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エーテルコード  作者: エトコッコ
第7章:宿命

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第5話「聖戦」


エンプティアはブレードを振りかざし、高速で接近する。


閃はそれを受け止めず、死角を取るように回避した。


イノの念のスキルは、視界に捉えられた瞬間に動きを止められてしまう。


真正面からの応酬は、分が悪い。


イノはすかさず《念動》を発動。


周囲の泥岩をまとめて持ち上げ、バサラヲへと放った。


大雨で地盤は緩みきっているため、少ないエーテル消費でも十分な質量を飛ばせる状況だった。


(ダメージよりも、泥による視界と機動力の低下が目的か)


閃は瞬時に察し、《電壁》を展開。


飛来する泥岩を弾き飛ばす。


直後、イノは上空へ跳び、《念弾》を連続で放った。


無色透明の念の塊が、変則的な軌道を描きながらバサラヲに襲いかかる。


閃は次々と回避するが、《念弾》はどこまでも追尾してきた。


閃は《雷散》を放ち迎撃。


雷が命中し、《念弾》の動きは止まった。


だが、その内部で雷のエーテルを吸収し、逆に跳ね返してくる。


反射された雷は、バサラヲの足元へ落下。


一瞬、体勢が崩れた。


その隙を逃さず、イノの《念動》が、バサラヲを完全に拘束した。


「ぐっ……!!」


雷を操る閃にとって、電撃そのものは脅威ではない。


反射されてもダメージはないと、油断していた。


だが狙いは“足元”。


攻撃を利用して隙を作るための一手だった。


「閃……!!」


エンプティアが再びブレードを構え、一直線に突撃する。


――その瞬間


死角から、雷が直撃。


「うわぁ!!」


エンプティアの機体が揺らぎ、拘束が解けた。


閃は《雷導》を発動していた。


雨粒を媒体に雷を流し、見えない経路から放ったのだ。


雨は閃にとって有利な天候でもある。


エンプティアは即座に距離を取る。


閃は刀へ雷のエーテルを込め、力強く振り下ろした。


「《雷刃波斬らいじんはざん》!!」


雷の斬撃が雨を裂き、超高速で迫る。


イノは間一髪で回避するが、エンプティアの右翼がいくつか切り裂かれた。


(……やっぱり凄いよ、閃は)


イノの口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。



海岸付近では、シラユキとドレティアが激しくぶつかり合っていた。


「《雹天下ひょうてんか》」


雨粒を瞬時に氷の礫へと変え、敵へと叩きつける怜の新スキルだ。


雨の日限定にはなるが、自然の雨を利用することで、エーテル消費は少なく威力は高い。


だが相手は炎を操るアーク。


「しゃらくせぇ!!」


《フレイムオーラ》がドレティアを包み込み、《雹天下》は瞬時に無効化された。


しかし、怜は冷静だった。


狙いはエーテル切れ。


ドレティアのデーモンウィングは分裂し、蛇のような軌道で襲いかかる。


シラユキは、一定の距離を保ちつつ華麗に攻撃を避け続けた。


「コイツ……掴まれないよう徹底してやがるな!!」


近接と拘束はドレティアが圧倒的に有利。


ドレティアの間合いでは、シラユキに勝ち目はないだろう。


「エーテル切れねらってんだろ!?そうはさせねぇ!!」


デーモンウィングに加え、2本腕も伸ばす。


しかし、それまで回避に徹していた怜は構えを変えた。


「《氷鎌ひょうれん》」


ジャベリンの先端に禍々しい氷の鎌が形成され、伸びた腕を瞬時に切断した。


回避に徹していたのは、反撃の機を窺うためでもあった。


「やるじゃねぇかよ……」


——次の瞬間


地面を突き破り、残りの腕がシラユキの足を掴んだ。


そしてウィングも四肢を拘束、さらにドレティア本体も組み付いた。


「このまま締め潰してやるぜ……!!」


アークの炎の熱気がコクピットにまで伝わる。


(私は……負けない!!)


