第2話「激突」
天使型は両腕のエネルギーブレードを展開し、静かに——滑るような変則的な動きでバサラヲに斬りかかる。
閃はすぐ反応し、刀で受け止める。
ガキィンッ!
火花が散る。
女型はシラユキへ迫る。
まるで生物のような4本の腕が、別々の角度から襲いかかる。
シラユキはジャベリンを高速回転させて攻撃を防ぐ。
しかし、2本の腕がジャベリンを掴み、そのまま引き剥がそうとしてきた。
敵の力は、明らかに常軌を逸していた。
◆
レンゴクは巨人型へと突進する。
だが——
背面の巨大な“手”のようなウィングが盾となり、その突進をあっさり受け止めた。
ガシャァンッ!
「……!?」
烈は目を見開く。
◆
鳥人型は、空中にいるツムギへ襲いかかる。
空中で回転し、尻尾のブレードを突き出した。
ツムギはギリギリのところでガンブレードで受け止める。
ガンッ!
「っ……!」
鋭い衝撃に、音の息が漏れる。
◆
その時、各EDに通信が入った。
『皆! 住民の避難は済んだわ! 思いっきりやっちゃって!』
リオの声だ。
閃は即座に叫ぶ。
「リーダーより各機へ! エーテルスキルを使うぞ!」
4人は同時に、エーテルを集中させた。
◆
「《火炎弾》!!」
レンゴクは炎の弾丸を巨人型に放つ。
しかし巨人型は“水の壁”を生成し、そのまま攻撃をかき消した。
「!!」
烈は驚愕する。
◆
「《氷結》」
シラユキが冷気を放つ。
だが、女型が放った“オレンジ色の炎”により、一瞬で相殺された。
「…!!」
怜は静かに目を見開く。
◆
「《斬撃のウィンド》!」
ツムギは風の刃を連続で放つ。
鳥人型にヒットするも、その姿は幻のように掻き消えた。
「えっ…!?」
音は驚きを隠せない。
◆
「くらいなっ! ビリビリ!」
閃の《雷撃》が、バサラヲを伝って天使型へまっすぐ放たれる。
しかし天使型は片手を前にかざし、その軌道をねじ曲げて上空へと流した。
「…やっぱり、相手もファクターか」
閃が言う。
「ああ…! しかもあの4本腕、俺と同じ属性だ!」
烈が返す。
「同じファクターなのに戦うなんて…」
音が小さく呟く。
「さっきので、誰がどの属性かはわかったわ」
怜が淡々と告げる。
◆
女型は標的をレンゴクに変え、炎を放つ。
「火力勝負か! 乗ってやるぜ!! 《火炎波》!!」
レンゴクの真っ赤な炎と、女型のオレンジ色の炎が正面からぶつかり合い、激しく拮抗する。
◆
怜は狙いを巨人型に変え、《氷弾》を放つ。
《氷弾》は、氷の弾丸を撃ち出すだけでなく、着弾時に氷結効果を発生させる。
怜の狙いは、巨人型を水の障壁ごと凍らせることだった。
しかし——
《氷弾》は巨人型に届く前に軌道を変えられ、すべて上空へと反らされた。
またも天使型だった。
さらに天使型は、いつの間にかシラユキの間合いに入り込んでいた。
斬撃を受ける——その瞬間。
天使型に、“空気の衝撃波”が直撃する。
音の《衝撃のウィンド》が、天使型を横合いから吹き飛ばしていた。
◆
巨人型は片腕でシラユキへ強烈な打撃を加える。
シラユキは瞬時に《アイスシールド》を発動させ受け止めたが、凄まじい衝撃に耐え切れず、吹き飛ばされる。
同時に巨人型は、もう片方の腕をツムギへ向ける。
手のひらのシャッターが展開し、その奥から砲身が姿を現した。
音が反応しようとした、その瞬間——
鳥人型の“不可視の精神攻撃”が音を襲う。
「い、いゃゃあぁあ!!」
「音っ!!」
烈が向かおうとするも、女型がその行く手を遮る。
怜も致命傷は避けたものの、立て直すので精一杯だった。
ツムギは完全に動きを止める。
巨人型の砲撃が放たれようとした、その瞬間——
「…準備完了」
閃の静かな声が響いた。
次の瞬間、バサラヲから1本の雷が伸び、鳥人型へ直撃。
続けて鳥人型から雷が連鎖し、天使型・女型・巨人型へと伝わっていく。
「《雷導》。 “よくばりバージョン”…ってね」
閃は、事前にスキル《蓄電》で体内にエーテルを溜め込んでいた。
そして今の《雷導》は——
“当てた相手から連鎖していく雷”の威力を、限界まで強化したものだった。
4機のDDは動きを止め——
そのまま空へと飛び立ち、去っていった。
◆
静寂。
ファクターズはその場に立ち尽くしていた。
「……撤退してくれたか」
閃が呟く。
「ああ……」
烈が拳を握りしめる。
「怜ちゃん、大丈夫?」
音はふらつきながら怜へ駆け寄る。
「私は平気。音こそ大丈夫なの?」
怜が返す。
「うん! すぐ回復したから大丈夫だよ!」
音は笑顔を見せた。
モニター越しに見ていた職員たちも、ほっと息をつく。
4機は、それぞれオルフェへ帰還した。
◆
その後。
イシュタール財団の基地。
4機のDDが、格納庫へ帰還する。
ハッチが開き、4人の少年少女が降りてくる。
灰銀色の髪の小柄な少年「イノ」。
天使型DD“エンプティア” ——通称”悲哀の悪魔”のファクター。
褐色肌で筋肉質、高めの黒ポニーテールの少女「アーク」。
女型DD “ドレディア” ——通称“恐怖の悪魔”のファクター。
短い白緑の髪、無口そうな青年「クリス」。
巨人型DD“セレティア” ——通称“悦楽の悪魔”のファクター。
紺色のマスクにキャメル色のテンガロンハット、茶髪の青年「サム」。
鳥人型DD“ラフティア”
——通称“憤怒の悪魔”のファクター。
◆
「お帰りなさい」
穏やかな声が響く。
白衣の女性——ナンシー・フローレンス。
イシュタール財団の研究主任であり、ゼクストの“母”。
「ただいま。マザー・フローレンス」
イノが柔らかく笑う。
「マザー・フローレンス、アイツらなかなか手応えあったよ」
アークが言う。
「アークがそう言うの、珍しいわね」
ナンシーが微笑む。
「アフフッフフフ! ま、まさかあんな電気食らうなんて思わなかったよ! アフフフ!」
サムが、あの独特の笑い声を上げる。
「皆、怪我は無い?」
ナンシーが優しく問う。
「マザー・フローレンス、大丈夫だよ。クリスが治してくれた。ありがとね、クリス」
イノが微笑む。
「当たり前のことをしたまでだ」
クリスは淡々と返す。
「いいえ、クリス。当たり前なんて何も無いわ。いつもありがとう」
ナンシーが、柔らかな声音で告げる。
クリスは小さく頷いた。
「皆、ゆっくり休んでね。愛してるわ、“私の子供たち”」
ナンシーはそう告げ、静かに去っていった。
イシュタール財団が生んだ、DDのファクター、その名は「ゼクスト」。
彼らは、ファクターズと同じ様で、遠い存在だった。




