↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
休暇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

537/678

目的は…

     ◇ ◇ ◇


 任務を終えた四人が、不死隊の拠点へ戻った頃。


 日はすでに傾き始めていた。


「ただいまぁ」


 軋んだ扉を押し開け。


 フーガが中へ入る。


 その後ろから。


 ゴートー。


 バルド。


 セラが続いた。


「……疲れた」


「セラ、さっきからそれしか言うてへんやん」


「疲れたし、眠い」


「増えたな」


「寝る」


「自由やなぁ」


 セラは真っ直ぐ長椅子へ向かうと、そのまま横になった。


 ゴートーは背負っていた《犀嶽》を壁へ立て掛ける。


 バルドも《蜂穿》を置き、大きく息を吐いた。


「……聞いてた数と……全然違ぇ……余計な仕事……」


「バルドさん?」


「……なんでもねぇ」


「ほんま?」


「……チッ」


「元気そうで何よりや」


「どこ見てそう思った……」


「ん?」


「……もういい」


 フーガは笑いながら、近くの椅子へ腰掛けた。


 それぞれ別の場所へ散っていた仲間たちも、そろそろ戻ってくる頃だ。


 ――ギィ。


「おや」


 噂をすれば。


 扉が開いた。


「皆さん、お早いですね」


「お、エルネさん」


「ただいま戻りました」


 入ってきたのは。


 深緑を差し色にした軍装と軽鎧を纏う男。


 腰には細身のレイピア。


 先日。


 墓地でユノと言葉を交わしていた男。


 ――エルネ。


「どうやった?」


「それなりの収穫はありましたよ」


「おお」


「もっとも」


 エルネがフーガを見る。


「あなたに今話しても、もう一度全員が揃ってから説明することになるでしょう」


「よう分かっとるやん」


「長い付き合いですから」


「俺のこと好きなん?」


「嫌いではありません」


「微妙やなぁ」


「正確な回答です」


 エルネは荷物を机へ置く。


 その少し後。


 ――バン!


