里帰り
烈が運転するエレカの車内には、助手席に閃、後部座席に怜と音が乗っていた。
4人は休みを合わせ、とある場所へ向かっている。
高速道路——第4高速レーンを乗り継ぎながら、目的地へ近づいていた。
窓の外には、どこか懐かしい景色が流れていく。
「懐かしいなー」
閃は外を眺めながら、ぽつりと呟いた。
目的地は——クマモト。
4人が向かっているのは、たんぽぽ荘だった。
◆
昼過ぎ。
エレカが、たんぽぽ荘の前へゆっくりと停まった。
それに気づいた子供たちが、勢いよく外へ飛び出してくる。
「閃にぃー!!」
「烈にぃー!!」
「怜ねーちゃんに、音ねーちゃんもいるー!」
元気いっぱいの声が辺りに響いた。
「おー、久しぶりだなー!」
閃は笑いながら手を振る。
「はじめまして」
「こんにちは!」
怜と音は、丁寧に挨拶をした。
2人にとって、子供たちとはこれが初対面だ。
すると、その後ろから結菜も姿を見せる。
「久しぶりねー」
結菜は穏やかに微笑んだ。
「それと、怜ちゃんと音ちゃんね。はじめまして、結菜です」
そう言って、優しく頭を下げる。
怜と音も、改めて挨拶を返した。
「烈と閃から、2人のことは色々聞いてるわ」
「今日は、わざわざ来てくれてありがとね」
結菜は嬉しそうに言う。
「いえ、私たちも、いつか皆さんにお会いしたいと思っていました」
怜が静かに答える。
隣の音も、にこりと笑って頷いた。
「ふふっ。さ、立ち話もなんだし、上がって」
結菜は嬉しそうに微笑む。
その間にも、子供たちは閃や烈へ飛びつき、辺りは一気に賑やかになっていた。
◆
4人は、美晴の仏壇へ静かに手を合わせていた。
穏やかな線香の香りが、部屋の中にゆっくりと広がっていく。
誰も多くは語らない。
ただ、それぞれの想いを胸に、静かに目を閉じていた。
その後——
「そういえばね……」
結菜がお茶を出しながら、ふと思い出したように口を開く。
「エドワードさんから、オルフェ代表って形で香典が届いてたの」
その言葉に、4人はわずかに表情を動かした。
「……そっか」
閃は小さく呟く。
そこには確かに、“エドワードらしさ”が残っていた。
◆
庭では、怜と音が子供たちに囲まれていた。
「怜ねーちゃんの力、“魔法”みたい!」
「音ねーちゃんって、空飛べるの?」
子供たちは目を輝かせながら、次々に話しかけてくる。
閃や烈と同じファクターだということを、皆知っていた。
怜はそっと手のひらを差し出す。
すると、その上に小さな氷が静かに現れた。
「すごい!!」
「触っていい!?」
子供たちの目がさらに輝く。
「いいよ」
怜は柔らかく微笑みながら答えた。
一方、音は《浮遊》を使い、その場からふわりと身体を浮かせてみせる。
「わぁー!!」
「いいなぁー!」
こちらも歓声が上がった。
音は少し照れながらも、嬉しそうに笑っていた。
「おーい、あんま困らすなよー?」
少し離れた場所から、烈が苦笑しながら声をかける。
(……俺も閃も、昔よく“見せて見せて”ってせがまれてたな)
烈は、どこか懐かしそうに昔を思い出していた。
◆
「閃にぃ!見て!」
子供のひとりが、得意げにリフティングを始めた。
「おっ!上達したなー!」
閃は感心したように笑う。
「閃にぃ!あたしの描いた絵見て!」
今度は別の子が、嬉しそうに絵を持ってきた。
そこには、クレヨンで描かれた閃と烈の姿があった。
「おー!俺と烈か!上手い!」
閃は笑いながら、その子の頭を優しく撫でる。
「次はオレな!閃にぃ!」
「ずるい!次わたし!」
子供たちは次々に閃の周りへ集まっていく。
その様子を、縁側で烈と結菜が静かに眺めていた。
「清司にぃも帰ってきてたんだ」
烈がぽつりと言う。
「うん。仕事は大変みたいだけど、順調だって話してたよ」
結菜は穏やかに答えた。
清司——。
烈よりも前からたんぽぽ荘にいた、みんなのお兄さん的存在。
大学卒業後は、警察官として働いている。
「そっか」
烈は静かに頷く。
「誠司もね、2人のこと、すごく気にしてた」
「“あの2人なら大丈夫”って、伝えておいたよ」
その言葉に、烈は小さく息を吐く。
(清にぃも、相変わらず頑張ってんだな……)
◆
やがて、空は少しずつ茜色へ染まり始めていた。
「それじゃ——そろそろ帰るか」
烈が立ち上がりながら言う。
「えー!もう帰っちゃうのー!?」
「泊まってけばいいのにー!」
子供たちは名残惜しそうに声を上げた。
「お兄ちゃん達は忙しいの」
結菜が優しくたしなめる。
「また、みんなで遊びに来る?」
「怜ねーちゃんと音ねーちゃんも!!」
子供たちは期待したように言った。
「もち」
閃は笑顔で即答する。
「また来るわ」
怜も柔らかく微笑んだ。
「うん!みんな、元気でね」
音も手を振る。
「じゃ、結菜さんも元気でな!」
烈が言う。
「皆もね!」
結菜は穏やかに笑った。
そして、ふと2人へ視線を向ける。
「怜ちゃん、音ちゃん——この2人のこと、頼むわね」
結菜は冗談っぽく笑いながら言った。
「任せてください」
怜は珍しく、少しイタズラっぽい笑みを浮かべて答える。
「はい!閃にぃと烈にぃのこと、しっかり守ります!」
音も、いつになく冗談混じりに言った。
その言葉に——
閃も、烈も、結菜も、子供たちも——みんな笑っていた。
◆
「気をつけてねー!」
その声に、4人は笑顔で頷く。
そして——
エレカがゆっくりと走り出した。
「ばいばーい!!」
「また来てねー!!」
「待ってるよー!!」
後ろでは、子供たちがいつまでも手を振っている。
夕暮れの空、そんな景色を背に——4人は、たんぽぽ荘を後にした。




