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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

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お話をしましょうか

 そんな二人の様子を見て。


「ふふっ」


 パメラが、小さく笑った。


「さて、二人とも」


「……はい?」


 アルトが顔を上げる。


「少し、一緒に来てもらえるかしら?」


「……どこにですか?」


「みんなのところよ」


「……みんな?」


 アルトが首を傾げる。


「ええ。お友達も、向こうにいるわ」


「……レテたち!」


 思い出したように、アルトが声を上げた。


「そうだ! みんな、大丈夫なのか⁉︎」


「ふふっ。心配なのね」


「当たり前ですよ!」


 アルトが、思わず一歩踏み出す。


「早く行かないと!」


「あらあら」


 パメラが、その腕へそっと手を添えた。


「アルト君も怪我をしているでしょう?」


「……これくらい、平気です!」


「もう」


 パメラが、少しだけ眉を下げる。


「そういうところは、困った子ね」


「……うっ」


 アルトが口を噤む。


 その様子を見て。


「……ははっ」


 ミュゼが、乾いた笑いを漏らした。


「アルトさん、怒られてるっすね」


「……うるせぇ!」


「ふふっ」


 パメラが微笑む。


「ミュゼさんもよ?」


「……え?」


「あなたも、随分と怪我をしているでしょう?」


「……いやぁ」


 ミュゼが頭を掻く。


「まぁ、これくらいは……」


「駄目よ」


 優しい声。


 しかし。


「…………」


 ミュゼは、それ以上言い返さなかった。


 アルトが、思わず彼を見る。


「……お前、随分と素直だな」


「……アルトさんも人のこと言えないっすよ」


「……あ?」


「ふふっ。二人とも」


 パメラが、楽しそうに笑った。


「喧嘩は、もうおしまいね」


「…………」


 ミュゼが、僅かに視線を逸らした。


 金色の鉤爪を握る手。


 そこには、まだ力が籠もっている。


 アルトも、それに気づいた。


「…………」


 二人の間に、短い沈黙が落ちる。


 戦いは止まった。


 だが。


 先ほどまでぶつけ合っていた感情まで、消えたわけではない。


「……さて」


 パメラが、ゆっくりと歩き始めた。


「行きましょうか」


 その手には、切っ先の丸くなった長剣。


 銀色の刀身が、淡い光を反射している。


「……パメラ様」


「なぁに?」


「その剣、しまわないんですか?」


「あら」


 パメラが手元へ目を落とした。


「そうねぇ」


 少し考え。


「このままでいいかしら」


「……いや、危ないですよ!」


「ふふっ。心配してくれるの?」


「そりゃあ……!」


 アルトは、言いかけて口を閉じた。


 そして。


 先ほどの光景を思い出す。


 自分とミュゼ。


 二人の攻撃を、同時に止めた一瞬。


(……いや……)


 パメラは、戦ってすらいなかった。


 ただ。


 自分たちの間に入り、攻撃を止めた。


 それだけだった。


(……俺、全然気づかなかった……)


 どう動いたのか。


 どこから入ってきたのか。


 まるで、分からなかった。


「……アルト君?」


「……あっ、はい!」


「ふふっ。考え事?」


「……まぁ、ちょっと」


 パメラは、それ以上尋ねなかった。


 ただ、穏やかに微笑んでいる。


 その少し後ろで。


「…………」


 ミュゼが、じっと彼女の背中を見つめていた。


(……あの人……)


 先ほどの動き。


 明らかに、自分たちとは次元が違った。


 だが。


 今は、どこにでもいそうな穏やかな女性にしか見えない。


(……参ったっすね……)


