第一部 灰の記憶 14 教会の門
教会への恩義には、祈りの言葉だけでは説明できない、具体的な助けの記憶があります。
村に救援の荷が届いたのは、焼け跡の土がようやく固まり始めたころだった。
荷車には穀物の袋と布、傷の手当てに使うものが積まれていた。
運んできた人々の胸には、小さな同じ印がついていた。
教会の印だと、大人が教えてくれた。
エリゼーはそれを見て、少し安心した。
教会の祈りなら、村でも聞き慣れていた。
だが荷を運んできた人々の中には、境の向こうの訛りで話す人もいた。
何人かの村人が、それを聞いて黙った。
「向こうの者に、渡すのか」
列の端で、誰かが尋ねた。
荷を扱っていた教会の人は、数を確かめる手を止めなかった。
「ここへ来て助けを必要としている人には、順に渡します」
「こちらの分が足りなくなったら」
「足りないことを、隠さず伝えます」
エリゼーはその言い方を聞き、村の食料配分の列を思い出した。
大人たちは、ときどき同じ言葉を違う場所で使う。
けれども、そう言った人が本当に最後まで同じように振る舞うかどうかは、見ていなければ分からない。
* * *
昼過ぎ、小さな子どもを連れた人が門のところで立ち止まった。
服は泥に汚れ、言葉には聞き慣れない抑揚があった。
村の者がすぐに場所を空けることはなかった。
教会の一人が歩み寄り、何を必要としているかを尋ねた。
相手の返事が聞き取れず、別の人を呼ぶ。
二度ほど言葉を確かめ合ったあと、子どものための水と食べ物が用意された。
エリゼーは、そのやりとりを見ていた。
慈悲というのは、すぐに分かり合えることではないのかもしれない。
分からない言葉を、分からないままにせず、聞き直すことなのかもしれない。
あの人は言った。
助けられる手があるなら、使う。
教会の人々は、その言葉を知らないはずだった。
それでも、同じようなことをしていた。
* * *
一度、救援の列が予定より長くなったことがあった。
持ち込まれた穀物は、十分とは言えない。
配る役の人々は戸口の奥で相談し、受け取れる量を少しずつ減らすことにした。
「昨日より少ない」
抗議する声が上がった。
教会の人は事情を説明し、足りない分をどこへ頼むかも伝えた。
納得しない人もいた。
それでも誰も、少ない分を神の試練だからと片づけはしなかった。
エリゼーは、祈りの印のついた荷車があっても、穀物が無限に増えるわけではないのだと知った。
困っている人が多いときには、よいことをしたい者たちの間でも、決めなければならないことがある。
そして決めたことを、あとから説明する責任もある。
後になって、エリゼーは教会の門を何度も通るようになった。
最初は救援の残りを受け取りに行くためだった。
次に、傷の回復を確かめてもらうため。
そのうち、配った品物の数を数える手伝いを頼まれるようになった。
「この袋、二つ数えた?」
「一つです」
「じゃあ、印をひとつだけ」
エリゼーは指を折り、袋の列を数え直した。
何度やっても、途中で声を掛けられると順番が分からなくなる。
そこで、袋を置く場所を決め、動かしたものだけ別に並べた。
教会の人は、その工夫を見てうなずいた。
「どうして、そうしたの」
「忘れるから」
エリゼーが答えると、相手は笑った。
「忘れることを知っている人の方が、数を残せることもある」
エリゼーは褒められたのかどうか分からなかったが、少し嬉しくなった。
門の外では、救援を受けた人たちが帰っていく。
感謝して帰る人も、足りないと言って帰る人もいた。
教会の人はどちらの声も聞いた。
少なくとも、エリゼーが見ていたあいだは。
教会がすべて正しいとは、まだ考えなかった。
ただ、彼らがエリゼーの知らない人々の命も数えようとしたことを、忘れずにいたかった。
年月が過ぎ、村の外へ出られる年齢になったとき、教会で学ぶ道があると知った。
祈りの言葉を学び、書物を読み、遠い土地で起きたことを記す仕事がある。
その説明の中で、彼女の胸を最も強く打ったのは、奇跡を起こす人々の話ではなかった。
「来られなくなった人の名前も、残しておくのです」
誰かの言ったその言葉だった。
あの人の名を尋ねられなかった日のことが、戻ってきた。
知らないまま失った名前がある。
だからこそ、知ることのできた名前まで、粗末にしてよいとは思えなかった。
やがて彼女は、教会の門を、助けを受ける側としてだけでなく、働くためにくぐるようになる。
その門が何を守り、何を閉め出すのかを問う日が来ることを、まだ知らずに。
主人公の教会への恩義は、宗教的な教えだけではなく、境を越えて救援を続けた人々への信頼に根ざしています。




