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第七話 ゴブリントリオ

「テディ! 俺が足止めするから、隙を見てゴブリンの横を通って逃げろ!」


「で、でも……」


「後で絶対追いかける!」


 退れないのなら、先に進むしかない。

 狭い通路に三体もいるのだから横を駆け抜けて逃げるというのは難しいだろうが、俺が気を引いていれば不可能ではないはずだ。


 真ん中のゴブリンがわざとらしく俺に耳を向け、独特の「ケハッケハッ!」という笑い方をする。

 それから他の二人に指で合図し、後ろに控えさせる。


 俺の言った内容を理解し、横をすり抜けて簡単に逃げられなくするつもりだ。

 三体で俺に掛かってくれればテディの逃げる隙くらいはできただろうが、こうされてしまえばどうしようもない。


「お前……俺の言葉がわかるのか?」


 両手を左右に出し、おどけたふうなポーズを取る。

 それを見た後ろ二体のゴブリンは、また笑う。

 完全にこっちを舐めて掛かっている。


「いいぜ、来いよチビ! お前一体くらい素手で充分だっつうの!」


 ゴブリンが手にしている棍棒をぶん回してくる。

 俺はなんとか仰け反り、紙一重で躱す。


 危ねぇ、今のよく避けれたな俺。

 あんなんまともにくらったら死んじまうぞ。


 安堵した瞬間、逆側から同じ攻撃が来た。

 棍棒は、まともに俺の側頭部を捉えた。


 ぐらり、世界が揺らいで俺はその場に倒れ込んだ。

 ゴブリンの笑い声と、テディの泣き叫ぶ声が聞こえる。


 ゴブリンが俺の肩を掴んで持ち上げ、腹にもう一発入れてくる。

 俺の口から何かが飛び出た。吐瀉物かと思いきや、それは真っ赤だった。


 色んな思考が頭を廻る。

 とんでもない壁にぶち当たって、ようやく俺は気が付いた。

 これ、夢でもゲームでもなく、現実じゃねぇかよ。

 霞がかっていた脳も、それだけははっきりと教えてくれた。


 何か打開策はないかと必死に考える。

 自分の所有しているスキルを思い返す。

 何か、ひとつくらい役に立つものがあったっていいはずだ。


『スキルドレイン:LvMAX』


 使い方はよくわからないが、今役に立ちそうなものはこれしかなかった。


「……スキルドレイン」


 俺は口に出して言いながら、油断しきっているゴブリンの首を掴んだ。


「ケハ?」


 ゴブリンは俺の手を掴んで引き剥がそうとする。

 弱っている俺の手はあっさりと振り払われそうになったが、必死に喰らいつく。


 急に俺の手から、黒い煙が吹きだした。


〖スキルドレインに成功しました。好きなスキルを選択してください。〗


 頭の中に声が響き、脳内に画面が浮かんでくる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ゴブリン:Lv2】


特殊スキル:

『悪知恵:Lv2』

『魔物言語:Lv2』

『アルデンダ言語:Lv1』

『棍棒使い:Lv2』


通常スキル:

『忍び歩き:Lv1』

『ゴブリンの口笛:Lv1』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これは……好きなスキルを奪えるということか?

 しかし口笛や忍び歩きを今更得たところで、何かが変わるとは思えない。


 ひょっとして、特殊スキルも奪えるのか?