 ミュゼが、短く息を吐いた。


 そして。


 三人は、崩れた石畳の向こうへ歩いていった。


     ◇ ◇ ◇


「……なぜ……?」


 シルヴァンが、呟いた。


 片眼鏡の奥。


 その瞳が、大きく揺れていた。


 視線の先。


 崩れた建物の向こうから、三つの人影が近づいてくる。


 その先頭に立つ女性を見た瞬間。


 シルヴァンは、言葉を失っていた。


「……どういうことだ……⁉︎」


 リゼットも、目を見開いている。


 握っていた《エクラ》が、僅かに下がった。


「……何故……あなたが……!」


 ダリウスが、掠れた声を漏らした。


 巨大な槌を握る手に、力が籠もる。


「…………」


 グレイグが、ゆっくりと顔を向けた。


 その表情が、強張る。


「……陛下……?」


 セリオも、目を見開いた。


「……おいおい……」


 その手には、双剣《飛燕》。


 しかし。


 それを構え直すことすら、忘れていた。


「……何で、こんなところに……」


 さらに。


「…………っ!」


 リオネルが、大きく息を呑んだ。


 傷だらけの鎧。


 兜のない顔には、血と汗が滲んでいる。


 それでも。


 剣を握り直し、姿勢を正そうとした。


「……陛下……!」


 その声は、震えていた。


 戦闘による疲労だけではない。


 自分たちが守るべき女王が。


 危険な戦場の真ん中へ、現れた。


 その事実に、驚きを隠せなかった。


「……嘘でしょ」


 ノエルも、思わず声を漏らした。


 エルネとの戦闘で傷ついた身体を支えながら、目を凝らす。


「……何で、陛下が……」


 その口調からは、先ほどまでの軽さが消えていた。


 まさか。


 こんな場所で、自分たちの女王を見ることになるとは。


「…………」


 不死隊の面々は、そんな騎士たちの反応を眺めていた。


 そのとき。


「……アルト君!」


 レテが、声を上げた。


「……レテ!」


 アルトが、即座に反応する。


 そして。


「……っ!」


 仲間たちの姿を見た瞬間。


 表情が変わった。


 レテの右肩。


 動けずにいるログ。


 石壁に背を預けたガオン。


 包帯を巻いたユノ。


 そして、フィリアとヒルト。


「……お前ら……!」


 アルトが、思わず駆け出そうとした。


 だが。


「あら、アルト君」


 パメラが、優しく声をかける。


「走ったら、傷に響くわよ?」


「……でも!」


 アルトが振り返る。


「みんな、あんなに……!」


「ええ」


 パメラが、静かに頷く。


「だから、まずは落ち着いて」


「…………」


 アルトは、唇を噛み締めた。


 だが。


 歩く速度は、明らかに速くなっていた。


「……アルト君……」


 レテが、安堵したように微笑む。


 その姿を見て。


 アルトも、僅かに表情を緩めた。


「……よかった……」


 小さく呟く。


「……みんな、生きてる……」


 だが。


 次の瞬間。


「…………」


 アルトは、周囲を見渡した。


 傷ついた仲間たち。


 そして。


 その近くに立つ、不死隊の面々。


「…………」


 拳に、力が籠もった。


 しかし。


 パメラが、そっと声をかける。


「アルト君」


「…………」


「今は、お友達のところへ行ってあげて」


「……はい」


 アルトは、短く答えた。


 その間に。


「……パメラ様……?」


 ガオンが、呆然と呟いた。


 そして。


「……っ!」


 慌てて、身体を起こそうとする。


 だが。


「……ぐっ!」


 胸元に痛みが走った。


「あらあら」


 パメラが、困ったように笑う。


「無理をしないで、ガオちゃん」


「……パメラ様……!」


 ガオンが、苦しげに顔を上げる。


「……何故、このような場所に……!」


「ふふっ。少し用事があってね」


「……ですが……!」


 ガオンは、言葉を詰まらせた。


 目の前にいるのは。


 幼い頃から、礼儀や作法を教えてくれた女性。


 スパーナ王国女王。


 パメラ・エルディア。


 優しく。


 そして、時には容赦なく厳しい。


 そんな彼女が。


 今。


 剣を手に、戦場へ立っていた。


「……陛下!」


 シルヴァンが、一歩踏み出した。


 しかし。


 負傷した身体が、僅かに揺れる。


「……このような場所へ、お一人で……!」