「戻ったぞぉ!」


「……うるさい」


 長椅子から。


 セラの声が飛ぶ。


「ガッハッハ! 悪ぃ悪ぃ!」


 豪快な笑い声と共に入ってきたのは。


 袖を捲り。


 鍛えられた腕を露わにした男。


 黒を基調とした軍装と鎧には。


 橙色の意匠が入っている。


 ――ゲンザ。


「いやぁ! ジーアスはいい街だったな!」


「ゲンさん、遊びに行ったんちゃうで?」


「分かってる!」


「ほんまかぁ?」


「ちゃんと仕事はしたぞ! なぁ、ミュゼ!」


「……まぁ、一応は」


 その後ろから。


 若い男が顔を出した。


「うぃーっす。ただいま戻りました」


 黄色を差し色にした軽装。


 ゲンザと行動を共にしていた青年。


 ――ミュゼ。


「聞いてくださいよ。ゲンさん、途中から知らねぇおっさんたちと酒盛り始めたんすよ」


「知らねぇ奴じゃねぇ! 友達だ!」


「名前知ってるんすか?」


「知らん!」


「知らねぇじゃないっすか!」


「酒を飲めば友達だ!」


「意味分かんねぇっす……」


「ガッハッハ!」


「……声、大きい」


「おう、セラ! 寝てたのか!」


「寝ようとしてた」


「そりゃ悪かった!」


「だから声……」


 セラが長椅子の上で丸くなる。


「ゲンさん相変わらずやなぁ」


「おう!」


「褒めてへんで?」


「ガッハッハ!」


 そして。


 少し遅れて。


 ――ガチャ。


「あぁ……?」


 扉が開く。


 紫色と金色。


 嫌でも目に入る派手な装い。


 小太りの身体。


 片手には。


 当然のように酒瓶。


「…………」


 入ってきた男は。


 全員から向けられた視線に眉を寄せる。


「なんだよ」


 酒瓶を煽る。


「見せもんじゃねぇぞ」


「……ドーマ」


「あぁ?」


 ――ドーマ。


「……てめぇ……また飲んでやがったのか」


 バルドが。


 猫背のまま睨む。


「あぁ? 何ボソボソ言ってんだ?」


「……任務中に酒飲んでたのかって言ってんだ……クソ狸」


「あぁ⁉︎」


 ドーマの眉が跳ね上がった。


「誰が狸だ、クソ蜂!」


「……てめぇだよ」


「やんのか⁉︎」


「……上等だ」


「表出ろ!」


「……ここでいいだろ」


「拠点壊したら二人で直してくださいね」


 エルネが淡々と告げる。


「知るか!」


「……こいつにやらせろ」


「なんで俺だけなんだよ!」


「……お前が壊すからだろ」


「まだ壊してねぇだろうが!」


「これから壊すつもりなんですか?」


「エルネは黙ってろ!」


「理不尽ですね」


「お?」


 フーガが楽しそうに二人を見る。


「今日も仲ええなぁ」


「「どこがだ!」」


「お、そこは揃うんや」


「……チッ!」


「クソが!」


「……眠い」


「…………」


 ゴートーだけが。


 いつも通り無言で眺めていた。


     ◇


「ほな」


 全員が揃ったところで。


 フーガが机を囲む面々を見回した。


「始めよか」


 バルドとドーマは。


 当然のように最も離れた位置にいる。


「……チッ」


「ケッ」


「まだやってんの?」


 セラが眠たそうに呟く。


「とりあえず」


 フーガが丸眼鏡を押し上げる。


「アルトについて。順番に聞こか」


「では、私から」


 最初に口を開いたのは。


 エルネだった。


「現在もガイスト軍に所属しています。軍内での人間関係も、概ね良好のようです」


「へぇ」


「少なくとも、近いうちにガイストを離れる様子はありません」


「なるほどなぁ」


 フーガは。


 それ以上何も言わなかった。


「それから」


 エルネが一枚の紙を机へ置く。


「近々、スパーナへ向かうようです」


「スパーナ?」


「はい」


「俺らもそれ聞いたっすよ」


 ミュゼが手を挙げる。


「王国祭っす」


「王国祭?」


「スパーナで開かれる大きな祭りっすよ。それに合わせて向かうみたいっす」


「任務か?」


 ゲンザが聞く。


「いや」


 ドーマが酒瓶を揺らす。


「そっちは違ぇな」


「ドーマさんも掴んどるん?」


「ああ。連中、休暇を取ってやがる」


「ほな……」


 フーガが少しだけ笑う。


「旅行か」


「そう見ていいでしょう」


 エルネが頷く。


「……呑気な奴だな!」


 ゲンザが豪快に笑う。


「ゲンさんが言うんすか?」


「なんだミュゼ!」


「なんでもないっす」


「ガッハッハ!」


「……うるさい」


「悪ぃ!」


「…………」


 フーガが。


 机の上の情報へ目を落とす。


「スパーナねぇ……」


 小さく呟いた。


 その時。


「……あれ?」


 ミュゼが。


 初めて何かに気づいたように周囲を見る。


「なんや?」


「いや……」


 一人ずつ。


 顔を確認する。


 フーガ。


 ゴートー。


 バルド。


 セラ。


 エルネ。


 ゲンザ。


 ドーマ。


「グウェンさんは?」


「…………」


 セラが。


 眠たそうな顔のまま答えた。


「フーガが首落とした」


「…………」


 ミュゼが固まる。


「えー……」


 一歩。


 僅かに後ろへ。


「えっぐぅ……」


「なんや!」


 フーガが身を乗り出した。


「文句あるんか!」


「ないっす!」


 即答だった。


「早いなぁ!」


「全然ないっす!」


「ほんまに?」


「ないっす!」


「ならええわ」


「いいんですか、それで……」


 エルネが小さく息を吐く。


「…………」


 フーガは。


 もう一度。


 机の上へ目を落とした。


「スパーナねぇ……」


 王国祭。


 アルトも行く。


 そして。


 今のアルトが共にいる者たちも。


「…………」


 丸眼鏡の奥の瞳が。


 僅かに細くなる。


「まぁ」


 立ち上がる。


「ええやろ」


 そして。


 いつもの調子で。


「んじゃ……今日はゲンさん、よろしくぅ!」


「おう!」


 ゲンザが。


 一歩前へ出た。


 その瞬間。


 雰囲気が変わる。


 豪快に笑っていた表情が消え。


 背筋が伸びる。


「――整列!」


 ――ザッ!


