第8話「Innocent」
閃の《雷鳴拳》を頭上から叩き込まれ、地に伏しているラフティア。
だが、その巨体はゆっくりと、確実に起き上がり始めていた。
(……たいして効いちゃいないな)
閃の渾身の一撃ですら、わずかにダウンを奪えただけで、致命傷には程遠い。
『閃!!コイツには斬撃だ!!』
烈の声が通信越しに響く。
《大炎剣》では尻尾を切断することができた。
だが、怜の《氷槍》や音の《斬撃のウィンド》は弾かれている。
つまり——
威力と質を兼ね備えた“本物の斬撃”でなければ通らない。
ラフティアは体勢を立て直すと、再び上空へ舞い上がった。
閃は即座に指示を出す。
「怜と烈は地上でアイツの気を引いて!俺と音は空中から翼を狙う!」
シラユキとレンゴクは即応し、それぞれ地上を高速で移動し始めた。
続いて、バサラヲとツムギが上昇する。
「音!まずは右翼の根元を狙う! 同時に行くぞ!」
「うん!!」
地上では、怜の《氷弾》、烈の《火炎弾》が連続で放たれる。
決定打にはならないが、確実にラフティアの注意を散らしていた。
その一瞬の隙。
閃は刀に雷のエーテルを集中、音もまたブレードへ風のエーテルを集中させる。
「《雷刃波斬》!!」
「《風刃波斬》!!」
かつてΩチームのメルと戦った後、閃が思いついた2人のスキルだった。
雷と風が交差し、刃となって右翼の根元を裂いた。
ラフティアはバランスを崩し、地上へ墜落する。
「今だっ!!」
怜が《氷鎌》を、烈が《大炎剣》を同時に振り下ろす。
両脚へ斬撃が叩き込まれた。
閃も上空から《雷撃》を放つ。
音も追撃に入ろうとした、その瞬間。
(ウウウ……イタイ……イタイ……クルシイ……モウ……イヤダ……)
音の頭の中に、直接声が響いた。
それは、サムの声だった。
音は攻撃を止める。
(サム……!?わたしの声、聞こえる!?)
返事はない。
だが、苦痛だけが流れ込んでくる。
「音、どうした!?」
閃が叫ぶ。
「サムの声が聞こえる……!!苦しんでるよォ……!!」
「……!!」
閃にも、怜にも、烈にも聞こえない。
感受性の強い音だけが、サムの心に触れていた。
「で、でも……!!」
ここで止めるわけにはいかない。
今、倒さなければ。
「音……!!ここで倒さないと——」
「わかってるよ……!!」
それは、涙混じりの悲痛な声だった。
閃は、それ以上何も言えなかった。
◆
3人の総攻撃を受けてもラフティアは、なお立ち続ける。
(やべぇ……そろそろ容量が……!!)
烈のエーテルは限界が近い。
即座にクローとキャノンを展開し、近接特化から中距離戦闘へ切り替える。
怜も《氷結》で足止めに徹し、消耗を抑える戦術へ移行していた。
閃と音は再び翼を狙う機を伺う。
だが——
切断されたはずの尻尾と翼が、独立したかのように動き始めた。
「遠隔操作……!?」
怜が息を呑む。
巨大な尻尾が蛇のようにうねり、レンゴクとシラユキを叩きつける。
同時に、分離した翼は刃のように回転し、バサラヲとツムギへ襲いかかった。
吹き飛ばされるバサラヲとツムギ。
落下するバサラヲへ、翼が追撃する。
「閃くん!!」
だが、その刃は——
バサラヲに触れる寸前で、止まっていた。
いや、“止められていた”。
◆
(……!?まさか!!)
閃は上空を見上げる。
そこにいたのは——エンプティアだった。
ラフティアの翼を拘束していたのは、イノだった。
「イノ……!」
閃との戦闘で気を失っていたはずのイノ。
だが、サムの禍々しいエーテルを感じ取り、目を覚ましたのだ。
エンプティアは静かに動き出すと、止めていた翼をブレードで真っ二つに切断した。
4人が息を呑む。
イノはゆっくりと口を開く。
「サム……聞こえるかな? この戦い……もう、ボクらの負けだよ」
その言葉を、ファクターズは黙って聞いていた。
ラフティアも、動きを止めている。
「イノの言葉……届いてんのか……?」
烈が呟く。
だが次の瞬間、ラフティアは再び構え、今度はエンプティアを狙った。
(サム……大丈夫だからね。ボクも一緒だから。キミを1人になんか……しない)
静かな覚悟。
その思いも、音は感知していた。
(イノくん……サムと一緒に死ぬ気なんだ……!!)
音は悟ってしまった。
エンプティアがブレードを展開。
高速斬撃をラフティアへ浴びせていく。
ラフティアも激しく抵抗していた。
止められない。
止める術がない。
(2人が傷つけ合うなんて……!!)
(せめて……せめてサムを、少しでも楽に……)
音は、強く願った。
その瞬間——
ツムギから、柔らかな光の粒子が溢れ出していた。