「あら」


 パメラが、微笑んだ。


「一人ではないわよ?」


 そう言って。


 後ろのアルトとミュゼへ視線を向ける。


「……二人と一緒だったもの」


「……そういう意味では……!」


 シルヴァンが、思わず言葉を詰まらせた。


「ふふっ」


 パメラは、楽しそうに笑った。


「みんな、随分と頑張ったのね」


 その視線が。


 シルヴァン。


 リゼット。


 ダリウス。


 グレイグ。


 セリオ。


 そして、リオネルとノエルへ向けられる。


「……ですが、陛下」


 リオネルが、剣を下げた。


「この場は、あまりにも危険です」


「そうね」


 パメラが頷く。


「だから、来たのよ」


「…………」


 リオネルは、それ以上言葉を続けられなかった。


 その隣で。


「……陛下……」


 ノエルが、小さく息を吐く。


「……すごっ」


「あら、ノエルちゃん」


 パメラが、嬉しそうに笑った。


「あなたも、怪我をしているじゃない」


「……まぁ、それは……」


「ふふっ。あとで、きちんと手当てしてもらいましょうね」


「……はいはい」


 ノエルが、苦笑した。


 その様子を。


 エルネが、少し離れた場所から眺めている。


「…………」


 どこか、興味深そうだった。


 そして。


「……おお!」


 豪快な声が響いた。


「来たか!」


 グウェンだった。


 青い装飾の入った不死隊の制服。


 軍帽。


 そして、青と黒を基調とした軍刀。


 鞘に収めたまま、手にしている。


「…………」


 アルトの足が止まった。


「……グウェン」


「ナッハハハハ!」


 グウェンが、嬉しそうに笑った。


「久しぶりじゃのぉ! アルト!」


「…………」


 アルトは、すぐには答えなかった。


 生きていることに、驚いたわけではない。


 不死隊が、そういう存在であることは知っている。


 ただ。


 思い出していた。


 フーガが、グウェンの首を落としたときのことを。


 あのとき。


 自分は、確かに怒った。


 復活できるからといって。


 そんな簡単に、仲間の命を奪っていいのか。


 その思いは、今も変わっていなかった。


「……なぁ、グウェン」


「ん?」


「……何とも思ってねぇのか?」


「……なんのことだ?」


「……フーガに、首を落とされたことだよ」


「…………」


 グウェンが、僅かに目を瞬かせる。


 そして。


「ナッハハハハ!」


 豪快に笑った。


「何じゃ! まだ気にしとったのか!」


「……っ!」


 アルトの眉が動く。


「……気にするだろ、普通!」


「ナッハハ!」


「……笑い事じゃねぇよ!」


 アルトが、思わず声を荒らげた。


 だが。


 グウェンは、楽しそうに笑っている。


「……ったく」


 フーガが、呆れたように息を吐いた。


「……アルト、ほんま変わらへんなぁ」


「……お前に言われたくねぇよ!」


 アルトが、睨み返す。


「ナッハハハハ!」


 グウェンが、また笑った。


 その声に。


 ミュゼが、僅かに顔を伏せる。


「…………」


 アルトへの苛立ちは、まだ消えていなかった。


 ただ。


 今は、口を挟まなかった。


 そして。


「……さて」


 パメラが、静かに歩み出た。


「グウェンさん」


「お?」


 グウェンが、顔を向ける。


「少し、お話をしましょうか」


「…………」


 その言葉に。


 周囲が、静かになった。


 グウェンが、パメラを見つめる。


 そして。


「ナッハハハハ!」


 豪快に笑った。


「いいぞ!」


 二人が、向かい合った。


 青と黒の軍刀を持つ男。


 切っ先の丸くなった長剣を手にする女。


 どちらも。


 武器を構えてはいない。


 ただ。


 穏やかに、笑っている。


「…………」


 アルトは、その光景を見つめていた。


 グウェンの実力は知っている。


 不死隊にいた頃から、その強さを見てきた。


 だが。


 パメラの強さは、今日初めて知った。


 その二人が。


 目の前で、向かい合っている。


(……パメラ様って……)


 アルトが、小さく息を呑んだ。


(……本当に、何者なんだ……?)


 その疑問に答える者は、まだいなかった。

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