 椅子が引かれた。


 全員が立ち上がる。


 横一列。


 位置。


 姿勢。


 視線。


 全てが。


 揃う。


 先ほどまで酒を飲んでいたドーマも。


 バルドと喧嘩していたドーマも。


 眠そうにしていたセラも。


 軽口を叩いていたミュゼも。


 誰一人として。


 遅れない。


「気をつけぃ!」


 ――ザッ!


 一糸乱れぬ動き。


「フーガ隊長に対し!」


 一拍。


「敬礼!」


 全員の腕が。


 同時に上がる。


「…………」


 フーガが。


 その前へ立つ。


 そして。


 片手を軽く動かした。


「休め」


 ――ザッ!


 再び。


 全員の動きが揃う。


「えー」


 フーガが丸眼鏡を押し上げる。


「ほな、情報も揃ったことやし」


 いつもの。


 飄々とした口調。


「次の行き先、決まりました」


「…………」


「スパーナ」


 誰一人。


 口を挟まない。


「王国祭に合わせて、俺らも向こうに入ります」


 そして。


 ほんの少しだけ間を置いた。


「目的は――」


 口元が。


 緩やかに吊り上がる。


「裏切り者のアルトを殺します」


「…………」


 誰も。


 表情を変えない。


「邪魔もんは……」


 フーガが首を傾げる。


 少しだけ。


 考えるように。


「まぁ……殺してええやろ」


「…………」


「以上」


 そして。


 いつもの軽い笑みに戻る。


「はい、解散〜」


「気をつけぃ!」


 ゲンザの号令が。


 再び響く。


「フーガ隊長に対し!」


 ――ザッ!


「敬礼!」


 八人の腕が。


 寸分違わず上がる。


「別れ!」


「――了!」


 声が。


 一つに重なった。


 その瞬間。


 張り詰めていた空気が。


 消えた。


「よーし! 酒だ!」


「ゲンさん、まだ飲むんすか⁉︎」


「飲むぞ!」


「さっきまで飲んでたじゃないっすか!」


「それとこれは別だ!」


「何が違うんすか!」


「ガッハッハ!」


「……ドーマ」


「あぁ?」


「……それ、俺の酒だろ」


「名前書いてねぇだろ」


「……俺が買った」


「だったら名前書いとけ!」


「……殺すぞ」


「やってみろクソ蜂!」


「……表出ろ」


「望むところだ!」


「また始まりましたね」


 エルネが呆れたように二人を見る。


「……眠い」


 セラは。


 すでに長椅子へ向かっている。


「…………」


「ゴートーさん」


「……何だ」


「なんか言うてや」


「…………」


 ゴートーは少し考え。


「……腹減った」


「そこなん?」


「飯なら俺が作ってやるぞ!」


「ゲンさん料理できるんすか⁉︎」


「できん!」


「じゃあ何作るんすか!」


「知らん!」


「怖ぇっすよ!」


「ふはっ!」


 フーガが。


 声を上げて笑う。


 騒がしい仲間たち。


 いつも通りの光景。


「…………」


 その中で。


 フーガは一人。


 丸眼鏡を指で押し上げた。


「スパーナかぁ……」


 小さく。


 その名を口にする。


 アルトが。


 自分たちのもとを離れてから。


 どんな場所で。


 どんな連中と。


 何をしてきたのか。


「…………」


 フーガは。


 それ以上何も言わず。


 いつもの笑みを浮かべた。


 王国祭。


 アルトたちが旅行として向かうスパーナへ。


 不死隊もまた。


 向かおうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。