第6話「解放」
閃とイノ、怜とアークがそれぞれ激突している頃――
烈とクリスもまた、激闘を繰り広げていた。
クリスの属性は“水”、対する烈は“炎”。
そして天候は大雨。
閃や怜とは違い、烈にとっては明らかに不利な条件が揃っていた。
それでも――烈は、クリスとの対決を望んだ。
烈の意思を尊重しつつ、閃はイノを倒し、すぐに援護へ向かう予定だった。
だが現実は、予想以上にイノに苦戦を強いられていた。
◆
セレティアの容赦ない連撃が、レンゴクを襲う。
クリスは《アクアオーラ》を展開。
巨体に似合わぬ俊敏さで、セレティアはレンゴクを追い詰める。
(防戦一方だな……!!だが!!)
烈はレンゴクの右腕に炎のエーテルを集中させた。
「《爆炎拳》!!」
炎を纏った右ストレートが、セレティアの腹部に直撃。
その瞬間に爆発が起き、セレティアは大きく吹き飛ばされ、山肌に激突した。
「《大炎剣》!!」
続けて炎の大剣を構え、斬りかかる。
(器用な奴だ……)
クリスは冷静に水のエーテルを両手に集中。
迫る《大炎剣》を白刃取りし、受け止めた。
そのままウィングを噴射し、体勢を立て直しながらレンゴクを突き飛ばす。
烈は空中で姿勢を整え、綺麗に着地、同時に《大炎剣》を消した。
「……随分と余裕だな」
「……余裕だと?」
「さっきの一太刀、迷いが見えていた」
クリスは淡々と告げる。
「この後に及んでまだ、“助ける方法”など探っているんじゃないだろうな?」
「……」
図星だった。
「ハッキリ言おう。無駄だ」
「クリス……!」
「本当に助けたいなら、ここで殺されるか? その後、俺はお前の仲間も全員殺す。文字通り、俺たちは全員“助かる”」
脅しではない。本気だ。
「……テメェ、何寝ぼけたこと言ってやがる……」
烈の声が低く唸る。
「俺の仲間を……“殺す”だと……?」
レンゴクの身体から、わずかに光の粒子が溢れる。
「させる訳、ねぇだろうが!!!」
叫びと同時に、光が爆発的に噴き出した。
◆
「新井くん……!!ついに……!!」
モニターを見つめるクレアの瞳に涙が浮かぶ。
「烈くんは、本来ならもっと早く“完全同調”を起こせていたかもしれない」
松永が静かに言った。
「……彼の優しさが、ブレーキになっていたんです」
牧が続ける。
閃と怜が先に辿り着けたのは、才能の差ではない。
“アクセルを踏んだか、ブレーキを踏んだか”の違いだった。
そして今、烈は迷いを断ち切った。
仲間を守るために。
◆
明らかな変化を遂げたレンゴク。
だが、クリスは動じない。
「やっと迷いが晴れたか。最初からそれで来い」
セレティアは両腕の大砲を展開し、巨大なエーテル弾を放つ。
レンゴクは、避けない。
咆哮ポートから響く反響音。
その音波だけで、エーテル弾を弾き飛ばした。
「すごい……!!」
クレアが息を呑む。
クリスは冷静に水のエーテルを集中させ、《アクアブラスト》を発射。
通常のエーテル弾を遥かに凌ぐ威力。
対してレンゴクの全身に炎を集中させ、烈は《大炎嵐》を使用した。
熱の暴風が広範囲に放たれ《アクアブラスト》も、《アクアオーラ》も、雨粒さえも――全てを一瞬で蒸発させた。
「決着だ……」
烈はレンゴクをビーストスタイルへ変形させ、炎を極限まで高める。
クリスは即座にウィングを全面展開し、《アクアスフィア》で全身を覆う完全防御形態をとった。
(……前にもあったな。この状況)
クリスは、ファクターズとゼクストの2度目の戦闘を思い出していた。
状況は全く同じ。
しかし、あの時より、数倍の衝撃が来るだろう。
「行くぜ……!!」
「来い……」
次の瞬間、凄まじい衝撃波が一面に広がった。
——勝負は、ほぼ一瞬だった
“完全同調”状態のレンゴクが、セレティアを完全に圧倒していた。
(やるじゃないか……烈)
烈はさらに両腕のクローを押し込んだ。
(クリス……!!すまねぇッ……!!)
そして——
レンゴクのクローは、セレティアを貫いた。
大雨の中、静寂が落ちる。
胴体を貫かれながら、セレティアは立っていた。
すでに光を失ったレンゴクも、動かなかった。
烈の目からは、涙が溢れていた。
◆
(何も見えない。感じない……でも、怖くない。むしろ、心地いい)
(死んだのか?俺は)
(……これが死か。フッ……なるほど、悪くないな)
(……今、俺は笑ったのか?)
(それにしても、心地いい。こんなに心地いいのは、どれくらいぶりだろう……)
(……そこに、誰かいるのか?)
(……あいにく、何も見えなくてね)
(……そうか。アークか……)
(お前も来たのか……)
(……どっちが先でもいいだろう、この際……フフッ)
(あぁ……それにしても、本当に心地がいい、な……)




