壁を崩そうとタックルを始めた。


 棍棒こそ使われなかったが、ゴブリンに素手で蛸殴りにされた。

 そのまま俺の身体が持ち上げられ、どこかに運ばれる。

スキル紹介:


『鑑定』

 アイテムやスキルの詳細、敵のステータスを見ることができる。

 Lvによって見ることのできる情報量に大きな差がある。

 スキルLvの上限は10。

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