ドレティアの炎がわずかに弱まった、その一瞬の隙を逃さず、怜は《氷結》を発動した。


足元に、透き通る氷の道が瞬時に形成される。


氷が溶かされる前に、シラユキはドレティアごとその道へと押し込み、エーテルを勢いよく噴射させた。


まるで滑走路を駆けるかのように、2機は一直線に滑走する。


「チィッ!!火力が……!!」


アークは叫びながら、滑っていく先を見据えた。


そこは、海だった。


もし海へ落とされれば、アークの炎のスキルは封じられたも同然。


それは同時に、怜にとって決定的な優位を意味していた。


アークは一度シラユキから距離を取ろうとするが、逆にシラユキが強く組み付かれ、逃げられない。


——そして


2機は、そのまま海へと落下した。



シラユキは、そのままドレティアを深海へと押し込んでいく。


怜はアークに淡々と告げた。


「……あなたの、負けよ」


「……」


アークは何も答えない。


(こうなっちまったら、どうしようもできねぇな……)


わずかな沈黙ののち、怜が再び口を開く。


「……違う道は、本当に無いの?」


「なんだぁ?やっぱオメーも甘ちゃんだな」


アークは吐き捨てるように言った。


怜は、黙ったままだった。


(もう、アレしかねーな)


アークは覚悟を決める。


「よォ、怜。お前なんか勘違いしてんじゃねーか?」


「え……?」


「何もう“勝った気”でいるんだよ」


その瞬間、ドレティアが再びシラユキに組み付いた。


「!?」


怜の目が見開かれる。


「オメーは……死ぬんだよ。ここで、オレとな!!」


その言葉と同時に、怜の脳裏に閃の声がよぎった。


『ゼクストは……間違いなく、“切り札”を持ってる』


(しまった……!!)


怜は必死にドレティアを引き剥がそうとする。だが、びくともしない。


怜は《氷結》を発動し、自身ごと氷漬けにした。


アークは目を閉じ、エーテルを体内へと集中させる。


水中にもかかわらず、怜の氷が徐々に溶け始めていく。


さすがの怜にも、焦りが浮かんでいた。


シラユキのモニターに映し出されたのは、ドレティアではない。


アーク個体に対する、異常なまでの熱源反応。


(ま、まさか……!!)


怜は悟った。


アークが何をしようとしているのかを。


(オレもドレティアもここで終わりだ……。へっ、ザマー見ろ、クソジジイ。お前の言いなりになんか……なる……かよ)


薄れゆく意識の中、アークは思う。


(クリス、サム、イノ……お前らは……生き残れよ)


——そして


アークは、機体もろとも自爆という選択を取った。


《ファイナル・ジハード》。


それが、彼女の最後のスキルだった。


爆発はシラユキを飲み込んだ。


その威力は、かつて廃止された“核”を彷彿とさせるほどだった。


深海であるにもかかわらず、その衝撃波は数キロにわたって広がっていった。



その状況をモニター越しに見ていた、リオ、カリン、クレアらオルフェ職員たち。


「……嘘でしょ……怜……?」


呆然と呟くリオ。


カリンや牧も、言葉を失う。


「そんな……そんな……!!」


クレアと松永は涙をこぼしていた。


「……!?待って!!」


何かに気づいたカリンが声を上げた。


モニターには、怜とシラユキの反応が、数キロ離れた陸地にあった。


あの大爆発から、逃れていたのだ。


映し出されたシラユキは光の粒子に包まれている。


爆発の瞬間、“完全同調”を再び引き起こしていた。


そして衝撃波から、超高速で離脱していたのだ。


職員たちがロストと誤認したのは、その速度があまりにも速すぎて、オーキュラムですら反応が追いついていなかったからだった。


「怜!!大丈夫!?」


真っ先にカリンが呼びかける。


「……なんとか」


その声が届いた瞬間、リオはカリンに抱きついた。


「よかった……!!もーびっくりさせないでよ!!」


クレアは涙を浮かべたまま、笑っていた。


「怜、早く帰還して!!」


リオが言う。


だが、怜は静かに答える。


「まだです。まだ終わってません」


「もう十分よ、怜!完全同調はもう切れてる!!」


松永が叫ぶ。


先程までの光の粒子は消えていた。


「そうよ!もう満身創痍じゃない!」


クレアも続ける。


「……ごめんなさい」


そう告げると、怜は音の発生源へと向かった。


(閃……烈をお願い)


心の中で、そう願いながら。

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