〖悪知恵のスキルを奪いました。〗


「ケハ?」


 握力をなくした俺が手を放すと、ゴブリンは間抜けな声を出し、数歩退いた。

 ゴブリンの手から棍棒が落ちる。


 後ろに控えていた二体のゴブリンがその様子を見て、走って逃げ出した。

 急に仲間が黒い煙に包まれ、様子がおかしくなったのだからそれも無理はない。賢明な判断だ。


 残されたゴブリンは顔を真っ青にし、辺りを不安気にキョロキョロと見回している。


 急に自らの思考に変化が起きて困惑しているのだろう。

 咄嗟のヤケクソでの選択肢だったが、これが幸いした。


「お前……レベル低いけど、アルデンダ言語持ってたんだな。俺の言葉がわかったわけだ」


 俺がにたりと笑って立ち上がると、ゴブリンはぶるりと身震いした。


「どうした? 十秒待ってやるから、早く逃げろよ。次はお前の言語能力を奪うぜ」


 ゴブリンが逃げ出そうと俺に背を向ける。

 俺はゴブリンが落とした棍棒を拾い上げ、思いっ切りゴブリンの後頭部を殴りつけた。


「ケハァッ!」


 苦しげに倒れたゴブリンの背を、俺は何度も殴りつけた。

 真っ赤なゴブリンの体液が飛び、やがてゴブリンは動かなくなった。


「はぁ……はぁ……や、やった……」


 命を奪ったという、嫌な感触が腕にあった。

 どうして俺は、逃げるゴブリンの頭を狙おうなんて残酷な考えが頭に浮かんだのだろう。


 悪知恵の特殊スキルを奪ったせいだろうか。


〖シュウのレベルが2になりました。〗


 天の声が、俺のレベルアップを伝えてくれる。


「や、やりましたねシュウさん! ゴブリンを追い払いましたよ! さっきの黒い煙、何をしたんですか!」


 嬉しそうにテディが駆け寄ってくる。


「なあ……悪知恵って、どういうスキルなのか知らないか?」


「え? えっと……確か、一部の魔物の持つ、性質系統に分類される特殊スキルだったような……」


 性質系統?

 特殊スキルにも種類分けがあるのか?


 というより、俺は魔物の性質を奪ったのか?

 それならあのゴブリンの青褪め様もわかるが……。


 え? 俺、ゴブリンの性質を手に入れたの?

 どうやったら捨てれるんだこれ?


「な、なぁ……俺の持ってるスキルの詳細を確かめる方法って何かないか?」


「それなら本で調べるか……それでわからなければ、教会の人に鑑定してもらうか……」


 今ここでは難しいのか……。

 一秒でも長く持っていたくないぞこんなスキル。俺の人格に影響が出そうだ。

 あの馬鹿王に付けられた『王家の鎖:Lv1』といい、特殊スキルにはロクなものがない。


 って、鑑定?

 それなら、確か俺のスキル一覧にあったはずだぞ。


 ステータスを開き、『鑑定:Lv7』があるのを確認する。

 それから俺の特殊スキル一覧にある『悪知恵:Lv1』に意識を向ける。


「鑑定」


 俺が呟くと、脳内に新たな画面が浮かび上がる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『特殊スキル:悪知恵』

 このスキルを保持していると、悪知恵に関して頭の回転が速くなる。

 性格に悪影響あり。

 スキルLvの上限は10。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「最悪じゃねぇか……」


 思わず口に出てしまった。


「ど、どうしたんですかシュウさん?」


 俺の一人言を拾ったテディが反応する。


「なあ、スキルを捨てる方法ってないのか?」


「さっきから変なことばかり聞きますね……。通常スキルなら、教会に頼めば簡単にできますよ。後は契約系等の特殊スキルなら、精霊やらの契約主と契約破棄を成立させればできるはずです」


 悪知恵に関しては、確か性質系統といわれていたはずだ。

 性質を捨てることなど、はたしてできるのだろうか。


「テディ……俺がもしとち狂ったときは、迷わず一撃で殺してくれ。人間のまま死にたい」


「シュウさん!? どうしたんですか急にそんな思い詰めたように! 魔物追い払えたんですよ! これで生き残る道が見えてきましたよ! もっと喜んでも……」


 テディはあれやこれやと励ましてくれたが、俺の気は重かった。

 焦っていたとはいえ、なぜよりによって悪知恵を入手してしまったのか。

 それのお蔭で助かったのは確かだが……はっきりいっていい気分はしない。

 身体に異物が入り込んできたような、そんな嫌悪感に近い。



 後ろからは、トロルが壁をタックルする音がまだ響いていた。

 近い内に、こっちまで追いついて来そうだ。


 俺はゴブリンの棍棒を握り締めながら、先への道を進んだ。

スキル紹介:


『スキルドレイン』

 相手のスキルを奪うことができる。

 ただし、一定時間意識のある相手に触れる必要がある。

 MP消費が激しいため、あまり乱発することもできない。

 奪ったスキルのLvに関係なく、入手するのはLv1のスキルである。ただし既に取得済みのスキルを奪った場合、スキルLvを上げることができる。

 Lv1では奪えるスキルの制限が多く、触れる必要時間も長い。

 Lv最大になれば、スキルでさえあれば相手の根幹的な性質さえも奪い取ることができる。

 スキルLvの上限は10。

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